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その四十一
超プレイボーイ俳優としてこれまでに二百人以上の女を騙してきた火野きよしさんも、さすがに還暦を過ぎてからは清純派女優や流行歌手等の大物はなかなか欺けなくなっているらしく、だから〈ぐるぐる三昧〉社長のこの後妻さんや定年間近の独り者の公務員などにすり寄って近年は記録を地味に積み重ねていらっしゃるとのことだった。
「ええっ! あの五月さんにそんなことを……えっ! こここ、小松にもですかぁ!」
われわれが昂奮しすぎて鉛筆を折ったりメモ帳を噛みちぎったりしていると、火野きよしさんはいよいよ得意になって、これまでの女性遍歴をさらに披露してくれる。
「そういえば、最近も、天地小巻ちゃんと――」
ふと思いだしたぼくがこうきくと、それまで上機嫌だった火野きよしさんは、
「うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ~」
と急にガクガク震えだした。
「大丈夫ですか?」
「ええ……」
火野きよしさんがおっしゃるには、これまでの人生で唯一小巻ちゃんだけは騙すことができなかったらしい。
「自分から京都の旅館に誘っておいて、ボクが男湯に入ってたら、なぜかあの人は失踪しちゃってるんです。なのに何日かすると、平気な顔して、ボクの部屋のチャイムを押してきて、肩をもんでくれとか、いってくるんです。そして、わらっているのか、怒っているのか、まったくわからない表情で、奇声を発してるんです……」
火野さんが小巻ちゃんと行ったその京都の旅館は、栗塚くんが長いこと泊まっていた宿であった。
そんなわけで、後日ぼくはその旅館に問い合わせてみる。
栗塚くんにたいへん感謝しているそこの女将は、
「なんでも、おっしゃっておくれやす」
と役に立てることをよろこんでいた。さっそくぼくは、これこれこういう女性が訪れませんでしたか、とたずねる。
「ええ。来はりましたえ。よう覚えとります」
幽霊が出るという噂をきいて、この旅館を訪れた天地小巻ちゃんは、
「幽霊はある方のおかげで、いまはもう出てきはりまへん」
と女将が説明すると、
「キャハキャハ、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
と狂笑して、すぐどこかへ消えてしまったという。
ぼくは礼をいって電話を切った。
「やっぱり小巻ちゃんは、宇宙人とか、そういう変なものを探しつづけているんだな」
いろいろつながった。いまこそ動くときである。
ぼくは古書店の二階にあがる。そしてお玉さんとお茶を飲んでいた三原さんに、
「民吾さん! これから用七老人のところに行きましょう!」
と呼びかける。
「行きますか」
民吾氏が借りているクルマの助手席に乗り、ラジオをかける。
Kの森ラジオの番組には、ジャーナリストの鶴田氏が出ていた。
鶴田氏は例によって、
「試食おじさんをいちばん最初に発見したのは自分なんですよ」
とまたぞろ自慢している。
「どつるの野郎!」
ぼくは激昂した。
「いまからラジオ局、行ってください!」
あたまに血がのぼった状態で民吾氏にこう頼むと、
「スマイリイの対談集に組み込まれていた『あるおじさんをめぐって闘う』っていう暗号は、きっとこのことなんでしょう。これで成就しましたね」
といいつつ、
「それより、小巻ちゃんのほうが大事ですよ、倉間さん。しかも沼口探険隊の復活もかかってるわけですし」
と氏はなだめてくれた。たしかにそうである。ぼくはあたまにかわいくゲンコを二個お見舞いして反省した。
「最初にみつけた人間のほうが、よりレベルが低いじゃないって、愛子さんもいってたしな……もう二個お見舞いしておこ、コンコン♪」




