少しずつ、消えていくもの
結論から言うと。
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俺は今、
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知らない女の子と普通に一日を過ごしている。
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改めて言語化すると、かなりおかしい。
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だが現実である。
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否定のしようがない。
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そしてもっとおかしいのは——
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それが、思っていたよりずっと楽しいということだ。
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「こっち」
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少女が先を歩く。
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振り返りもせずに。
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迷いもなく。
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まるでこの街の地図を全部頭に入れているみたいに。
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「詳しいんだな」
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思ったままを口にする。
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「まあね」
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軽い返事。
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だが、その言い方が少しだけ引っかかる。
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“知っている”というより、
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“覚えている”みたいな響きだった。
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気のせいかもしれない。
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たぶん気のせいだ。
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そういうことにしておく。
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その方が楽だから。
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連れてこられたのは、小さな広場だった。
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噴水があって、ベンチがあって。
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人はそこそこいるけど、騒がしくはない。
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ちょうどいい。
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なんというか、
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“思い出にされそうな場所”だった。
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「ここ、好きなんだよね」
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少女が言う。
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少しだけ、柔らかい声で。
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「初めて来たけど、いいな」
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素直にそう思った。
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空気が、軽い。
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時間が、ゆっくり流れてる感じがする。
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「でしょ」
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少女が笑う。
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本当に嬉しそうに。
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その笑顔を見ていると。
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なんとなく。
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この場所が、もっと特別なものに見えてくる。
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単純だな、とは思う。
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でもまあ、それでいい。
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悪い気はしない。
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「ねえ」
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少女が言う。
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「何か食べよ」
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急である。
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だが。
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そういう流れなのだろう。
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この子はたぶん、そういうタイプだ。
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「いいけど、何があるんだ?」
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「あるよ」
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雑である。
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非常に雑である。
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しかし実際、少し歩いた先に屋台があった。
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パンとか、軽い軽食とか。
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甘いものもある。
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割と充実している。
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「はい、これ」
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気づいたら、手にパンを持たされていた。
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いつの間に買ったのかは不明。
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たぶん俺が考えてる間だろう。
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行動が早い。
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「ありがとう……って、金は?」
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「いいの」
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即答。
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迷いなし。
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「よくないだろ」
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「いいの」
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強い。
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こういうところは本当に強い。
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押し切られる。
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いつもなら抵抗するところだが。
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なぜか今日は、あまり逆らう気になれなかった。
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理由は分からない。
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たぶん雰囲気だ。
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便利な言葉である。
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雰囲気。
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大体のことはこれで片付く。
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「おいしい?」
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少女が聞く。
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パンを一口かじりながら。
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じっとこちらを見ている。
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「……うん、普通にうまい」
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「そっか」
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それだけで、満足そうに頷く。
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その様子が、少しだけ不思議だった。
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まるで。
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俺がどう感じるかを、確認しているみたいに。
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いや、気のせいだ。
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たぶん。
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そういうことにしておく。
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その方が楽だから。
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しばらく、何も言わずに座っていた。
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風の音。
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水の音。
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遠くの話し声。
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どれも、ちょうどいい距離にある。
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沈黙が、苦じゃない。
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むしろ心地いい。
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そんな時間だった。
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「ねえ、悠斗」
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少女が言う。
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少しだけ、真面目な声で。
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「もしさ」
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一拍、間を置く。
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「大事なものを一つだけ失う代わりに、願いが叶うとしたら」
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唐突である。
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だが、この子なら不思議でもない。
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むしろ自然な流れにすら思える。
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慣れてきている自分が怖い。
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「何を失うかによるな」
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無難な答え。
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現実的な思考。
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我ながら面白くない。
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だが嘘ではない。
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「じゃあ、記憶だったら?」
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軽い調子で言う。
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まるで、ただの雑談みたいに。
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でも。
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その目は、少しだけ真剣だった。
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「……やだな、それは」
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即答する。
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考えるまでもない。
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「なんで?」
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「だってさ」
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少し考えてから、言う。
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「覚えてないなら、叶ったことにも気づけないだろ」
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それじゃ意味がない。
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少なくとも、俺にとっては。
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すると少女は。
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一瞬だけ、言葉を止めて。
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それから。
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小さく、笑った。
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「そっか」
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その笑い方が。
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少しだけ。
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寂しそうに見えた。
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気のせいかもしれない。
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でも。
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なぜか、胸に引っかかった。
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その時。
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少女が、ふと空を見上げる。
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つられて、俺も見る。
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青い空。
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さっきと何も変わらない。
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はずなのに。
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なぜか。
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ほんの少しだけ。
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色が薄くなった気がした。
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「……あれ」
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思わず声が出る。
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「どうしたの?」
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「いや、今——」
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言いかけて、止まる。
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何が“変わった”のか。
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うまく説明できない。
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というか。
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何が変わったのか分からなくなっている。
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「……なんでもない」
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そう言うしかなかった。
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違和感はある。
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でも、それを掴めない。
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そんな感覚。
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その時。
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少女が、少しだけ遠くを見る。
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さっきまでの距離じゃない。
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もっと、遠く。
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どこか別の時間を見るみたいに。
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「……やっぱり、減ってる」
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小さく呟く。
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「何が?」
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聞く。
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当然だ。
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分からないままにはしておけない。
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すると少女は。
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少しだけ迷って。
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それから。
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いつも通りの顔に戻って言った。
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「内緒」
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終わった。
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情報が終わった。
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これ以上は出てこない。
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分かっている。
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分かっているが。
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納得はできない。
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しかし。
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それでも。
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なぜか。
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無理に聞こうとは思わなかった。
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代わりに。
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ただ、隣に座っている。
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それだけでいい気がした。
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理由は分からない。
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でも。
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たぶん。
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この時間は、
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あまり長くない気がしたから。
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そして俺は。
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まだ知らない。
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この“少しずつ消えているもの”が、
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何なのかを。
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そしてそれが、
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もう取り戻せないものだということも。




