表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/20

第11話 王宮温室の裏納品帳

旧納品控えを読み込むほど、数字は雄弁になった。


 観賞用白花として北辺から出た苗の数と、王都で紋章花用に消えた種子箱の数がぴたりと合う。しかも輸送費の決裁印は、王宮園芸局ではなく博覧会準備棟の仮勘定だ。


「正式に通せない費用を、展示予算で隠したのね」


 私は帳面へ赤い付箋を立てた。


 その夜、王都に残してきた古い知人から返書が届いた。園芸局の会計補助だった女性で、私が退職同然に出されたあとも帳簿だけは気に掛けてくれていた。


『春花博覧会の準備棟で、白い苗が夜だけ搬入されています。管理責任者欄にはリディア嬢の名。ですが育成記録の提出はなし』


 これで裏が取れた。


 私は北辺温室の作業机に、王都と北辺の帳面を横並びにした。種子番号、鉢番号、搬入日、品種偽名。違う帳面同士の数字が噛み合った瞬間、嘘は急に薄っぺらくなる。


「眠っていないな」


 いつの間にか、レオンハルトが戸口に立っていた。夜の温室は暗い。けれど彼は灯りを増やせとは言わず、静かにランプをもう一つ置くだけだ。


「眠る前に、数字を並べたかったんです」


「並んだか」


「ええ。かなり綺麗に」


 私は帳面を彼に向けた。数字の説明をすると、彼は一度で理解した。話の飲み込みが早い人は好きだ。余計な疑いから入らないなら、なおさら。


「王都は、君の北辺試験株を盗んで紋章花に仕立てた」


「しかも咲かせた功績まで義妹へ載せるつもりです」


「本当に欲しいのは花か、それとも名前か」


 その問いに、私は少しだけ考えた。


「両方でしょうね。でもリディアが欲しいのはたぶん、花を咲かせられる人間としての顔です」


「君の顔だな」


 短い断言だった。慰めでも励ましでもなく、事実として置かれる言葉は不思議と効く。


 私はランプの火を見つめた。


「王都では、私はいつも裏方でした。種を数えて、札を書いて、咲いた花の後ろに立つ役」


「裏方がいなければ花は咲かない」


「知っていても、表へ出る人はそう言ってくれません」


 レオンハルトは少し黙り、やがて言った。


「では、今回は表で言わせる」


 私は顔を上げた。彼はすでに決めている目をしていた。


「北辺侯家名義で、博覧会へ出品申請を出す」


「間に合いますか」


「間に合わせる」


 無茶な返答なのに、彼が言うと現実味がある。


 王都の招待席へ座るだけでは終わらない。北辺の温室が、正式に競り合う場へ出る。


 その時初めて、私の胸に火が灯った。怖さではなく、勝ちに行くための熱だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ