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VTuber事務所《FMK》 ~宝くじで10億当たったからVTuber事務所作ったらやべえ奴らが集まってきた~  作者: へいん
Chapter 2 "My Own Rainbow"

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レイニーレイジーレイジング

「瑠璃氏、瑠璃氏! 見たっすか、聞いたっすか!? 密林配信からまたクビになったVTuberが出たっすよ!」


 学校の昼休み。

 馬鹿な後輩が人目も憚らずにでかい声を上げながら、堂々と教室に突入してきた。

 窓際の一番後ろという主人公席に座る瑠璃は、げんなりとした顔でイヤホンを外して、食べかけのパンとスマホを机の上に置いた。


「見たし聞いたし、そんなに大きな声出さなくても聞こえてるんだけど」


 瑠璃はイライラした様子で、机を指でとんとんと叩く。

 梅雨の期間中、基本的に瑠璃の機嫌は最高に悪い――というキャラ付けで周囲を遠ざけて、友達がいないのを誤魔化しているのだが、たった今本当に機嫌が悪くなった。


「流石は瑠璃氏っすね! 校内一の情報通! V界隈の話はこの女に聞け! って感じっすね!」


「恥ずかしいからマジでそういうのやめてよ」


 と言っても既にもう手遅れなわけで、瑠璃がVTuber好きという情報はとっくの昔に学校中に筒抜けになっている。

 その原因の一端はこの大声の後輩――2年生の鞍上鞍下(あんじょうあんげ) 鞍楽(くらら)のせいだ。

 鞍楽もV好きの同好の士なのだが、この後輩に同類であると見なされてしまったのが運の尽き。

 とどまることを知らない拡声器パワーで瞬く間に瑠璃がVTuberオタクであると校内に広まってしまった。

 それまでは一応オタクであることは隠していたので、オタバレした時の精神的ダメージはそれなりにデカかった。

 まあ、気にしているのは本人だけで、VTuberが好きというだけで変な目で見るような人間は、少なくともこの学校にはいなかったのだが。


 ともあれそういう事情があるせいで、瑠璃は鞍楽にかなりの苦手意識を持っている。

 一方の鞍楽は瑠璃にすっかり懐いてしまったらしく、事あるごとに上級生であるはずの瑠璃のクラスに突撃してきているのだけれども。


「それと、うちのクラスに来る時は、ソレ(・・)も止めてって言ったはずだけど」


 ソレと言って、瑠璃は鞍楽の股の下を指差した。


 鞍楽は跨っていた。

 四つん這いになった男子生徒の背中の上に。

 ご丁寧に鞍と手綱のオプションまで完備されている。


 傍から見ると、お馬さんごっこなどという可愛らしい次元を通り越して、完全にそういうプレイにしか見えないレベルの変態行為だ。

 純粋に頭がおかしい。


「あー、すいませんっす。自分、代々ジョッキーの家系で、常に馬に跨ってないとどうしても気分が落ち着かなくて」


「ソレは人間でしょ」


「同じクラスの馬場澤くんっす! 自ら志願して馬になってくれたっす!」


「俺……鞍楽さんの馬に成れて幸せです……!」


「こらこら、馬が喋っちゃ駄目っすよ」


「ヒヒーン!!」


「そういうプレイは他所でやってよ」


 本当に頭がおかしいみたいだった。


「それにしても密林配信は本当に何考えてるんすかね? あそこの社長は頭おかしいんすかね」


「アンタだけには頭おかしいとか言われたくないでしょうね」


 だが鞍楽の言わんとするところを理解出来ない瑠璃ではない。

 密林配信から契約解除という形で引退させられたVTuberが出たのは、今年に入ってからもう3人目になる。通算で数えると7人目の契約解除者だ。

 それも人気の低いVTuberを切り捨てるような形で、だ。


 実際、所属Vの契約解除に際し密林配信が公表している声明文にも、回りくどい文章ではあるが、要約すると事務所が要求する数字を出せていないため、というような文言が入れられていた。

 それに加えて、以前から話題にもなっている密林運営の杜撰さを暴露した動画だ。

 これで炎上しない方が無理がある。

 今回の笛鐘琴里というVの契約解除が新たな燃料となったらしく、密林の炎上は再び勢いを増しているようだった。


 まともな運営なら、ファンの怒りに油をぶちまけるような所業をこんな短期間で重ねるわけがない。

 となると考えられるのは意図的に燃やしているという線だろう。

 人気のない……使えないと密林配信が判断したVを着火剤にした、自爆覚悟の炎上マーケティング。

 確かに燃えるたびにトレンドに上がる程度の話題性を得られてはいるが、こんなやり方をしていたらファンはどんどん離れて行ってしまう。


 お子様社長で有名な有栖原は一体何を考えているのか、或いは何も考えていないのか。本当に頭がおかしいだけなのか。

 なんにせよ、自分は密林配信所属じゃなくて良かったと瑠璃は思った。

 密林のVTuberたちはきっと気が気でないだろう。


 いつ自分が契約解除の標的になるか。

 いつ仲間が突然いなくなってしまうのか。

 そんな恐怖に怯えながら活動していては身が持たない。

 それにもし自分だけが生き残って、仲の良い友達が引退させられでもしたら、自分だったらきっと病んでしまう。


「FMKはそんな心配ないだろうけど……」


「? 瑠璃氏、FMKのVTuberも見てるんすか? 流石の守備範囲の広さっすねー!」


「ぅえ!? いや! 全然! 全然見てない! FMKとか1ミリも知らないから!」


「なんでそんな強めの否定なんすか」


 VTuberにとってリアル割れは致命的な致命傷だ。

 ごく少数の信頼出来る人間のみにならバレても問題ないだろうけど、鞍楽だけには知られてはいけない。

 瑠璃も大概口が軽い方ではあるが、瑠璃のそれは意図的に行っているキャラ付け(仮面)であり、口が軽いと言っても本当に大事な情報をぺらぺらと人に話したりはしない。

 言って良いことと悪いことのライン引きは完璧に熟知しているつもりだ。


 だけども鞍楽の拡声器マウスは正真正銘の拡散型ミリオンアーサーだ。

 瑠璃がFMK所属の薙切ナキであると知れた日には、数秒後には地球の裏側までその情報が広まっていることは想像に難くない。

 そういうレベルだ。


「な~んか怪しいっすね~?」


「う…………あっ、そうだ。馬場澤くんは餌何食べるの?」


「馬場澤くんは馬なのでニンジンしか食べないっす! いつも生のニンジンをバリバリ食べてくれるんすよ!」


「へー、そうなんだ。私、昔から馬に餌上げるのが夢だったの。やってみていい?」


「どうぞっす!」


「ヒヒーン!」


 馬の話でなんとか気を逸らすことに成功したようだ。

 危ない危ない。

 瑠璃は今後はうっかりFMKに関する単語を口にしないよう気を付けようと誓うのだった。

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