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      その十七


 この日をむかえるにあたって、ぼくは料理屋〈高はし〉に三夜連続でナルシス輝男先生を招いて、いわゆる「モテモテ講義」をお聴きした。


「じゃあ、その日のお手手さわりも、かならずしもぜったいにダメ、というわけではないんですね? ナルシスさん!」


「もちろん! でも、いいかい倉間さん、こういうのはすべて、モテモテテクニックを活用しなければ、ならないんだよ」


 ナルシス先生はそのモテモテテクニックを伝授してくれた。


「そう、それで女性が『わたしが洗いますわ』って、台所にさがっていったら、そっとついていく。で、スポンジをくしゅくしゅやりだしたら、『ぼくがやるよ』といって、スポンジを取るとみせかけて、手をにぎる! はい、そう!」


 お酌をしながら、ぼくは初日の上限をおききする。


「じつは、倉間さんが熱望しているナニのほうも、まったくの夢というわけではないのさ!」


 それはモテモテスーパーテクニックのほうを使えば可能とのことだった。もちろんそちらも指導していただいた。準備万端である。


 さて、当日である。


 ぼくはマチコ屋敷よりお借りしたピグモンのぬいぐるみを居間に配置しておいた。怖がって抱きついてくるかもしれないからである。


「まあ、めずらしい。これ、ガラモンかしら?」


 だがしかし、和貴子さんはそれをお手にとると、こういってほほえんでいたのだった。


 第一の作戦は失敗である。それでもぼくはめげなかった。第二の作戦があるからだ。こちらの作戦こそ、散々練習したのである。


 お茶を出したのち、


「飲み終わったら、あっちでくしゅくしゅ洗ってください」


 と、そのお手手大作戦を仕掛ける。


「わかりました」


 立ちあがった和貴子さんは浴室にタオル等を用意すると、


「お湯張りましたから、薫さんもご一緒にどうぞ」


 とぼくの手を引いた。


 湯呑みを洗うよういったつもりなのだが、和貴子さんは全身と捉えていたのである。


 そんなわけで、おかげさまでナニは成就されたのだった(第一稿では執拗に描写したのだが、大人の事情により、それは削除させていただく)。


 和貴子さんはこのあと老人ホームに御用聞きに行くという。


「えっ、ウルスラ・タウン? そこに、ぼくのお袋と伯母さんも入ってるんだよ」


 なんでもこの施設で暮らしている用七《ようしち》さんという翁は、相当な洒落者らしい。


「お若いときは、外国のテレビ局で〝仕掛人〟をなさってらしたそうよ」


「そうなんですか」


 マコンドーナグループが冠スポンサーになっている『突撃、となりのお食事』は現在たいへんな人気番組に成長している。


 これは新しく突撃レポーターを務めることになった玄米くんの活躍によるものである。


 玄米くんは「小森のおばちゃま」のモノマネをしながら、日々お食事中の民家に突撃しているのだ。


 小森のおばちゃまの案を出したのはわたくし倉間薫で、そんなところから、


「わたしレコードデビューしたいの」


 と美恋愛子さんにも陳情されてしまっているのだが、和貴子さんのお話をきいていると、その用七翁なら、いろいろな裏技をかんがえてくれるかもしれなくて、だからぼくはいつかその御用聞きに同行したいと和貴子さんにいっておいたのである。


「そろそろ行かなくちゃ――今晩、またお寄りしてもよろしくて?」


「もちろん」


 しかし和貴子さんが出ていってしばらくすると、


「急遽買い付けに行くことになりました。二、三日留守にします」


 とぼくはメールで訂正していた。


 しばらくぶりに電話をよこしてきた妹の京子が、あさっておこなわれる伝統行事への不満をまたぞろぶつぶつこぼしたのちに、


「ああ、そうだ、ねえお兄ちゃん、なんかスマイリイの本、いっぱいあるみたいよ」


 と吉報をよこしてきていたからである。


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