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さよならを、先に言われた  作者: ニィギンヤ


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3/5

知っているはずのないこと

 違和感というのは。



 小さいうちは、無視できる。



 というか。



 無視してしまう。



 面倒だからだ。



 考えるのが。



 理解するのが。



 そして何より、



 「分かってしまうこと」が怖いからだ。



 だから人は、



 見て見ぬふりをする。



 俺もそうだった。



 昨日までは。



「ここ、覚えてる?」



 少女が言う。



 歩きながら。



 何気ない調子で。



「いや、来たことないけど」



 正直に答える。



 事実だ。



 この道を通るのは初めてだし、



 この景色にも見覚えはない。



 だが。



 少女は、少しだけ不思議そうな顔をした。



「そっか」



 それだけ言って、



 前を向く。



 納得したのか、していないのか。



 分からない。



 ただ一つ言えるのは、



 今の反応は、“予想外”だったということだ。



 つまり。



 少女の中では、



 俺はここを“覚えているはず”だった。



 そういうことになる。



 おかしい。



 普通に考えて、おかしい。



 だが。



 ここで「おかしい」と思っている時点で、



 もう遅いのかもしれない。



 最初から、全部おかしかったのだから。



「ねえ」



 少女が言う。



 少しだけ振り返って。



「今日はどこ行きたい?」



 質問。



 だが。



 どこか違和感がある。



 なぜか。



 この質問をされるのが、



 初めてじゃない気がした。



 そんなはずはないのに。



 記憶にないのに。



「……どこでもいいけど」



 曖昧に答える。



 すると少女は、



 少しだけ困ったように笑った。



「それ、前も言ってた」



 ——。



 止まる。



 思考が。



「前?」



 聞き返す。



 確認のために。



 重要なプロセスだ。



「うん、前」



 軽く頷く。



 当たり前みたいに。



 だが。



 当たり前じゃない。



 少なくとも俺にとっては。



「いや、初めてだろ」



「そうだね」



 即答。



 矛盾している。



 完全に。



 だが少女は、



 それ以上説明しようとしない。



 いつも通り。



 それが余計に、



 不気味だった。



「……なあ」



 俺は言う。



 少しだけ真剣に。



「俺たちって、前に会ったことある?」



 核心。



 逃げない。



 もう無視できるレベルじゃない。



 これは。



 ちゃんと聞くべきだ。



 そう思った。



 少女は、足を止める。



 ゆっくりと。



 振り返る。



 そして。



 少しだけ。



 本当に少しだけ。



 困った顔をした。



「……あるよ」



 小さく言う。



 はっきりと。



「でも、悠斗は覚えてない」



 続ける。



 静かに。



 優しく。



 まるで、



 それが当然みたいに。



 ……いや。



 待て。



 待て待て待て。



 おかしい。



 完全におかしい。



「なんで覚えてないんだよ」



 思わず聞く。



 当たり前の疑問だ。



 すると少女は、



 一瞬だけ、視線を逸らして。



 それから。



「……忘れたから」



 答えた。



 短く。



 それだけ。



 それだけなのに。



 やけに重かった。



 その言葉が。



 空気が。



 全部。



 その時。



 ふと気づく。



 周りの景色。



 色。



 音。



 全部が。



 少しだけ、



 薄くなっている。



 昨日よりも。



 確実に。



「……なあ」



 声が、少しだけ震える。



 自分でも分かるくらいに。



「これ、なんなんだ?」



 聞く。



 もう一度。



 逃げない。



 逃げられない。



 少女は、少しだけ黙って。



 それから。



 ゆっくりと、口を開いた。



「……もうすぐ分かるよ」



 またそれだ。



 “あとで分かる”。



 信用できない言葉。



 でも今回は。



 なぜか。



 本当にそうなる気がした。



 そして。



 それはきっと。



 いいことじゃない。



 そんな気もした。



 少女が、こちらを見る。



 まっすぐに。



 逃げずに。



 そして。



 ほんの少しだけ、



 笑った。



 でもその笑顔は、



 最初に見たものとは違っていた。



 明るくて。



 優しくて。



 でもどこか、



 終わりを知っている顔だった。



 その瞬間。



 俺は初めて。



 はっきりと理解した。



 これはただの出会いじゃない。



 ただの偶然でもない。



 そして。



 たぶん。



 このままじゃ、終わる。



 理由も分からないまま。



 何もできないまま。



 そんな予感がした。



 そして俺は。



 まだ知らない。



 この“終わり”が、



 自分の選択で決まることになるということを。

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