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その二十八
とりあえず、ご老公との先の約束を山城さんにメールで伝えておく。
山城さんはすぐ、
「男の事務員さんに自首するよう、説得してきます」
というメールを返信してきた。
ふと思いだして、きょうは確認していなかったポストを覗いてみる。
「おお」
するとリョウマくんから手紙が届いていた。
「前文は、なしじゃきに」ではじまるリョウマくんの手紙には、エゲレスにたいする熱い想いや天地小巻ちゃんの歌の師匠だった森田先生宅に直談判しに行ったときのことがつづられていた。
「ほぉほぉ」
手紙によると、加津さんとリョウマくんは序盤はかなり苦労したらしいが最終的には森田先生に人柄や熱意を認めてもらって、
「天地小巻ちゃんがいまお暮らしになっちょる住所を、ワシらに、教えてくれたきに」
ということになった。
ところが、その教えられた住所をたずねてみると、古いマンションに住んでいた小巻ちゃんは、
「奥さまは、探険愛好会だか、ペキン原人を守る会だか、とにかくそういう人たちと、たぶんどこかに行ってます」
とたまたま失踪していて、だから今後は失踪している小巻ちゃんを捜しに、
「長旅に出るじゃきに」
ということにどうやらなっているらしい。
「また例のクセが出たのか……」
小巻ちゃんは人気絶頂のころから「失踪癖がある」と噂されていた。だからこれを読んでも、ぼくはとくにおどろきはしなかった。
七〇年代の後半に一時休業していたときの天地小巻ちゃんは、表向きには病気療養と発表していたのだが、じっさいはどうみても胡散臭いダイエット専門家と海外に移住していた。
ファンのあいだでは小巻ちゃんはこのダイエット専門家にたかられたあげく、さらには、
「スリムになったからだは世間に公表すべきです」
とそそのかされて、男の事務員さんが先輩におっつけられた例の凡庸パンチのグラビアですごいポーズを魅せちゃったり、もっとすごいポーズをとっちゃっている写真集を出してしまったりした、といわれている。
八〇年代の後半にマレーネ・ディートリッヒの隠し子としてカムバックしたこのダイエット専門家はその話題が下火になると、今度は週刊誌上に小巻ちゃんの超エキセントリックな私生活を暴露している。
その後たしか九七年にそれまでの振る舞いを悔い改めて尼さんとして再起した専門家は、
「天地小巻ちゃんは、ホットケーキをフリスビーのように投げて、狂ったようにわらっていた」
というかつての暴露項を「お好み焼き」と訂正し、隠し子のことも、
「わたしはマレーネ、ディートリッヒの血をじつはまったくひいてません。ワリーネ、ワリーネ、ワリーネ・ディートリッヒ」
と深々とあたまを下げて謝罪していたが、プライベートでは尼さんをやっていないことを大筋で認めても、「ワリーネ、ワリーネ、ワリーネ・ディートリッヒ」は伊東四朗さんからパクッたものだと再度陳謝しても、それでも失踪癖についてだけは、
「これだけは、これだけは、唯一真実なんです!」
と涙ながらに訴えていたのだった。




