33、婚約破棄
食事の後、私の客室に王女が来て、ベッドに腰かけて話した。
「エディットは本当に許せないわ! 私はあの女、嫌いなの。なんで、ヒュー兄様は婚約破棄しないのかしら?」
「私が急に現れて、晩餐に参加したのでおもしろくないのでしょう」
「そうね。こんなことはないもの。私の初めての友達だからね!
エディットは初め、はつらつとしてかわいい令嬢だったの。だからみんな賛成した。でも、お兄様の婚約者になると周りに偉そうにふるまうようになったのよ……。私と、ステン兄様のことも見下してきたわ」
え~、やりすぎでしょ。第一王子は、王様の顔色を伺うような感じだったけど……。
「第一王子はどんな方ですか?」
「ヒュー兄様はああ見えて、王にふさわしい方よ。お父様とお母様のことを尊敬している。私たちにも優しいし、カイのことも気に入っているわ」
そうか、多分私がぽっと出の令嬢だから、警戒していたのね。まあ、あの話では嫌な顔をするでしょうね。
「今日は一緒に寝ましょうよ。この客間のベッドは狭いから、私の部屋でお泊りしましょ。私、友達ができたら、お泊り会をするのが夢だったの!」
「いえ、あの、ちょっと」
王女に何かあったら、家に帰れないわ……。
「みんな、私には遠慮するわね。でも、もう決めたから!」
「はい……」
王女には逆らえない。私は観念した。
ヒューターは、エディットを馬車で送っていった。二人で隣り合わせに座っている。
「エディット、今日はどうしたんだ。あんな態度、君らしくないな」
「だって、急に王女の友達とか言われても、信じられなくて。とても評判の悪い令嬢と聞いて、心配になったんです」
エディットは涙ぐんだ。涙をハンカチで拭くエディットを、私は冷ややかに見ていた。
やれやれ、この女はやっぱりダメだな。私は、お母様のようなしっかりした女性がいいんだ。普通の令嬢では王妃は務まらない。ステラとも仲が悪くなった。知らない令嬢が来たから試しに呼んでみたが、やっと決心がついた。
ステラの言った通り、婚約解消だな。
それにしてもピニオン令嬢は、変わった令嬢だな。あんなことを言われても平気で、食事をしていたぞ。カイが選んだだけあって肝が座っているな。
なにより、父上を笑わせていた。おもしろい令嬢だ。
ヒューターは窓の外を眺めてにやりとした。
王女の部屋に、寝る準備を済ませたピニオンがガウン姿で、メイドに連れられてやってきた。ドアをノックする。
「ピニオンです」
「どうぞ!」
王女がドアを開けて、招き入れた。王女の部屋は、薄いピンクが基調になっていて、かわいらしい部屋だった。ベッドは、こげ茶色の天蓋付きのダブルベッドで豪華だ。私が寝ても大丈夫そう。
「夢がかなったのもカイのおかげね」
「私は修道女の友達と、メイドの友達がいますが、貴族の友達は初めてです」
「そうなの! お互いに初めての友達でうれしいわ。ピニーって呼ぶわね。私はステラって呼んで」
モンじゃないんだな。モンもかわいいけど。
「分かりました。ステラ王女」
「呼び捨てでいいわよ」
「はい」
私はガウンを脱いで、ベッドに横になった。王女も転がる。
「やっぱり変わってるわ。平民と友達なんて! メイドと友達になれるの?」
「メイドのワンスは私が留守の間、家のことを連絡して助けてくれたんです。もちろんお金を払いました。ワンスは家族に仕送りをしていましたから」
「そうなのね。ピニーを食事に招待したいと話して、ステン兄様にいろいろ聞いたのよ。馬車に乗れる話は、お母様も顔をしかめてたわ」
お~い、伯爵は王子に何でも話してるのね! 私は事前に審査されていたんだ。だから王様も死亡説を知っていたのね……。そして、何故か通った!
「ピニーがカイと結婚したくないなら、協力するわよ。独身二人でずっと仲良くするのもいいから」
「あ、はい。ありがとうございます」
「うれしいわ。女の子の友達ができた。私って子供っぽいわね」
「……私もまだ子供です」
王女はうれしそうに笑った。王女は一つ年上だけど、王女も寂しかったのね……。王族でもいろいろあるよね。
翌日、朝食を済ますと、やっと帰れることになった。うちの馬車が通路に停まっているが、周りを騎乗した騎士団が囲んでいた。豪華な馬車も一台ある。何だろう、嫌な予感がする。ベイクもコンラッドも緊張していた。
王女が見送りに来てくれた。馬車の荷台にカバンを積んでもらい、開けられたドアを見ると第二王子が座っていた。
どういうこと!? 私は馬車に乗らなかった。
「俺も、モントルに行くことになったから、一緒に行くことにした」
「やあ、ステラ。いい知らせだ」
第一王子が後ろからやってきた。
「あら兄様どうしたの?」
「エディットと婚約を解消することにした」
「まあ! それは良かった」
え~!? それって、私のせいと思われるからヤバくない? 王女が言った。
「ピニーもカイと婚約解消したいそうよ」
「そうなのか?」
第一王子は私のほうに歩み寄って、左手を取るとキスをした。えっ!? 突然のことに面食らった。
「ピニオン令嬢、今度はゆっくり話そう。道中気をつけて」
「はい……」
第二王子はそれを見て唖然とした。私の手を引っ張ると馬車にのせた。
「早く乗れ。出していいぞ」
「はい」
ベイクが返事をした。騎士団が先に動き、私たちの馬車を中心に隊列を作って進んだ。王女がとても名残惜しそうに、大きく手を振った。第一王子も小さく手を振っている。
「ピニー、またね! 手紙を書くわ」
「はい、お元気でステラ」
窓から後ろに向かって、ステラと第一王子に手を振った。
第二王子は足と腕を組んで、不機嫌そうにしていた。この人は本当に、噂どおりの人よね! 一緒に帰るだなんて……まあ、話すこともないし黙っていればいいか。
「あの二人は時間の問題だったが、兄上までお前に興味を持つとはな」
「? それより何で、こっちの馬車に乗ったんですか」
「猿のことを聞くからだ」
あれ、まだ終わってなかったんだ! まずい……。




