34、王子の尋問
サルティーか、懐かしいな。会いたくないけど。サルティーの犠牲者って、私が見たのは今のところあの芋虫だけだし、しかも殺したのは伯爵だし。
サルティーが言ったことを思い出していた。
『国が悪くなるのは人間が原因だ。我々は力を貸しているに過ぎない』
悪魔ってそんなに悪い存在なのかしら? むしろ人のほうが悪い気がする。
『悪魔は人の負の心から生まれたと言われています』
授業でもそう言っていた。じゃあ、悪は人から生まれるのよね。
王子が私を問いただした。
「猿のことをなぜ知っているか言うんだ」
伯爵も私が悪魔崇拝者だと疑っていた。話しても疑われるかもしれないけど、言うしかない。
「サルティーは、伯爵のことを宿敵と言っていました。伯爵のほうは、私に憑いていた悪魔を祓うために修道院に来ていました。
私に付いていれば、伯爵が来るから寄ってきたんです。私は二人に巻き込まれただけです」
「ふん、そうか」
第二王子も聖騎士だから、サルティーの敵よね。
「カイに確認を取るから。お前もモントルに行くんだ」
「モントルに行くと、今日帰れなくなります!」
「泊まっていけばいいだろ。前も泊まったと聞いたぞ」
伯爵、何でも話して! 王子は疑いの目で私を見ている。私は王子に監視されているのね……仕方ない。
昼食の時にベイクとコンラッドに、モントルに泊まると話した。
モントルに着くと馬車を降りて、王子が前を歩き私が後ろをついていった。出迎えた伯爵は、驚きと嫌な顔をした。
「どういうことだ」
高圧的な目で私を見る。私は横を向いて目を泳がせた。そりゃ、内緒で首都に行って、王女に婚約解消の手伝いを頼んだとは言えない。私は冷や汗をかきながら、黙っていた。王子が代わりに口を開いた。
「こいつは本当にお前と結婚する気がないぞ。お前と婚約解消できるなら、俺と婚約してもいいと言った。しかも兄上も婚約解消して、こいつに興味を持った」
王子! なんで言っちゃうのよ! それに、私はふりって言ったから!
伯爵は口を四角にし、唖然として私を見た。それについては、はっきり言わないといけない。
「私はどっちも嫌ですよ!」
「なぜだ?」
「権力とは結婚したくないんです。いろいろ巻き込まれたくないんです」
「俺は公爵家を継がない」
「俺も第二王子だ」
「モントル領は十分大きいでしょ! それに、実家がデカいのがダメなんですよ」
「それは仕方ないだろ」
二人とも私じゃなくて、婚約者が欲しいだけでしょ。誰でもいいじゃん。私は提案してみた。
「平民でも良くないですか?」
「……平民か。そうだな」
王子が簡単に了承すると、伯爵も納得した顔をした。
「じゃあ、ヘミに聞いてみよう」
何ですって!?
「ヘミがかわいそうでしょ!」
「お前……」
「伯爵だっていつも、私のこと、こいつとか言うじゃないですか」
「それは否定しない」
「お前、人気ないのか? 珍しいな」
王子が伯爵を見て真顔で言う。
「あ、でも、修道女の間では伯爵はすごく人気でした」
そう言うと、王子は嫌な顔をし、伯爵は無表情になってすぐに撤回した。
「冗談だ。俺は別に結婚しなくてもいい」
「俺もお前がそう言うから、婚約者を作らなかったんだ。お前が抜け駆けするからだぞ」
王子は私たちを見て、フンッと鼻息を出して納得したようだ。
「お前ら、本当に仲がいいわけじゃないんだな」
「そうですよ。私たちただの知り合いなんです」
「そうだな」
「じゃあ、お前は別に好みじゃないから、一応候補ということにしておく。兄上も母上のような女性が好みだからな」
「どうなるか分からんからな」
伯爵はなんでもない顔をして、王子と顔を見合わせて言った。反対しないのか。
「平民から探すというのも良いからな。貴族の女はどうも嫌だ。お前の母親のような令嬢ならいいが」
お母様を基準にしないでよ。王子はお母様のファンなのかしら? 王子が伯爵に聞いた。
「そういえば、義妹がそっくりだと聞いたが。こいつが言うには、いい子だとか。お前は見たことがあるのか?」
「!」
うわっ! 伯爵が目元をどす黒くして私を睨んだ。
「その女は、色が似ているだけだ。顔ならピニオンのほうが似ている」
伯爵はそう思っててくれたんだ。お母様に似ていると言われるのはうれしい……。この状況でなければだけど……。
「その親子はただの使用人で義妹ではない。しかも、その親子が子爵に毒を盛った罪人だ。俺についていた悪魔は、その女に憑いている子デビルだ。母親には中デビルが憑いている」
「なんだと!? お前、嘘をついたのか!」
王子が私を怒りの目で見た。もう! ここでバラさなくてもいいでしょ。伯爵は私を指さした。
「こいつは、イタズラをしてくるから注意しろ」
「だって、王子が私に興味を示すからですよ」
「なるほど。お前のことはよく分かった。こんな女は願い下げだ」
王子は怒って、フンッと横を向いた。良かった! もう不敬罪のことをすっかり忘れていたけど、今はステラの友達だから大丈夫だろう。
王子からの疑いは解けなかったが、私はやっと解放されて、前と同じ客間に案内された。この部屋は、黄緑がかったクリーム色にピンクのバラの壁紙で、濃い緑色の葉っぱがアクセントで爽やかな部屋になっている。家具も白でおしゃれだ。ちょっと個人部屋の感じがする。案内のメイドに聞いてみた。
「ここは客間ですよね?」
「いいえ。ここはお嬢様用の部屋です。古かったので、旦那様が壁紙と家具を新しくしたんですよ」
えー!? メイドはキラキラした生暖かい表情で微笑んだ。
「ここは、屋敷の家族用の居住区です。旦那様の部屋とは距離がありますので、ご安心ください」
あはははは。そうか、用意してくれたんだ! 本気度ってやつかな? 伯爵の気が利くところはいいわよね。
でも、あの二人といても、心休まる人はいないだろうな……。




