隣の
「もしもし?律くん?」
電話相手が応答したらしい。
「ちょっと今日友達と帰るから、迎えいらないや」
彼はそう言いながら、ちらりと視線をこちらに向ける。
私は咄嗟に目を逸らしてしまった。
「…うん、ごめんって、また今度のフェスは楽屋に誰か呼ぶからさ……うん、分かったよ、ありがとう」
彼はそう言うと、ポケットにスマホをしまった。
「誰と電話?」
「マネージャー、入口の辺で誰か待ってなかった?」
「あ…そういえば」
私はここに来たとき、昇降口の前に座って待っている人物がいたのを思い出した。
「よかったの?待ってもらってたんじゃないの?」
「いいのいいの、基本仕事とかめんどくさい事全部丸投げしてるし、いつもの事だもん」
「余計だめじゃん」
そんな他愛もない会話を続けるうちに、いつの間にか校門を抜けていた。
夕焼けはもう薄れ始め、街灯がぽつぽつと灯り始めていた。
「あ、そういえばさ」
「なーに?」
彼が口を開く。
「作曲っていつ教えればいい?」
「あ……」
「考えてなかったでしょ」
「……うん」
私は彼に思いっきり図星を突かれてしまい、内心少し肩を落とした。
「しょーがないじゃん、すんなりお願い聞いてくれると思わなかったんだもん」
このまま少し図星を突かれたままなのは癪なので、少し言い訳してみる。
「でも人になにか頼むなら、もちろん想定しておくべきだったよね」
「はい」
そんな言い訳をバッサリ切り捨ててくる。
やはり彼に舌戦は挑むべきではないな。
「んー、どうする?時間と場所の両方決めないと」
「んーどうしようね」
「わざわざカフェに集まるのもめんどくさいし、電話じゃすっごい教えにくいし…」
「まぁいいじゃん、今決めなくても」
「星原さんがそれ言うんだ、いいけどさ全然」
私も自分でそれを思ったが、思いつかなかったので仕方がない。
「にしても、まさかこんなに早く仲良くなるとは思わなかったなー」
「ん?私と?」
「うん、そうだけど」
「仲良くなるつもりだったんだ」
「まあね」
彼は最初から、私と仲良くするつもりだったらしい。
「最初は上辺だけで接してーとか、いろいろ考えてたんだけどな」
「あ、私もそれ考えてた」
「結局全部いらなかったんだけどね」
「ねー」
「星原さん泣いちゃうんだもん、2年前とおんなじ」
「うるさい……!」
(泣くつもりなんてなかったのに……)
少し恥ずかしい思いをしながらも、覚えてくれていたことに嬉しさを感じる。
彼の言葉に、ここまで自分の感情が動かされるとは、思ってもいなかった。
そんなことを考えながら、家に着くまでの会話を楽しんだ。
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しばらく歩いたところで、彼から質問が飛んできた。
「どの辺までついていけばいい?」
「あ、丁度ここのマンションだから、もう大丈夫だよ、ありがとね」
私は右に見える、自分が今住んでいるマンションを指さした。
「え……」
彼はなんだか驚いている様子。
「俺もここ住んでんだけど…」
「え…?」
なるほど。
今このタイミングで聞いてきたのはそういうことだったのか。
納得納得。
(まってまってまって……)
どういうことだ。
私と宮くんが同じマンションに住んでいる?
いやいやまさか。
2年間会いたくてずっと待っていたんだぞ?
私は高校進学が決まったタイミングでここに引っ越してきたが、それでもこの2年間彼となんとか接触できないか、色々試みたんだ。
それなのに?
偶然引っ越してきたマンションに住んでいた?
「あーじゃあ、お互い一旦帰ろうか」
「あ…うん、そうしよう」
「一通り整理がついたら連絡するわ……」
「うん……」
私達は一度、自分の部屋に戻ることにした。
私は部屋に着いた後も、しばらく玄関から動けずにいた。




