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その八
たとえ居留守を行使しても、パチーノくんは各ジョギングコースに待ち伏せしている可能性もじゅうぶんあるので、ぼくは念のためにしばらくランニングは〈三途の川〉のスポーツジムのみでおこなうことにした。
ジムで内府とばったり会う。内府は愛人さんを連れてきていた。
「倉間くん、玄米くんが『突撃、となりのお食事』の突撃レポーターに推薦してくれって、いってきてるんだけど、どうする?」
玄米くんは普段は宴会ホールでモノマネ芸をやっている。
「いいんじゃないですかね」
マコンドーナグループはKの森テレビの『突撃、となりのお食事』という番組の冠スポンサーになっている。
これは偏った食事をしている家を訪問してはマコンドーナ印の健康食品を薦める、といった趣の番組なのである。
約半年ほど突撃レポーターを務めた楠木さんという方は、このレポートから生じるストレスにより、先月から寝込んでいる。
ちなみに楠木さんの前のレポーターもこの仕事で体調をくずして、現在は南北ヨーロッパのサナトリウムで静養しているのだ。
そのように二代続けて再起不能(?)にしているためだろう、幕臣たちもさすがに今回はかなり神経質になっている。
先日マチコ邸でばったりそのひとりに会ったときも、ハンバーガーの無料券をこちらににぎらせながら、
「いまは総集編で時間を稼いでいるが、その……突撃レポーターの件、倉間殿の貫祿で、なんとか取り計らってくれぬだろうか?」
と耳打ちしてきたほどなのだ。
「愛ちゃん、納得してくれるかな……」
内府が気にしている〝愛ちゃん〟というのは「愛子ちゃん一座」の座長さんのことである。玄米くんは一座に属していて愛子さんは座長だから気にしているのだ。
愛子ちゃん一座とは買い付けに行った先の旅館で知り合った。
その当時から一座に属しているのは、渡部さんという七十前後の男性だけで、あとのメンバーは、このK市に拠点をかまえてから加わった地元の子たちである。
今年から一座に加わったすみれクンという娘は、学生のころから〈三途の川〉でアルバイトをしていたので、新メンバーといってもぼくたちにとってはすっかりお馴染みの子である。
先日知り合った香子ちゃんよりも、さらに小柄なすみれクンは、
「もうすぐ二十二歳になるのに、わたしはまだ、男を知らないんです」
「いいか、すみれ。酒の肴をチャチャッとつくる女は男にモテるぞ、おぼえときな」
という内府の助言を真に受けてお料理教室に通っている。
ちなみにぼくはすみれクンがこしらえた煮物を食べたことがあるのだが、いますぐ男ができてもまったく心配ないくらい、その煮物は上手にできていた。




