25、友達の第二王子
私たちは会場の中に入って、ひときわ注目を集めた。
視線が痛い! 刺さるようだわ。指輪の分、我慢だわ! 私は言い聞かせた。でも、すぐに視線は移動し、令嬢たちが見ているのは伯爵だった。めったに舞踏会には顔を出さないから……。私も横から伯爵を見上げる。結局この人は珍獣なのよ。
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません。……気になりましたか?」
「穴が開くほど見られてはな」
「ああ……」
そうですね。珍獣だから、よく見てしまった。
「でも、他の人のほうがよく見てますよね」
「お前の視線のほうが、おかしいからな」
伯爵はギロリと私を睨んだ。うっ……やばい。珍獣なんて言ったら、本当に串刺しになっちゃうかも。
音楽が流れる。伯爵と向き合って、お辞儀をして手を組んだ。伯爵の手が腰に回り、こそばゆいわ。
「お前は小さいな」
「やっぱり、大きい人のほうがいいですよね!」
「……」
伯爵は私をくるりと回すと、抱き寄せた。
「羽のように軽いから、楽だ」
「そうですか……くっつきすぎですよ」
伯爵はパッと私を離す。伯爵はダンスも上手だ。あ、足を踏んでやろうかな。みんなは、私が下手なほうが喜ぶだろう。私は早速、足を出そうとしたが、急に体が浮いた。
「えっ?」
「お前の考えていることなどお見通しだ」
伯爵は私の腕を支えて持ち上げると、また下に降ろした。
ちっ。心の中で舌打ちをしたけど、顔に出ていた。それを見て伯爵は、満足そうに嘲笑を浮かべた。
その様子を見てか、周りはさざめいた。音楽が終わり、お辞儀をした。
「さて、十分見せつけたので、今度は挨拶に行くぞ」
「えっ!? 誰ですか」
ドキッとして焦った。——王様とかかな? ちらりと、壇上の王族の席を見ると、紺色の髪のモンステラ王女が身を乗り出して、ものすごい顔をしてこちらを睨んでいた。
ぞっ!
「第二王子に会いに行く」
第二王子は、壇上にはいなかった。薄い紺色の髪の第一王子は、婚約者の公爵令嬢と二人で会場に降りて、他の貴族と話をしていた。公爵令嬢は、ピンクレッドのきれいな髪の人だった。いかにも高貴な令嬢といった感じ。
「第二王子って、性格に問題がありますよね」
できれば会いたくない……。
「そうだな。会わないと、多分会いに来るぞ」
「会います……」
こ、怖すぎる……。伯爵と、王族が使う赤いカーテンが付いた入口に向かう。脇にいる従者に通してもらって、会場を出ると左手に階段があった。上にも観覧席がある。
階段の上に腕を組んで壁にもたれかかっている金髪の男性がいた。第二王子は金髪だと聞いていたので、多分この人だ。金髪は王様の髪色で、紺色は王妃様の髪色だ。
赤い絨毯の階段を二人で上がる。
ああ……この人も私を睨んでいるわ。はぁ……。心の中でため息をついた。
「お前たち、悪魔が憑いているぞ」
「えっ!?」
私は思わず声を出した。王子はこちらを指さしていた。なんか思い出すわね。
「カイ、この女に悪魔が憑いているから婚約したのか?」
「この悪魔は、こいつのではない」
王子の問いかけに、伯爵は私に指をさして答えた。こいつ!? 婚約者に向かって……。それと、王子も悪魔が見えるの!?
王子は人差し指と親指を合わせて、上に向けた。
「なぜ取らない?」
「取っても無駄だからだ。
紹介しよう。こちらが、ステファン第二王子だ。ステン、私の婚約者のピニオン・マクレガー子爵令嬢だ。今は父親に代わりに子爵代理をしている」
「ピニオン・マクレガーです」
「フンッ」
私がカーテシーで挨拶をすると、王子は鼻を鳴らして横を向いた。やっぱり怒っているようだ。私もワンスのことがあって、寂しいから、友達の婚約者なんかおもしろくないわよね……。絶対他に友達いないだろうし。王子は少し斜めに顔を上げて、私を見下すように見た。
「その髪色、まるで犬を連れているようだぞ」
なんだと!? でも我慢だ。私が不釣り合いなほうが、伯爵と婚約解消できるからね。むしろもっと言ってください。伯爵が私を眺めて無表情に言った。
「おもしろいだろ」
お前が言うな! 伯爵の左腕をつかんで爪を立てた。しかし、伯爵の腕は硬かった……。伯爵は微笑むと、私の手にそっと自分の手を乗せた。
「躾がなっていないがな」
そう言うと、恐ろしい顔をして私の右手を掴んだ。やばい! 手を振りほどこうとしても、取れないというか、岩に掴まれたみたいに動かない! 私は涙目になる。これだと、お仕置きに怯える犬と同じだ。それを見て、王子は満足したようだ。興味が無くなったように観覧席の方に戻っていった。
「伯爵様はお優しいので、お仕置きなんかしませんよね」
「当たり前だ。そんな趣味はない」
そう言うと、私の手をパッと放した。良かった! 私は自分の手をさすった。
「舞踏会はこれで終わりだ。帰るぞ」
「はい!」
良かった! 多分婚約のお披露目だったのね。そういえば、伯爵は出かけるときから無口で、機嫌が悪そうだった。私がいたずらしようとするから、余計に気が散ったのかも。
私は伯爵の後ろ姿を見た。伯爵でも余裕がないこともあるのね。そう思うと、とても新鮮だった。
伯爵は振り返ると、私に手を差しだした。私は伯爵の手を取って、階段を下りた。
「王子は、光魔法が使えるのですか?」
「秘密になっているが、そうだ」
「なるほど」
多分、悪魔が見えるせいで性格がおかしいのね。伯爵は唯一同じだから、きっと親しみが湧いたんだわ。この国は男の神様だから、男性のほうに光魔法が現れやすいという話だ。でも、聖女の様に治癒魔法の話は聞かないな。私は伯爵に聞いてみた。
「治癒魔法は使えますか?」
「使えるが、光魔法は魔力消費が激しいので、悪魔祓いにしか使わない」
聖女、かわいそう……。
「あいつは、悪魔が見えるせいで人間不信なんだ。光魔法のイメージを損ねるから、内密にされている」
「光魔法の人って性格いいイメージありますもんね」
二人とも結局そのせいで問題ありだわ。伯爵がジロリと睨む。うおっ!
「伯爵様はお優しいです」
「あいつは難しい性格だから気をつけろ」
「ええ、もちろんです」
王族に粗相したら即、処刑だわ。内密にされているのは他にも、第二王子に稀有な光魔法があると、王位継承争いに利用されるかもしれないからだろう。
「あいつも一応、聖騎士だ。聖騎士団を指揮して、悪魔崇拝を取り締まっている」
ぞっ! 気をつけなきゃ! 目を付けられたら大変だわ。私は身をすくめた。それを見た伯爵はため息をつく。
「良かったな、俺の婚約者で」
「ええ、そうですね!」
何がいいかよく分からないけど、無事に王宮を出られた。
舞踏会はこの後も3日続くが、私たちは翌日観光をして、明後日帰る予定だ。




