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その十四
厚川さんにローアングルでの撮影を指示すると、わたくし監督は、
「ヨーイ、ハイ」
と極め食い勝負をスタートさせた。
デミグラスソースことパチーノくんは当初スタートダッシュを懸念していた。食べ始めはペースがあがらないと本人も自覚していたのである。しかし試合が始まってみると、音楽禁止の影響もとくに受けずに、お父さんとほぼおなじペースで料理をたいらげていた。
この大健闘には見学に来ていた香子ちゃんも、
「すごーい」
と見入っていた。
カレーライス、カレーパン、カレーうどん、カツカレー、とんかつと順調にたいらげていった両者は、はじめてデザートものが出ると、
「こういうのは、気分転換になるなぁ」
といって、そのどんぶりいっぱい分のヨーグルトも難なく食べつくしていたけれど、おなじくどんぶりいっぱい分のマカロニサラダをクリアし、つぎにカレーリゾットが土鍋で甘口辛口各一つずつ出てくると、マカロニサラダの時点で若干ペースが落ちていたデミグラスソースは、ここではじめて苦しそうな表情をみせてしまって、眉間にしわをよせながら、エチケット袋の位置もちらっと確認していた。
「がんばれ! デミグラスソース!」
「がんばって。デミグラスソースさん」
デザートタイム終了の鐘が鳴ったのちに出てきたのはファーストミットのようなサーロインステーキで、ということは、カレーリゾットはあくまでもデザートあつかいだったということになるのだが、鉄板からはねた油に一度「アチッ」と顔をしかめた以外はスタート時とほとんどお変わりのないお父さんはそのステーキを胃のなかにおさめると、
「やっぱりレアは、うまいなぁ」
とおしぼりで顔とお口を微笑しながら拭いていて、さすがのデミグラスソースもこれにはドン引きしているようだった。
さて、お次は豚の丸焼きである。
「わぁ!」
これにもお父さんは満面の笑みであった。で、対戦相手のデミグラスソースはというと、豚の丸焼きにたいし、おなかに付いているソースのシミも確認しないままに、
「なんじゃ、こりゃあ!」
をいつも以上にちからを込めて発していた。
デミグラスソースはかじってもかじってもなかなか減らないこの丸焼きにだんだん意気消沈していった。
お父さんが豚の丸焼きを食べ終えて、つぎの料理に取りかかるころになっても、ただ耳のあたりをチュパチュパなめているだけだったのである。
そんなわけで監督のぼくは市長に電話する。『ジーパンのテーマ』を〝誤放送〟してもらうのである。テーマが聴こえてくると、デミグラスソースは立ち上がった。
「ボス、自分はデカです! ニックネームはデミグラスソースです! 自分にお肉、もっと咀嚼させてください! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
瞳孔を文字通り全開にしてこう吠えたデミグラスソースは、ダイアンさんの元カレくんが引っ越すのも無理はないこんなお父さんをもオーバードライブするくらいの勢いでこれ以降の料理をすべてねじ伏せていった。大逆転勝利である。




