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その四十
民吾氏がシシマイ関連を熱心に調べているのは、父親にまたぞろムー原人になるよう要請されたからである。
「それで、どうしてシシマイなんですか?」
「創作するためですよ」
ムー原人は去年も一昨年もやっていて、常連さんたちも、その探険にはあからさまに飽きている。だから、スマイリイの著作から発見した〝シシマイ〟というキーワードをたよりに、つぎの出し物をかんがえているようなのだ。
吉野さんがけっきょくお見合いを辞退した日のその晩、民吾氏は世界中の珍獣を参考に創作したという「マーシシマイ」をぼくにみせてきた。
「いい感じですね」
「そうですか」
しかし三原さんはこのマーシシマイをどのように登場させるかについてはぜんぜんかんがえが浮かばないらしい。こちらにも相談してくる。
「だったらそのマーシシマイを、まず沼口探険隊に捜索させてくれませんか? ホテルの宣伝にもなるでしょ」
さらにぼくは用七老人のことも民吾氏に話す。
「わたしもその方にお会いして、いろいろ助言をいただきたいですね」
氏も用七翁に興味を持ってくれた。近日中にふたりで会いに行くことにする。
「そのときに詰めた協議をしましょうよ」
「そうしましょう」
ところで、今夜のぼくは副長の栗塚くんと約束がある。三原さんに断って出かける支度をする。
今夜は商売である。ガラモン組の業務である。
水戸光子ちゃんに紹介していただいた関係で〈ぐるぐる三昧〉の成り上がり社長より仕事を依頼されたのである。
局長のぼくは、栗塚くんより、
「隊士たち全員のだんだら羽織ができあがった記念も兼ねるわけですが、とにかくみんなで乗り込むつもりでいます。ですから撮影のほう、よろしくおねがいします」
と頼まれているのである(カメラマンの厚川さんには、すでに伝えてある)。
回転寿司の名物社長は、細かいことはわすれたが、
「最近、女房の行動があやしいんですわ。以前にもそういうことはあったから、今回もたぶん浮気をしてると思うんだが、とにかくそれを調査してもらって、証拠をつかんだら、女房に行動を慎むよう注意してほしいんですわ」
というような依頼をしてきた。
「女房にたいして、自由に金をつかえるようにしてやったのが、そもそものまちがいなのかもしれませんわ。急に金持ちになった人間は、あんがい、どのように金をつかったらいいかは、わかってないもんなんですわ」
ともいっていた社長は、なるほどたしかにわれわれにもたいへんな報酬を前金で手渡してくれたわけだが、夜の九時ごろに、
「ヨーイ、ハイ」
という号令ののちに、そろいのだんだら羽織を着た総勢二十三人の隊士たちが、あるじ不在の通称〝ぐるぐる御殿〟にずかずか乗り込むと、浮気がちのその女房はじっさいに、
「最近、歳のせいかな、肌が荒れてきちゃってさぁ」
とあまえている優男に、
「じゃあ、これでなにかクリームでも買いなさいよ」
とべらぼうな額のお金を渡していたのだった。
「わたしは、ガラモン組副長の栗塚歳三だ!」
このたびも栗塚くんはまず名乗った。
「肌が荒れているのなら、つるつるにしてやるぞ!」
そして事前に用意しておいた生たまごをボールに割ってシャカシャカよく溶いたのちにその優男に、
「エイ!」
とあびせかける。
「もうこれで肌はつるつるだから、このお金は必要ないな?」
栗塚くんにこう質問された優男は素直に、
「はい……」
とお金を返していた。
素直に応じた優男にオムライスおにぎりと日本酒を分けてあげると、アルコールも入って、だんだんリラックスしてきたのか、
「さっきのお金をくれたら、今後この奥さんとは、関係を絶ちますけど――」
と優男は一種の取り引きをもちかけてくる。
栗塚くんはそんな優男の度胸に感心したのか、
「ところであなたのお名前は?」
と物静かにたずねた。
優男はオムライスおにぎりをほおばりすぎて、それにはなかなかこたえられなかったが、それでも、
「す、すみません。これ、おいしいですね。わたしは火野きよしというものです」
と日本酒でオムむすを流し込んだのちにこたえていた。




