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その十五
その日の晩は料理屋〈高はし〉でささやかな祝杯をあげることとなる。
打ち上げがはじまる直前にデミグラスソースのお母さんから、
「ウチのデミグラスソースは、三十分くらいまえに意識をとりもどして、いまサイダーをグビグビ飲んでます」
というお電話をいただいたので、みんな一安心していた。それまでは、
「あいつ逆ギレして、ぜんぶ丸飲みしたチョリソを、こっちに連続ミサイル式に発射してくるかもしれないな」
うんぬんと、おのおの心配していたのである。
今回の撮影にたいへんなご協力をしてくれた森中市長がこちらにくるまでは飲まないでいたのだが、こんな日にかぎって栗原小巻が出ているドラマでも観ているのか、市長はまだ電話もかけてこなくて、山城さんも、
「ふつうだったら、いちばん先に来るんだけどね。あっ、それでね――」
と市長の酒癖の悪さを、その後べろんべろんになる香子ちゃんに説明していた。
「あれ? 倉間さんの携帯、ビービー振動してませんか?」
「ん? あっ、市長からだ」
電話に出ると、森中市長はいきなり、
「倉間さん、わたしは、現在、てんてこまいだ!」
と叫んできた。お話をきくと、なんでもさっきの誤放送によって、とつぜんどこかに走り出してしまったお年寄りが届けを受けているだけでも十二人もおられるということだった。
「その十二人全員の行方が、わからなくなっているんだ!」
「そうなんですか」
「寝たきりだった、お年寄りの方も、あのテーマを聴いて、あばれだしたらしい! いま、そういう報告を受けた! わたしは、さらに、てんてこまいになっている!」
「おビール、お持ちしましょうか」
と女将が襖を開けてきた。
女将に先のことを、あっちのほうも交えておしえる。この女将は〝あっちの話大いに可〟なのである。
「まあまあ。だけど、寝てた人が起き出したんだから、ちょっとくらいあばれたって、いいじゃありませんか。ウチの亭主にも、そのテーマを聴かせて元気になってもらおうかしら」
最後の〝あっち〟にからんだことだけは耳打ちであった。女将の唇が一瞬こちらの耳にふれた。
「ん? 寝てた人が……」
ぼくはまたぞろひらめいた。
「ちょっとデミグラスソースのウチ、行ってきますね」
とみんなに断る。そして、
「♪ たたたーーーーー」
と口ずさみながら店を出た。
(第一部 了)




