32、王女とお茶会
何故か王子と昼食を取って解散した。昼食はとてもおいしかったので、緊張はすぐに取れた。さすが、城の料理だわ。舞踏会のときは食事をせずに帰ったから、堪能できて良かった!
お茶会の時間は13時半になった。私はその間に従者の待機場所を聞いて、迎えに来た二人に伝えに行った。二人には時間まで、また自由に過ごしてもらうことにした。
私はやっと王女の待つ、庭園に案内された。白い東屋に座って待った。
王女がメイドを引き連れてやってきた。昼食の後なので、メイド二人がお茶だけを準備した。終わると離れて立っていた。王女は私を見ずに、口を開いた。
「それで、話とは?」
「はい、お時間を作っていただき、ありがとうございます。
私と伯爵の婚約は契約婚約でして、私はいずれ婚約を解消しようと思っています。王女は、伯爵の婚約者にふさわしい方だと思っていますので、直接お伝えした方がよいと思いました」
王子に言ったことと同じことを言った。王女が伯爵のファンだという話には触れないようにした。関係が分からないし。
「……私はカイとは婚約できないの」
「え?」
「ローデン公爵家は四人も令息がいるでしょ。家も安泰で勢力をこれ以上強くするわけにはいかないから、私が降嫁することはできないの。それにカイは私にも誰にも全く興味がないのよ。そんなカイが舞踏会のときに、ずっとあなたのことを見ていたのよ」
王女は私を見つめた。それで、足を踏めなかったのね! あいつ、私を監視していたんだわ! 私が顔を歪めると、王女は怪訝な顔をした。
(なんかリアクションが思ってたのと違う……)「手紙をもらったときはどういうつもりか分からなかったけど、あなたやっぱり変わっているわね。カイと結婚したくないなんて」
「伯爵は悪魔です! それに勢力争いに巻き込まれたくないんです」
「そうだったの。私はあなたとカイのことを応援しようと思っていたのよ。でも、違うのね」
何ですって! 私の計画が~。でも、王子が協力してくれるからいいか。
「王女がすごく見ていたので……てっきり、ご不満かと思っていました」
「最初はね」
「それで、王女を頼りにしてきました。でも第二王子が協力してくれるかもしれません。伯爵と友達なので」
「ステン兄様らしいわ! 私もステン兄様もカイが結婚しないって言ったから、同じように婚約者を作らなかったのよ。お父様もヒュー兄様がいるから、それについては気にしなかった。それに叔父様の家にも子供はいるし」
思ったよりここの王族は自由なのね。というか、二人に影響を与えたのは伯爵じゃないの?
「やっぱりあなた気に入ったわ! 私の友達になってちょうだい」
え? それは困る! 王女と友達なんて知れたら、他の貴族に目を付けられるに決まっている!
「私ごときでは、恐れ多いので。では、今日はもう失礼します」
「ダメよ、逃がさないわ! 決めた。今日は泊まっていきなさいよ!」
ダメでしょ、それ! 私、捕まった? なんか伯爵に似てるよこの兄妹……。
「どうせもう今日は帰れないでしょ」
「……そうですけど」
はあ……。心の中でため息をついた。王族には逆らえない。
その後はお茶をしながら、ゆっくり王女と話をした。15時近くなるとお菓子が運ばれてきた。すごくおいしい! 来て良かった!
お茶会が終わると、客間に案内された。荷物をベイクとコンラッドに持ってきてもらった。
「今日はここに泊まることになったの。あなたたちも部屋を用意してもらったから、そこに泊まってちょうだい。明日の朝帰るわ」
「分かりました」
「城に泊まるなんて名誉なことですね」
「そうね……」
二人ともニコニコしていた。明日まで無事だったらね……。
しかも、王族の晩餐にまで招待されてしまった。終わった……。
夜になり、食事の間に通された。王様が上座に座り、左に王妃様、右に第二王子、隣にヒューター第一王子と婚約者のエディットが座り、私はその向かいに座る。王妃と私の間にモンステラ王女だ。第一王子が下座なのは、婚約者がいるからだろう。私がいるから呼んだのかな。
エディットはきれいだが、きつい目で私を見ている。第一王子も私に硬い表情を向けていた。
当然だな。今日会ったばかりで、王女の友人として城に泊まり、王族の晩餐にまで招待されたんだから。怪しすぎるわ! 自分でもそう思う……詰んだ。でも、料理はめちゃくちゃおいしいわ! 最高!
王様が私に向けて口を開いた。
「そなたは、マクレガー子爵令嬢ということだが」
「綿花の産地です」
横の王妃様がそっと情報を付け足した。
「そうか! 上質な綿がモントル地方にあると聞いている」
「ありがとうございます」
私はお礼を言った。第二王子が嫌味な顔をして言った。
「こいつはカイの婚約者なんだ」
王妃様は第二王子に顔をしかめた。多分言葉遣いが悪いからだろう。王様が少し驚いた顔で言った。
「ほー、舞踏会のときに会わなかったな」
うわ、しまった……。王妃様が静かに答えた。
「下位の者なので挨拶を控えたのでしょう」
「そうか。しかしカイが婚約するとは思わなかったな」
伯爵だから、婚約者を紹介する立場を控えたんだ。王妃様はちゃんとした人だな。助かった。王様も伯爵とは親しいのね。めちゃくちゃ厄介じゃん。
王女がうれしそうに言った。
「そういえばピニオンったら新聞に載ったのよ」
「わたくしも見ましたわ。強盗を蹴り殺したとか」
「その話は貴族の間で聞いたぞ。恐ろしい令嬢がいるとか」
急にエディットが不快な顔をして言い、王様も反応した。私はその話にギョッとした。どんな噂になってるのよ! 貴族ども、ちゃんと新聞を読みなさいよ! こっちは命がかかってるのよ!
王妃様が王様にそっと訂正した。
「強盗に飛び蹴りをして捕まえたのです」
「なんと! 貴族の話もいい加減なものだな。ピニオン令嬢には、死亡説も流れていたそうだし。フム」
その話、王様も知ってる……? 王妃様に飛び蹴りと言わせちゃったわよ。王妃様は王様の秘書みたいな存在だな。
「エディット、ひどいわ! ピニオンがそんなことするはずないでしょ!」
王女が怒って言うと、エディットは知らん顔をして食事を続けた。第二王子がまた口を挟む。
「こいつは、初対面のカイに回し蹴りをしたんだ」
「ぶっ、あのカイにか! あはははは」
王様は笑った。お~い、伯爵、何しゃべってんのよ!
「どういうことだ? なぜそのような令嬢とカイは婚約したのだ。まったく分からん」
私も分からないけど、説明しないと。
「それは、悪魔に憑りつかれたハンターが修道院に逃げてきて、嘘を言ったんです」
私はその時のことを説明した。蹴る気満々だったことは伏せた。
「お~、なんとも不思議な話だ」
王様は修道院の話を楽しそうに聞いていた。王妃様は悪魔の話に顔をしかめていた。第一王子とエディットもだ。
「ピニオンさんは悪役令嬢と言われていますから、悪魔が憑いているんじゃなくて?」
『!』
エディットの言葉に、他の者が凍り付いた。何てこと言うのよ、この女は! 誰かこの女を黙らせなさいよ! 私も初めそう思ったけど、性格は関係ないから元々悪いって、ここで証明する必要ないし。あんたはそうしたいんだろうけど。
それに、今日は第二王子には何も言われてないけど、ここで悪魔が憑いてたら私はどうなっちゃうのよ。心の中で文句を言いながら、周りの様子を見た。
第二王子は知らん顔をしていた。王女は悔しくて泣きそうな顔をしている。もし憑いていたら、王女の友達に憑いていたことになって、王女まで問題ありになるからこの場では言わないだろうなと思った。
王妃様と第一王子は、エディットの発言に唖然としていた。
「エディット、先ほどから客人に失礼なことを言うのは止めなさい」
王様がエディットを窘めた。良かった! ありがとう王様! それを受けて、第一王子もエディットに注意した。
「エディット、どうしたんだ……」
「申し訳ありません……」
エディットは悔しそうな顔をして、目を横に向けて私以外に謝った。この女、許さん!
王様が私に微笑んだ。
「すまなかったね、ピニオン令嬢。カイにも怒られてしまうよ」
「いえ。大丈夫です」
慣れてますから。私は微笑んで答えた。それに本当のことだから、伯爵はフッと嘲笑するだけだろう……。今憑いてるのは伯爵もだけど。
他の人たちは、表情を顔に出すようにしているから分かりやすい。ここで一番怖いのは、やっぱり笑顔の王様よね。気をつけないと……。




