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その三十一
翌々日、われわれとともに英光邸にお詫びに行った本橋夫妻は、
「ああ、わかった、わかった。もういいから、そろそろ帰ってくれ。な、たのむよ」
とご老公にいわれるほど、お互いをかばい合いながら真摯に謝罪していた。
「いちおう土下座だけはしてください。でもだいじょうぶですよ。ぼくなんか、ノーパンにかんすることで四十七歳のよその奥さんに本気で土下座してるんですから」
とわたくし倉間薫はパピパピを励ましていたのだが、その必要もなかったのである。
このように問題が解決した三日後に英光ご老公から直接電話がかかってくる。
これは「やっぱりシベリア送りだ!」とか、そういうことではない。
ぼくのほうが個人的に、
「じゃあ、そのときは、声をかけてください」
とお願いしていたのである。
黒土と赤土がぽつんぽつんと山になっている古い耕運機がそのままの畑で落ち合ったぼくとご老公は、
「油かけると、よく燃えるだろう、倉間さん」
「そうですねぇ」
とそれぞれ持参してきたものを景気よく燃やしていた。
竹の棒で火のめんどうをみていたご老公は、ポケットから取り出したミニタオルで汗を拭いていたぼくに、
「しかし倉間さん、あなた、いい人だな」
とぽつりといってきた。
「なんですか、ご老公、急に」
「だって、あんなつまらん事務員のこと、損を承知で味方してあげてたじゃないか」
ご老公は〈カズマサ・コウノ〉の高級ステテコを火のなかに放り込む。
「このワシの弱みを突っついてまでして、かばってやるほどの男でもないだろ」
「たしかによくかんがえると、そうですね……魔が差したんだな」
「やさしいんだな、あなたは。しかしなぁ倉間さん。やさしいだけじゃ、世の中渡っていけんぞ。ワシはもう八十になるが、お栄はいくつだと思う?」
「おいくつなんですか? なんかやたら艶っぽいけど」
「五十だよ。まだ五十。八十になっても、まだそういう女と乳繰り合えるのは、この英光が世間を渡り歩く術を心得てるからじゃ」
「はあ」
「倉間さんにも、これから徐々に教えてやるからな」
「ぜひお願いします」
「ところで話は変わるが、あなたが最近ナニしてるという娘さんはなんという名前だったっけ?」
「和貴子さんですか?」
「うん、そうそう、和貴子さん。あなたはとってもいい人だからね、英光、ぜったいその和貴子さんに、あなたがふりふりのパンティーや黒のすごい角度のパンティーを燃してたと、告げ口しない、よ! あっ、はっ、はっ、はっ、はぁ」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ、ご老公! このまえ説明したじゃないですか、名前はいえないけど、ある夫人から贈与されたって」
「これで、五分五分じゃな、倉間さん! 告げ口しない、よ! あっ、はっ、はっ、はっ、はぁ」
「ねえ、ご老公、お互い秘密は守り合いましょうね守り合いましょうね」
どうせ弱みをにぎられているのである。だから、この純白のパンティーとこっちの水色の相当はき込んでるやつは、
「やっぱり燃さないでポッケにしまっとこ♪」
(第二部 了)




