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さよならを、先に言われた  作者: ニィギンヤ


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4/5

さよならを、先に言われた理由

 思い返せば。



 最初から、全部おかしかった。



 初対面のはずなのに距離が近くて。



 知らないはずのことを知っていて。



 俺が覚えていないことを、当然のように受け入れていて。



 そして何より。



 ずっと。



 どこかで終わりを知っているみたいだった。



「……もう、隠しても意味ないね」



 少女が言う。



 静かに。



 いつもの軽さはない。



 少しだけ、諦めたような声だった。



「何を」



 聞く。



 分かっている。



 もう、聞くしかない。



 逃げる理由はない。



 逃げても意味がない。



 少女は、少しだけ空を見て。



 それから。



 俺を見た。



 まっすぐに。



「私、未来から来たの」



 ——。



 思考が、一瞬止まる。



 だが。



 なぜか。



 驚きは、そこまで大きくなかった。



 むしろ。



 “やっぱりか”という感覚の方が近かった。



 それくらい、



 ここまでの流れは現実離れしていた。



「未来って……どのくらい先だよ」



 とりあえず聞く。



 具体性が欲しかった。



 何か一つでも、現実に引き戻せる材料が欲しかった。



「そんなに遠くないよ」



 少女は言う。



「でも、十分遠い」



 曖昧である。



 非常に曖昧である。



 だが。



 今はそこじゃない。



 問題は。



 その“未来”で、何があったのかだ。



「……なんで来た」



 短く聞く。



 核心。



 これが一番重要だ。



 少女は、少しだけ視線を落として。



 それから。



 小さく息を吐いた。



「さよならを、言うため」



 ——。



 その言葉は。



 やけに、静かだった。



 でも。



 やけに、重かった。



「……は?」



 思わず声が出る。



 理解が追いつかない。



 いや。



 理解したくない。



「未来で、私たち」



 一拍。



「ちゃんと別れてないの」



 続ける。



 淡々と。



 感情を抑えるみたいに。



「別れてないって……どういう意味だよ」



 聞く。



 分からないままにはできない。



 これは。



 ちゃんと聞かなきゃいけない。



 そんな気がした。



「悠斗が、忘れたの」



 ——。



 またそれだ。



 “忘れる”。



 この世界の、代償。



 そして。



 ずっと引っかかっていた言葉。



「全部じゃない」



 少女が続ける。



「でも、一番大事なとこだけ」



 静かに。



 でも確実に。



 胸に刺さるように。



「私のことを、忘れた」



 言い切った。



 はっきりと。



 逃げずに。



 その瞬間。



 何かが、繋がる。



 今までの違和感が。



 全部。



 一本に。



「……だから、覚えてないのか」



 呟く。



 自分でも分かるくらい、声が低かった。



「うん」



 少女は頷く。



「だから、来た」



 もう一度言う。



「ちゃんと、終わらせるために」



 その言葉は。



 優しくて。



 残酷だった。



「終わらせるって……」



 言葉が続かない。



 分かっている。



 でも。



 認めたくない。



「このままだと」



 少女が言う。



「ずっと中途半端だから」



 少しだけ笑う。



 でもその笑顔は。



 最初のものとは違う。



 無理に作ったみたいな。



 そんな笑い方だった。



「……意味分かんねえよ」



 思わず言う。



 抑えきれなかった。



「なんでわざわざ来てまで別れるんだよ」



 当然の疑問だ。



 普通は逆だろう。



 未来から来るなら、



 変えるためだろう。



 やり直すためだろう。



 それなのに。



「なんで終わらせに来るんだよ」



 声が少しだけ強くなる。



 自分でも分かる。



 感情が乗っている。



 少女は。



 少しだけ、目を細めて。



 それから。



 静かに言った。



「じゃないと」



 一拍。



「また同じことになるから」



 ——。



 理解する。



 完全ではない。



 でも。



 十分に。



「……繰り返してるのか」



 呟く。



 確認するように。



「うん」



 少女は、あっさり頷いた。



「何回も」



 続ける。



「出会って」



「好きになって」



「最後に、忘れて」



 淡々と。



 事実を並べるみたいに。



「それで終わり」



 ——。



 言葉が出ない。



 何も。



 ただ。



 胸の奥が、



 じわじわと重くなっていく。



「だから今回は」



 少女が言う。



 少しだけ強く。



「ちゃんと終わらせる」



 その目は。



 覚悟を決めた人間の目だった。



 逃げない。



 揺れない。



 そんな目。



「……ふざけんなよ」



 気づいたら、言っていた。



 止められなかった。



「そんなの、勝手すぎるだろ」



 当たり前だ。



 こっちは何も知らない。



 何も覚えてない。



 それなのに。



 いきなり来て、



 全部決めて、



 終わらせる?



 そんなの。



 納得できるわけがない。



 少女は。



 少しだけ目を伏せて。



 それから。



 小さく言った。



「……ごめん」



 その一言が。



 やけに重かった。



 軽く言ったわけじゃない。



 本気で。



 本当に。



 謝っている声だった。



 だからこそ。



 余計に、何も言えなくなる。



 その時。



 風が吹いた。



 少し強めの風。



 景色が、揺れる。



 色が。



 さらに薄くなる。



 空も。



 地面も。



 全部。



「……時間、ないんだよね」



 少女が言う。



 少しだけ遠くを見ながら。



 その声は。



 最初よりずっと、



 静かだった。



 そして俺は。



 ようやく理解する。



 これは。



 ただの出会いじゃない。



 ただの別れでもない。



 これは——



 何度も繰り返してきた、最後のやり直しだ。



 そして。



 次に来るのは。



 たぶん。



 選択だ。



 逃げられない。



 選ばなきゃいけない。



 そんな予感がした。

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