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その十九
ダンボール三箱分のクルミニンニクを軽バンに積んでK市に帰る。
その後二日間はひたすらスマイリイ・オハラの対談集を熟読した。
かなり重要な箇所をみつけたぼくは、とりあえずそれを三原民吾氏に報告する。
「そうですか! しかしきょうは、カラオケ大会の審査員の仕事が入ってしまっているのですよ。ですからあした、そちらにおうかがいします」
そんなわけで民吾氏は、F島からしばらくぶりにこちらへ来てくれることとなった。
三原民吾氏の父親はF島でかなり立派なホテルを経営している。
いちおう民吾氏もそこの社員になっている。しかし、はなれの工房でエリマキトカゲの焼物をつくってお土産コーナーに寄与しているほかは、たいてい民吾氏は先にあがったような謎の大会の審査員を務めたりスマイリイが著作に組み込んだとされている暗号の解読をおこなったりしているのである。
民吾さんがエリマキトカゲの焼物をつくっているのは〈三原ホテル〉が全国探険愛好会や全日本お化け同好会の常宿になっているからである。ちなみにぼくは一度だけ民吾氏のお父さんにたのまれて宇宙人だかムー原人だかの役をやったことがある。
翌日、山城さんのお父さんより借りたセダンで民吾さんはやってきた。三原さんはいつもこちらに来たときは山城家からクルマを借りているのである。
さっそくしおりをはさんでおいた対談集のページをすさまじい集中力で読み出す。
「うん! わかりましたよ、倉間さん」
「どんな暗号ですか?」
「ここに暗号はありませんよ」
「でも、よく意味のわからないカタカナで……」
「対談相手の竹岡明子さんがしゃべっているところですよね」
「ええ」
「読みますよ――ワダス、オデラナハガナヨゴデ、オドゴサニ、パンテーンナッカ、エジリャアテ、ンデ、『エグエグ』エッタァ、オドゴサ、『エッダガ?』キグガラ、『ンダヨォ、オメガ、イッペー、エジッカンダヨォ』ッデ、オスエダンダ。ソンドギガ、ハズメデノ、シェエタイゲン。ンダナァ、ハダズンドギダッダガ」
「どういう意味なんですか?」
「これは対談相手の竹岡さんが、はじめてのプライベートな体験を語っているのです。どうもお寺の墓の影かなんかで、おこなったようですね。二十歳のときということです」
「じゃあ、やっぱり暗号は入ってないんですか?」
「ここの部分はね。でも、ほかのページには、ぜったいスマイリイは、なにかしらのメッセージを組み入れてますよ」
しばらくすると、民吾氏は暗号をひとつ発見していた。
なんでも対談集の第七巻には、わたくし倉間薫があるおじさんをめぐって激しく闘う、と組み込まれているらしいのだ。
「なにか心当たりありますか?」
「うーん、ないですよ」
それでもただひとつ、断言できることはある。
それはバイオレンス描写をいったいに嘲笑している温厚なぼくでも、ダイアンさんとか四十前後の松尾嘉代とか秋田で遭遇した色白のあの後家さんとか五十手前の松尾嘉代とか、そういうこちらのスケベ中枢をとてつもないスケールで刺激してくる婦人がからんだ争いであるならば、激しく闘う――ということである。




