神殺し
何もなかった。
真っ白な中に、曖昧な笑みを浮かべた優しげな男がポツンと立っていた。
「フフ。モウ、ココニ来マシタカ。思ッタヨリモ早カッタデスネ。」
右手には片刃の剣が握られていた。
ここは、神の領域だ。ならば、僕が以前出会った老人がいなければおかしい。
「やっと会えたな、神とやら。」
魔王が男にそう告げる。
ということは、本当にこの男が神だとでもいうのだろうか。
「マァ、私ハ会イタクナカッタンデスケドネェ。トイウカ、変ナトコロデ優秀デスネ、貴方ハ。」
魔王と神が会話をしているが、僕は一言も発していなかった。
神の目が僕を貫いた。
「オ久シブリデスネェ。トハイエ、貴方ト本当ノ姿デ会ウノハ初メテデスガネ。」
僕は、その言葉と共に放たれた殺気に、思わず刀を握ってしまう。
何時でも抜刀できるように、程よく力を抜く。
魔王や勇者でも倒せないのだ。僕が一瞬でも気を抜けば、命はないだろう。
「ソンナニ気合イヲイレテルト、疲レチャウト思イマスヨォー。マァ、ソレハソレデ好都合ナノデスガネェ。」
その言葉とは裏腹に、神は殺気を抑えようともしない。どころか、少しずつ、殺気が強くなってきている気さえする。
「僕は、貴方を殺しに来ました。茜が泣いてしまう未来を作らぬ為に。僕は貴方を討ちます。」
僕は、ふぅぅと息を吐き出すと同時に、体の全ての力を爆発させる。
体の中を巡る魔力を。
体の中心に固まる気を。
音すら聞こえぬ程に研ぎ澄まされた刃が、神の髪を数cm切り落とす。避けきれたと思っていたのか、神が驚愕の表情で僕を見ていた。
と同時に、神が右手に持つ剣を無造作に振る。僕はそれをバックステップで避けると同時に、鎌鼬を放つ。
一瞬、神の姿が霞む。鎌鼬は神を通り抜け、スゥッと消える。
再度、神の姿が霞んで僕の眼前に現れた。そのままの勢いで放たれた横一線に僕は刀を叩きつけて後ろに下がる事で回避する。
現実の刀でやっていれば、もう既にボロボロであろう。しかし、使っているのは神器である。ボロボロになど、なるはずもない。
更に追撃を掛けてくる神に、僕は防戦一方になる。確かに、魔王や茜に比べても、段違いに強い。しかも、それを無造作にやってくるのだ。
これで剣術でも学ばれていたら、太刀打ちできなかっただろう。
神は、多少の攻撃を受けても構わないが、僕が一撃でも受けてしまえば大変な事になる。
僕は、魔王にそう告げられていた。
神の世界とは精神世界とでもいうべき場所であり、そこで受けた攻撃はそのまま精神へと攻撃を与える。それは、ここで攻撃を受ければ精神が傷ついてしまう事を差す。
ということは、多少の攻撃で僕の精神は死にかねないのだ。
僕は神の攻撃を避け、防ぎ、受け流す事で攻撃を一つも受けないようにしていた。
しかし、そんな時に転機が来た。
それは、一瞬の隙とでもいうべきモノだ。僕の刀が放つ剣への一撃が思ったよりも力が強かったのか、神がバランスを崩したのだ。
僕は右手で握った刀を左上から右下に振り下ろそうとした。
何かの影が、神と僕の間に現れる。
「ダメ!」
僕は、その影が茜だと気付いた瞬間に、刀から手を離していた。
右手の勢いをそのままに、茜の体を脇に抱えるように抱く。左手で、右手に遅れてついてきている刀を握り、体を弓なりに引いたそのバネの反射の力を使って突きを放つ。
その突きが、神の心臓辺りに突き刺さると同時に、腹部に鋭い痛みを感じた。
「フフフ。茜君ノオ陰デ、飛鳥君ニ反撃出来マシタ。因果ナモノデスネェ。ソウ思イマセンカ?飛鳥君?ソレト、茜君、貴方ニ伝エテイタ私ノ発言ハ、全テ戯言デスヨ。貴方ハ、貴方ノ勘違イデ、貴方ヲ救オウトシタ人ヲ殺スノデス。」
僕は、それ以上続けようとした神を袈裟斬りに斬りつけた。
最後まで皮肉気に笑っていた神が気にくわないが、もう命を落としただろうと、僕は神を見る。
体は再生せず、光を放ちながら、神の体が消えていった。
それと同時に、僕と茜の体が薄くなり始める。
ブンと音がして、目の前にとあるメッセージが現れた。それを見た僕は笑ってしまった。そこに4つの名を書き込んだ僕は、ふと魔王を見る。
涙目で僕に手を振る魔王に、バーカと口パクで伝える。
もう、声も出せない程に、腹部が痛かった。
次で終わりです。
ちなみに、コレを元にもう一度書き直そうと思っています。
完結に時間がかかりましたが、次話で終わりだと思うと嬉しいです。
読んでくれた方は少なかったですが、書いてる僕は楽しかったです。




