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その三十四
二時間ほどファミスタをやっていたマチコさまは、その後発音のいい幕臣といっしょにどこかへ出かけていた。
謎の婦人が指揮を取るフーズフーズ相手に覚醒した我がカーズ打線が打者一巡の猛攻撃を加えていると、吉野さんがとなりの椅子に腰かけてきた。
「どうです? 決心つきましたか?」
「せ、せ、せ、せっかくのお話なんですが……」
赤いスーツをカチッと着て、IBCの会長に意欲的に接待をくり返してきたマチコさまは、その会長に、
「ボクの甥にまだ独り身なのが、いましてね――」
と縁談をもちかけられていた。
マコンドーナファミリーにゆかりのある独身女性のなかで「年齢的にもちょうどいいのでは」と最初に候補にあがったダイアンさんは、料理屋〈高はし〉で軽く相手に会ったすえに、
「いい人そうだったけど……ごめんなさい」
ということになっていた。
だからぼくはつぎの候補として、
「吉野さんを擁立してみますか」
「そうですね。あの謎の婦人のほうは、未婚なのかどうかも謎ですからね」
と山城さんと決めていたのである。
「すごくいいところに勤めてる真面目な青年だって、マチコさまはいってるよ。シエスタ商事だったかな? なんかそこで、もう係長とかになってるらしいんだよ。三十四歳。だめかい?」
「お相手の方の年齢はちょうどいいと思うんです。ですけどわたし、家計簿なんかもつけたことないし――やっぱり真面目な方っていうと、そういう女性を好むでしょうから。お相手の方は、どのようにおっしゃってるんですか?」
「それがね、かなり口べたな人なんで、おれたちも、どんな女性が好きなのか、いまいち把握できていないんだよ」
この日もガチガチに緊張していた吉野さんに、
「お嫁にまだ行きたくないのかい?」
ととりあえずきいてみる。
「いいえ。野田市にいる姉にもしょっちゅういわれますし、自分でも、そろそろなのかな、とは思ってるんですけど……」
「うんうん」
ということは、まったく拒絶しているわけでもなさそうだ。ぼくは、
「家計簿の精度はどれくらいのレベルを希望しているのか、三成さんサイドに確かめて、なるべく調整してもらうよ」
といって、まだ吉野さんを候補として留保しておいた。第三候補の謎の婦人に交渉するのもなんとなく億劫だったからである。
このお見合いもふくめたあらゆることで、川上さんに相談にのってもらっている吉野さんは、
「そういえば、川上さん、倉間さんに頼みごとがありそうな感じでした」
というようなこともいっていた。
まあこれは、たいへんお熱になっている三原民吾さんにかんして、またぞろアシストしてもらいたいことでもあるのだろう。
お盆まえにいったんF島に帰っていた民吾氏は、先々週、今度はKの森美術館に用があって、
「今度もしばらくご厄介になります」
とふたたび出向いてきていた。自宅にもどったのちに、さっそくききに行く。
民吾氏は古書店の店番をしつつスマイリイの書籍を読み込んでいた。
「きょうは美術館行かないんですか?」
「きょうは休館なんですよ」
「そうなんですか」
「あっ、ここに、エマニエル坊やの百日天下が、組み込まれてますね」
暗号の話である。ぼくはそれには取り合わずに氏にたずねた。
「ねえ、民吾さん、川上さんのこと、どう思いますか?」
「わたしは、ああいうたぬき顔の女性は好きですよ」
だがしかし、民吾氏は最終的にはおなじくたぬき顔の藤原カオリさんばかりをほめている。
三原民吾さんがぼくを介して藤原カオリさんと面識をもったのは、おととしの見合い話のときである。
これは〈三原ホテル〉の番頭を長年務めている年配の人がまわりに後妻をそろそろもらえもらえといわれているうちに本人もどんどんその気になって実現したのである。
縁結びの才能があるカオリさんは、このときも成人している番頭の息子とものちのちもめないような境遇の後家さんをみつけてきてくれたのであった。




