23、呪いの指輪
契約書には婚約契約書と書かれてある。内容には、結婚をするという明言は書かれていない。私は伯爵に確認した。
「これは、婚約だけの話で、結婚はないですよね」
「……結婚するから婚約するのだろう? 貴族の結婚とはそういうものだろう?」
それはそうだな……。伯爵は今後も、令嬢避けとして私と結婚するつもりなのね? なんか汗が出てきた。このままだと、悪魔と永遠の奴隷契約だわ……。
(ピニオンは結婚には後ろ向きだからな。気が進まないだろう)「結婚の話は子爵が目覚めてからだな。私も結婚する気がなかったから、急いだりしない。私たちは利害が一致した関係だ。今はそれでいいだろう」
「はい……」
確かにそう。それで婚約したわけだから。お父様が寝ている間に婚約してしまったから、起きたときになんと言うだろう……。でもこのまま進むわけにはいかない。いざとなったら、反対してもらう! そう、それで決まり! よしっ、元気が出た。
「左指を出せ」
「はい?」
私が左手を出すと、伯爵は細い紙を薬指に巻きつけて、鉛筆で印を付けた。
「サイズを測っていなかった。……細くて小さい手だな」
「わたくし、可憐ですから」
「私を殴ろうとした」
「あははは」
私は乾いた笑いをする。それは忘れて……。
「次は殴りますね」
「プッ」
伯爵は思わず笑った。伯爵はカバンに紙をしまうと、お菓子を出した。でも私に渡さない。
「お前には罰のほうがいいようだな」
「嘘ですよ! 当たらないですもの。おあずけするなんて、相変わらず意地悪な人ですね」
私はプンと腕を組んで横を向いた。今度から心の中で突くことにする!
伯爵は私の頭の上にお菓子を置いた。
「次は指輪を持ってこよう」
私は頭の上でお菓子を受け取った。
「期待してます」
私はジロリと横目で見る。伯爵は見下したような不遜な微笑みを浮かべた。私たちの関係は甘くない。
伯爵が帰った後、メイドたちがうれしそうに話していた。
「伯爵様って、やっぱり素敵ですね!」
「本当!」
「え?」
伯爵はメイドたちにも人気だ。
「ボクもお菓子をもらいました」
「子供にも優しいんですね」
「良かったわね」
何!? ミルンは白とピンクの渦巻きのキャンディーを見せた。薄紙に包んでリボンがしてある。メイドたちもそれを見てニコニコしていた。
早速ミルンを餌付けするとは! けしからん! ミルンは素直なので、使用人の間でも男女問わず人気者になっていた。
「妹に持って帰るよ」
「キャー、優しいのね。それなら、ミルンにはお菓子をあげるわ。一緒にお茶にしましょう」
メイドとミルンは行ってしまった。私はぽつんと立っていた。手に持ったお菓子と契約書を見る。私も餌付けされているのか……。
その後、伯爵と私の婚約が発表された。私の名前は出さずに、新聞にはマクレガー子爵令嬢となっている。粋な計らいだ。当分私だと気づかれないだろう。良かった。
でも、発表された以上、ヘミたちに手紙を書かなくてはいけない。友達だから黙っているわけにもいかないので、私は二人に手紙を出した。
すぐに返事が届いた。同じ封筒に二人分の手紙が入っている。私も同じようにしている。
二人の手紙は色めき立っていた。
『おめでとう! まさか二人がそんな仲だったとは! ヘミ』
『おめでとうございます! お二人ともお似合いです! レニー』
二人にはちゃんと利害関係だと書いたのに。ダメだ、何かが通じてない……。今度会って、ちゃんと言わないと!
お祝いのほかに、修道院の状況なども書いてあった。
レニーの手紙にはロイドが衛兵を辞めて、王宮の騎士になったと書いてあった。私が戻る前にもその話はレニーから聞いていた。ロイドは王宮騎士の推薦状を神殿に書いてもらったので、志願していたのだ。ずっと、修道院にいるのかと思っていたが、そういうわけでもなかった。
レニーがその話をしたときは寂しそうにしていたが、喜んでもいた。レニーももう18歳で成人したし、ロイドは男の子だから外の世界に行ってみたいんだと思う。
二人の同世代の孤児院出身者は、もうレニーしか残っていない。
うちの領地でも孤児院出身者を受け入れようかしら。今度マイクに相談してみよう。
しばらくして、伯爵が指輪を持ってきた。応接室で伯爵がカバンから黒い箱を取り出した。どんな指輪かしら、怖いよりも楽しみだわ!
伯爵は箱から指輪を取り出すと、私に手を出すように手のひらを向けてきた。私は仕方がないので、伯爵の手の上に手を乗せた。
伯爵は私の左手の薬指にそっと指輪をはめた。
指輪は、3カラットのオーバルのダイヤの周りを、水色の粒石が囲んでいる。台はプラチナかな? ダイヤの大きさはまあまあね。つけた感じでは、呪いはなさそう。でも、
「なんだか、私には合わない色ですね」
私はこげ茶の髪に緑の目だから、この配色だと合わない。お母さまの色なら合ったかも。
「私が隣に立てば問題ない」
「? これって、もしかして伯爵の色ですか!?」
「そうだ、私の本気度が、他の者にも分かるだろう」
シルバーの髪に、水色の目、白い肌。うわぁ……。でも、伯爵カラーは令嬢には人気かも。裕福な平民の夫人も欲しがるわね。これは、売れる!
「満足しました」
「そうか? なら、早速その指輪分働いてもらおうか」
「へ?」
「今度、舞踏会があるから、一緒に参加するように」
いやーーー! 婚約相手の令嬢が、すぐに私だとバレるじゃないですか! 伯爵は冷たい目で私を見ている。
「分かりました……」
私は観念して肩を落とした。




