表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/20

第13話 本物を名乗る令嬢の紋章花

春花博覧会の予告刷りが王都から届いた日、私は思わず紙を机へ叩きつけそうになった。


 最終頁の特集欄に、こうある。


『王家紋章花を蘇らせた本物の令嬢、リディア・ブルーメ』


 令嬢。しかも本物。婚約や席を奪うだけでは足りず、今度は育種家の血筋まで欲しがるのか。


 私は急いで母の書簡箱をひっくり返した。花名札、交配覚え書き、乾いた押し花。だが血筋を証するような書類は見当たらない。


「探し物か」


 レオンハルトが戸口から声をかける。私は予告刷りを見せた。


「母の名まで、都合よく使うつもりらしいんです」


 彼は紙面を一読し、すぐに執務棟へ向かった。半刻後、戻ってきた彼の手には古い革筒がある。


「先代侯夫人の遺品だ」


 中に入っていたのは、黄ばんだ契約書だった。二十年以上前、北辺侯家と王宮温室の間で交わされた試験栽培契約。署名欄には母の名と、幼い頃の私の名が追記されている。


『真正株管理責任者、長女エルザへ継承』


 目の前が一瞬ぼやけた。母は、ちゃんと残していた。私が大きくなった時に渡すつもりだったのか、それとも北辺へ預けていたのか。事情はわからない。でも名は確かに私へ継がれている。


「どうしてこれがこちらに」


「先代侯夫人が、王都を信用しなかったからだろう」


 静かな答えだった。私だって今ならわかる。見た目の良さだけで花も人も選ぶ場所に、真正株の記録を丸ごと預けるのは危うい。


 契約書の後ろには、母の短い書き付けもあった。


『リディアには美しさがある。エルザには記録を守る手がある。どちらが欠けても花は続かない。でも片方が片方を踏み台にしたら、その家は終わる』


 私は紙を握り締めた。母は義妹まで責めていない。ただ境界線を書いていたのだ。


 夕方、グレタたちに事情を話すと、皆が驚くより先に怒った。


「本物を名乗るなら、まず台帳を書いてみろって話だね」


「播種日も覚えてない人が?」


 ハンネスが呆れ、私は少し肩の力を抜いた。


 これで王都へ持っていく札がひとつ増えた。納品帳だけではない。母から私へ継いだ管理権の証。


 夜、私は契約書を防水布で包み、台帳箱の一番下へしまった。もう奪わせない。今度こそ、誰にも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ