君は、初対面のはずなのに
出会いは、だいたい唐突だ。
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少なくとも俺の場合はそうだった。
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その日、空はやけに青くて。
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風は少しだけ強くて。
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どうでもいいくらい平和で。
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そして——
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「やっと見つけた」
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知らない少女に、声をかけられた。
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……いや、本当に知らない。
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見覚えもないし、記憶にもない。
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でも。
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少女は、まるで当然のように。
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そこにいた。
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「えっと……誰?」
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正直な疑問をそのまま口にする。
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すると少女は、一瞬だけきょとんとして。
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それから、少しだけ困ったように笑った。
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「ああ、そっか。まだか」
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「まだ?」
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何が?
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というか、この会話、成立しているのか?
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俺は完全に置いていかれている。
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精神的に。
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「うん、気にしないで」
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気にするなと言われて気にしない人間はいない。
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いたら会ってみたい。
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たぶん尊敬する。
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「じゃあ改めて。はじめまして」
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少女は、少しだけ姿勢を正して。
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丁寧に、頭を下げた。
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「——はじめまして」
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そう言った。
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……遅い。
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順番が完全に逆である。
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「いや、さっき“見つけた”って言ってたよな?」
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「言ったね」
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「初対面だよな?」
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「うん」
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「……どういうこと?」
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俺は混乱している。
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かなり。
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しかし少女は、まったく気にした様子もなく。
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どこか楽しそうに、俺を見ていた。
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「まあ、そういう日もあるよ」
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ない。
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断言できる。
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そんな日は存在しない。
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少なくとも俺の人生にはなかった。
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そしてこれからも、あってほしくない。
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「名前は?」
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少女が聞く。
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「いや、そっちが先だろ」
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当然のツッコミである。
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順序は大事だ。
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人として。
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「私はいいの」
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「よくないだろ」
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「あとで分かるから」
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出た。
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“あとで分かる”という最も信用できない言葉ランキング上位のやつ。
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だいたい分からない。
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もしくは分かる頃には手遅れである。
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今回はどっちだろうか。
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できれば前者であってほしい。
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「……で、名前は?」
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もう一度聞かれる。
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仕方ないので答える。
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「……悠斗」
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「悠斗、ね」
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少女は、小さく繰り返す。
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その言い方が、妙に引っかかった。
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まるで。
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何度も呼んだことがあるみたいに。
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いや、気のせいだ。
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そういうことにしておく。
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その方が楽だ。
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「うん、やっぱり悠斗だ」
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何が“やっぱり”なのかは分からない。
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分からないが。
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聞かない方がいい気がした。
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直感である。
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こういう時の直感は、だいたい当たる。
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嫌な方向に。
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「じゃあ、悠斗」
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少女が言う。
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少しだけ、真面目な顔で。
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「今日、暇?」
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急である。
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話の展開が急すぎる。
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だが。
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考えてみれば。
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俺は今、特に予定はない。
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そして。
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目の前には、よく分からないが放っておくと後悔しそうな存在がいる。
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これはもう。
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選択肢は一つだ。
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「……まあ、暇だけど」
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答える。
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半分は好奇心。
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もう半分は——
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たぶん、流れだ。
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「よかった」
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少女は、ほっとしたように笑った。
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本当に、嬉しそうに。
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その顔を見て。
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なぜか分からないが。
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少しだけ。
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胸がざわついた。
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「じゃあさ」
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少女は、くるりと背を向けて。
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歩き出す。
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「一緒に来て」
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「どこに?」
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聞く。
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当然の疑問だ。
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すると少女は、振り返らずに。
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軽い調子で言った。
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「思い出になるとこ」
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——意味が分からない。
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意味が分からないが。
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その言葉は、不思議と耳に残った。
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そして俺は。
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結局、その後を追いかけた。
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理由は分からない。
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ただ一つ、言えることがあるとすれば。
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この時の俺は、まだ知らなかった。
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この出会いが。
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いずれ、どうしようもない別れに繋がることを。
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そして何より——
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この“出会い”そのものが、すでに一度終わっている関係の続きだったことを。




