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その二十五
翌朝、お玉さんに電話で呼び出される。
「羽織袴のことだろうな……」
和貴子さんに届けてもらった新品のやつを着て店に行く。
「三原さんは、もうお出かけになりましたよ」
だがしかし、お玉さんは羽織袴についてはいっさい触れなかった。
「小学四年生の男の子が『おはようキッカーズ』の九巻をさがしてるんですけど、なんとか入手できません?」
というようなことをいってきたのである。
「もう何回も店に来てるんですよ、その子」
「『おはようキッカーズ』って、たしか漫画本ですよね」
「ええ。そういってました」
「ウチ、漫画は取り扱ってないんだけどな……まあいいや、かわいそうだから、なんとかみつけてきますよ」
「その子に、そう伝えてもよろしいの?」
「うーん……うんうん、いいですよ。それくらい、みつけなくちゃね」
「おねがいします」
お玉さんがつくってくれた朝飯を食べたぼくは、アパートにもどってとりあえず羽織袴を脱ぐ。
メールが一件入っていた。川上さんからである。昨夜はごちそうさまでした、と記されていた。ぼくも「昨夜は楽しかったです」とメールを送る。
天地小巻ちゃんのアルバムをしばらく聴く。またぞろ川上さんからメールが送信されてきた。
「きょうのお昼、わたしと早川さんと三人で食べませんか?」
と今度は記されてあった。吉報である。
昨夜の川上さんは、あのあとさらにさらに目がとろんとなっていたので、
「早川さんに、男の事務員さんのことで、ちょっとききたいことがあるんです……」
と陳情したことはおそらくわすれているだろうと思っていた。
しかし川上さんはこの件をご自身のパンティーを三原さんのあたまにかぶせたりしながらも、しっかりおぼえていたのだ。
「早川さん、いろいろ知ってるようですよ」
すでに段取りも整えてくれている。
川上さんたちとは支部からいちばん近い〈マツザカケイコ〉で待ち合わせることになった。
約束より若干早めにぼくはマツケイに入る。やがてふたりはあらわれた。
「倉間さん、はやーい」
向かいの椅子にすわった川上さんと早川さんは、ぼくに「なに食べます?」ときくと、
「じゃあ、わたしたちもそれで。ね」
「うん」
と「マツケイAランチ」を注文していた。
きょうもウルトラの母のように髪を結っていた早川さんは、注文したあとも立札式のメニューにあった「マツケイデカシュー」のバニラビーンズ入りのやつを、
「なんかこれ、おいしそう」
と注目していた。
この春からあの支部に勤めている早川さんは、
「こちらの先輩は、こんなかわいい後輩のことを『ガリガリくん』って、呼んだりするんですよォ」
と川上さんの脇腹のあたりを、まるで肉づきを確かめるようにさわっていたが、すでに川上さんから事情を聞いている早川さんは、Aランチがはこばれてくると、男の事務員さんに交際している女性の写真をみせてもらったけれど、なんとなく性格はわるそうだったうんぬんと話しだしてくれた。
「その女性を部屋に招くさいに、大掃除したとか、汚れてるものを処分したとか、そんなこと、いってなかったかな?」
「いってました。スタイリーをリサイクルショップに売ったとか、あと、なんだったかな……あっ、建て付けのわるい本棚とか小さいタンスも処分して、ホームセンターでコロ付き収納ケースと三段カラーボックスを買ったって、いってましたね。自分で組み立てたこと、自慢してましたもん」
「キャオ」
先のキャオ情報はわれわれにとってはほぼ決め手の証拠といってもよかった。守秘義務うんぬんおかまいなしの早川さんに大感謝である。きょうは〝キャオ〟を連発するほどの大収穫である。
会計のさい、ぼくはお持ち帰り用の「マツケイチビシュー十二個パック」を二セット買った。
「バニラビーンズ入りのデカいシュークリームと味はおなじみたいだよ」
とふたりに持たせる。
「すみませーん、お土産までもらっちゃって」
ふたりは支部にもどっていった。
ふたりとわかれたあと、軽バンのドアに寄り掛かったぼくは腕をしばし組む。
女性とのナニを夢見る男の事務員さんのひたむきさにたいし、一種の〝情け〟が生じていたのである。
英光ご老公は不法投棄の犯人にたいして、どれほどの処罰をあたえようとしているのだろうか……ぼくは心配になってきたので、山城さんにきいてみることにした。
「あっ、倉間さん、やっぱりテレビ観てましたかぁ!」
電話をかけると、山城さんはいきなりこういってきた。
「いや、観てないですけど」
山城さんはKの森テレビの『突撃、となりのお食事』で、いま男の事務員さんが突撃されたんですよぉ、と興奮している。
「畳の色がそこだけ若いところがありましたから、やっぱり男の事務員さんは汚い家具とかを交際相手にみられるのが嫌で、あの子ども用タンスをご老公の畑に捨てたんですね!」
山城さんは、番組は録画してあるので、時間があったら観に来てくださいよぉ、ともぼくに呼びかけていた。




