24、夏の舞踏会
伯爵が衣装を揃えてもいいと言ったので、丁重に断って帰ってもらった。
毎年、夏の長期休暇期間に王宮で舞踏会が4日間開催される。その舞踏会に参加できるのは成人している18歳からだ。お父様は商談相手と会うために毎年参加していたが、私は修道院にいたから一度も参加したことがない。
今も社交界には顔を出していない。死亡説が流れていたし、伯爵の婚約者だし、修道院で会った令嬢たちにも会うし、色々ありすぎて気が滅入る。
伯爵が馬車で迎えに来てくれることになった。首都はここから、馬車で1日かかる。伯爵と馬車で旅をするのも怖いわ……。
宿泊は首都の伯爵邸なので、メイドは連れて行かなくてもいいと言われた。旅の最中のことも、まあ自分でできるから必要ないけど、ワンスを連れて行くことにした。伯爵には伝えてある。今まで私にちゃんと仕えてくれたので、ご褒美に首都を見せたいのだ。私も行ったことがないし、ワンスはもう友達のようなものだから一緒に行けるのは楽しみだ。
ワンスに言ったら、とても喜んでいた。舞踏会が終わったら観光して帰ることにした。
当日になり、迎えの馬車が来た。大きな旅馬車で荷物もたくさん積める。馬に乗った護衛も一人いる。馬車の同乗者には、伯爵の秘書補佐のデニスがいた。伯爵が紹介した。
「若く見えるが、俺より年上で25歳平民の独身だ」
「25歳でも十分若いですよ!」
デニスが苦笑して言った。ワンスは頬を染めていた。あら! その後、ワンスとデニスがずっと話していたので賑やかだった。私とワンスが楽しむはずが、なんだか違う方向に……。
首都の伯爵邸に着いた。伯爵邸の管理人にデニスとワンスが案内を聞いていた。その後ろで、こそっと伯爵に聞いてみた。
「デニスを連れてきたのは、ワンスに合わせてですか?」
「そうだ。領地は秘書に任せているからな。
私はいつも一人で行動するから、デニスも首都には来たことがない。ちょうど良いと思ったんだ」
う~ん。二人が仲良くなっちゃったら……なんだか周りから固められてるような気がする。かと言って、ワンスがうれしそうな顔をしているから反対もできない……。
客室に案内されて、ワンスと二人きりになった。
「お嬢様にお仕えして、本当に良かったです!」
「そう……良かった。デニスは伯爵が選んだ人だから、いい人よね」
「そうですよね!」
ワンスは両手を握って明るい顔をした。うちの屋敷にも若い男性は働いているけど、ワンスがここまで夢中になる人はいなかったようだ……。そりゃまあ、相手はモントルの秘書補佐だから、仕事も申し分ないだろう。
私って、いつも寂しい思いをするわね……。
舞踏会当日になった。衣装は自前だ。ワンスは舞踏会用のセットをしたことがないので、伯爵邸のメイドにやってもらった。ワンスもいい勉強になったと思う。
そしてあの婚約指輪を付ける。扇子だけ持つと、伯爵が待つ玄関に向かった。伯爵は白い衣装に身を包み、息をのむほど美しかった。
お前がきれいでどうするんじゃい、って思った……。
「どうした。顔が変だぞ?」
「いつもですよ!」
私は、ツンッとして横を向いた。伯爵が横に立って、私の耳元に顔を寄せる。
「指輪分の働きをしなければ、どうなるか分かっているだろうな」
ぎゃあ!! ゾッとした! 私は慌てて伯爵と腕を組んだ。
「今日も伯爵様は麗しいですわ。おほほほほ! では、参りましょう」
おかげで私は、すでに汗びっしょりよ。伯爵は蔑みの目で私を見る。
舞踏会用の豪華な馬車に、また四人で乗り込んだ。
王宮の玄関前で馬車を降り、伯爵と腕を組んで階段を上った。
なんと! 扉の前の衛兵の一人がロイドだった。
「ロイド! 久しぶり!」
私は声をかけると、ロイドはこちらに気がついて驚いた。私たちはロイドのほうに寄って話をした。
「お久しぶりです。伯爵様、ピニオンさん。いや、ピニオン様」
「もう、いいのよ」
私は笑った。伯爵もロイドに微笑んだ。
「久しぶり、ロイド。騎士になったと聞いたが」
「はい、見習いで一通りの仕事を学んでいます。今日は衛兵です」
私は久しぶりに、修道院の関係者に会えてうれしかった。みんなと分かれてから2か月が経っていた……。これで、レニーにもロイドの様子を報告できるわね。
ロイドもにこやかに言った。
「お二人に会えてよかったです。レニーにもお伝えしますね」
「私もよ!」
ロイドと別れて城の中に入った。緊張が取れたわ。
広間の中は、私の噂でもちきりだった。
「あの悪役令嬢が生きていたですって!?」
「継母と義妹を追い出して、ショックで子爵が寝込んだそうですよ」
「なんて、禍々しい! さすが悪役令嬢ですわ。どうして伯爵様はあんな女と婚約したのでしょう」
「おそらく、これ以上モントル地方に悪がはびこらないように、ご自身を犠牲になさったんです!」
「まあ、なんて尊い。ご立派です! さすが聖騎士様!」
……なぜ私の評判が駄々下がりして、伯爵の評判がうなぎ上りなの……? 私たちは登場前の入口の脇で、中の話を聞いていた。
「お前、許さん」
「は? せめて名前で呼べ」
「伯爵も私のこと、お前って呼ぶでしょ!」
私はプンと横を向いた。
「そうだな。なら、私のかわいい婚約者様」
ぞわぞわぞわっ……。ただならぬ悪寒を感じた。
「お前でいいです」
「フン、よかろう」
負けた。威圧感では勝てない。これって、ずっとこの力関係なの? おもしろくないわ! フンッ! 心の中で伯爵にドスドスと突きを出す。
伯爵が、私の微妙な顔をじっと見ているのに気が付いた。
「また、魅了の魔法を使う気ですか?」
「……お前を大人しくさせるには、それが一番いい方法だ」
「そんなのダメですよ!」
私はさっと伯爵の横に並んで腕を組んだ。
「横に並べば、目は合いませんからね」
「そうだな」
伯爵はフッと笑うと、私の手に自分の手を添えた。伯爵の手は、冷たくもなく熱くもなく、ちょうど良い温度で、私はなんだかほっとした。




