ノエル
「フィオラレーヌお嬢様。大変お待たせいたしました。準備が整いましたよ」
「お、お嬢様。本日からお仕えさせていただきます」
モルガンに背中を押されて前に出てきた男の子は、先程とはまるで別人だった。
きちんとした執事服に身を包み、白銀の髪は柔らかく光を透かし、まつ毛に縁どられたグレーの瞳は、さながら宝石箱のように、角度や光によってキラキラとした輝きを見せている。
白い肌に、バランスよく収まるパーツが美しい。
「…」
メイドたちが息を飲む音が聞こえた。
「…まぁ。なんて美しい色でしょう。白銀の髪色なんて初めて見ましたわ。それにその瞳…まるで宝石箱のようで、見ているだけで幸せな気持ちになりそうですわ」
メイドたちが無言で頷く。
「君は…この色が嫌じゃないの? 」
はっと目を見開きながら少年が口を開く。
「嫌…?どうしてそんなことを思いましょう。こんなにも美しいではありませんの」
この世界では疎んじられている色かなにかなのだろうか?
横目でメイドたちを見ると、みんな首を傾げている。
どうやらこの世界の常識などでは無さそうだ。
「…そっか。……ありがとう」
はにかみながら首を傾げて笑う少年の破壊力は凄まじかった。
メイドたちの数人が、顔を真っ赤に染めている。
普段この部屋の管理が主で、お兄様で耐性の付いていないメイドたちだ。
「わたくしはただ思った事を言っただけですわ。お礼を言われる様なことは言っておりません」
微笑みながらそう返すと、何故だか少し驚かれた。
「それでは……あなたのお名前を伺っても? 」
「…ノエル」
「ノエル。あなたはノエルと言うのね。 これからよろしくお願いいたします。ノエル」
微笑んで手を差し伸べれば、はにかみながら握手を返してくれた。
「それでは、ノエルに仕事についてお話しなくてはならないわね」
きちんとした待遇の職場だという事を証明しなくては。
「仕事内容は、主に私の世話かしら。執事の仕事について、詳しくはモルガンに聞いてちょうだい。それから、あなたの衣食住はこちらが保証するわ。1日3食でおやつ付き。住み込みで個室があるわ。お給料もしっかり出るから安心なさって。金額についてはお父様やモルガンから言われると思うわ」
ざっとこんなものだろう。
「何か質問はあるかしら? 」
「大丈夫。君…お嬢様には無いです」
「そう。それではあとはモルガンに聞いてちょうだい。これからよろしくお願いしますね、ノエル」
「…うん。よろしくお願いします、お嬢様」
はにかみながら握手をしてくれた。可愛い。
「フィオラレーヌお嬢様、しばらくの間、ノエルの執事教育の為にわたくしめもお嬢様に付きましょう。ずっと付きっきりで居られるわけではございませんが、よろしいでしょうか」
「まぁ。モルガン、どうか無理をなさらないで。とても嬉しいのだけれど、あなたは忙しいでしょう? できる時だけでいいのよ」
「お心遣い痛み入ります。無理のない程度に、しっかり努めさせて頂きます」
モルガンがそうやって教育してくれるのなら、ノエルはきっととてつもなく優秀な執事になるだろう。安心だ。
……ん?まって。確かゲームには隠しルートで姉姫の元執事が居た気がする。……もしかして、ノエルかしら。
まぁあまり気にせずに居てもいいかもしれない。そんなことを考えるのはなんか違う気がする。
ちゃんと一人の人間として向き合わなければ。
どうせヒロインもそのうち出てくるでしょうし…私も意地でも死なないから、未来はゲームの時とは違うはず。
ちらりと横目でノエルを見る。
緊張した面持ちでモルガンの傍に控えている。
先程とは打って変わって、清潔感があり、本来の美しさが発揮されている。瞳もキラキラと輝いていた。
私はそっと微笑んだ。
窓から差し込む、柔らかな光があたたかかった。
読んでくださってありがとうございます!
更新速度がコタツムリで申し訳ないです。沢山の反応もとても励みです!本当にありがとうございます。良いお年を。




