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その三十八
この晩のぼくはシッくんとわかれると、
「隊長、あそこに怪獣がいます!」
「バカヤロー! あれは居酒屋のたぬきの焼物だ!」
と夜通し飲み屋街を探険した。沼口探険隊の将来を案じてのことである。
翌日、夕方帰ってきた三原さんに相談する。
「なるほど――探険したくても、探す対象がないのですね……」
しかし、カオリさんと遠出した先でシシマイふうの例のあれを調査してきたらしい民吾氏は、今夜また会う約束をしているという、カオリさんとの待ち合わせ場所に、
「それじゃ」
とすぐ出て行ってしまった。やはりそれほど案じてはいないようである。
リョウマくんからまた手紙が来ていた。
それによると、どうも小巻ちゃんは、例のダイエット専門家や、すくなく見積もっても二百人は女をだましているあの「火野きよし」などと、性懲りもなく再び交流しているらしい。
内府に連絡する。
「超プレイボーイ俳優の火野きよしに、みずからの意志で接近していくなんて……現在の天地小巻ちゃんは、想像を絶するほど奇抜な性格になってしまっているのかもしれませんね、内府」
「毒をもって毒を制す、ということであれば、良いのだがな……」
午後の七時過ぎに、和貴子さんがアパートに来てくれた。
スキヤキを作ってくれるとのことであった。
性格のわるそうな女性との一線はいまだ越えていない男の事務員さんは何日かまえ、和貴子さんが勤めている呉服店にその女性を連れて、着物をこしらえにきたらしい。
「男の事務員さんとお連れの方が帰ると、すぐデミグラスソースさんがわたしのところに近寄って来て『捜査に協力してください』って、事務員さんがお求めになったお召し物などをすごい迫力できいてきたんです。和貴子、困ってよ」
飾ってあった草履の値札をみて、
「なんじゃ、こりゃあ!」
とも叫んでいたデミグラスソースにたいし、まだわれわれは捜査の終結宣言は正式には伝えていなかった。
だからおそらくデミグラスソースは、あれからもずっと男の事務員さんの近辺を探りつづけていたと思われる。
しかし解決までの経緯をあらためてかれに説明するとなると、
「ボス! そのパピパピっていうのは、いったい何者なんスか! 自分、納得できないッス!」
ということのくり返しになって、ずいぶん手間がかかるだろう……。
そんなわけで、デミグラスソースにたいしては、もうしばらくこのままボスはうっちゃっておくことにした。
和貴子さんが洗い物をしている隙に自分の携帯をのぞいてみると、香子ちゃんのお母さまからメールが来ていた。
お母さまは、川上さんに教えてもらった例の下着専門店でぼくが選んであげたパンティーのはき心地などをまたぞろていねいに記していた。
先月香子ちゃんのお母さまがパンティーの返却をもとめてきたとき、
「じつは燃やしてしまったんです」
とぼくは正直にいった。
「やっぱり手放したくないんですか?」
まあじっさい二枚ほどはご老公の畑で燃さずに残してあったわけだけれど、それはまた話がややこしくなってしまうので伏せておいた。
そんなわけで、ぼくはパンティーを弁償したのである。




