表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VTuber事務所《FMK》 ~宝くじで10億当たったからVTuber事務所作ったらやべえ奴らが集まってきた~  作者: へいん
Chapter 2 "My Own Rainbow"

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/229

ワンデイ イン ザ レイン


 虹を見たければ、ちょっとやそっとの雨は我慢しなくちゃ。


 ――ドリー・パートン




 ◆◇◆




 ジメジメと、梅雨の時期にありがちなSEが聞こえてきそうな6月下旬。

 梅雨真っただ中で空一面が鉛色に染まっている本日の東京は、プールをひっくり返したような記録的な降水量に見舞われてなかなかの大惨事になっていた。

 そんな悪天候の影響で、今日事務所に顔を出しているVは幽名だけだ。

 というか幽名はもはや事務所に住んでいるようなものなので、顔を出すというか、むしろ事務所から一歩も出られていないというのが正しいのだけれども。


「嫌な天気ですわね」


 窓際に置いた椅子に腰かけて、アンニュイな表情で曇り空を眺める幽名は、思わずスマホのカメラロールに保存しておきたくなる程度には、一枚絵として完成された雰囲気を漂わせていた。

 流石にいきなり撮影するような無礼な真似はしないけど。


「梅雨明けまでまだ長いし、しばらくはこんな感じの天気だろうな」


 天気デッキで応戦しながら、ホットココア入りのマグカップを幽名に手渡す。

 カップを受け取った幽名は、お淑やかに一口だけココアを啜ってから、またも憂鬱そうな瞼の開き具合で窓の外に目をやった。

 この天気じゃあ、最近日課になっていた屋外でのヴァイオリン練習も出来ないだろうし、幽名としては退屈極まりないだろう。

 ヴァイオリンは今の幽名の数少ない趣味の一つみたいなものだしな。

 俺は自分の分のココアを半分くらい飲んでから、「そういえば」とわざとらしく声を上げた。


「七椿、奥入瀬さんから返信はあったか?」


 幽名が興味を持ちそうな話題を大きめの声で七椿に振る。

 途端に幽名がキラキラとした目で室内に視線を戻した。

 が、七椿は眼鏡を曇らせながら、ロボットのような規則正しい速度で首を左右させる。


「まだのようです」


 そんな短い残念な報告に、幽名は再度つまらなさそうに曇り空を監視する作業に戻った。


 奥入瀬さんに作曲の正式な依頼を飛ばしたのは、3日前の夜のことだ。

 いつもなら秒で返信をくれていた奥入瀬さんだが、今回に限って少しレスポンスが遅れてしまっているようだった。

 まあ、誰だって忙しい時はあるだろうしな。こういうこともあるだろう。

 というか、奥入瀬さんは普段何をしている人なんだろうか。

 音楽で食べていきたいような発言をしていたけど、分かっているのはそれだけだ。

 幽名もヴァイオリンの練習中にちょっと話をしただけで、友達認定して拉致ってきたらしいし、それほど踏み込んだ話をしていないだろうから聞いても無駄だろう。


「代表、スマホに着信が」


「ん? ああ」


 物思いに耽っていたせいで着信に気が付かなかった。

 電話は蘭月からのようだった。


「もしもし? どうした蘭月」


『イソガしい所すまないアルネ。イヅルがワガママを言ってキカナイんダヨ』


「あー、一応聞くけど内容は?」


『カマワリコヅチのデビュー1ヶ月キネン配信でギャンブルしたいカラ、許可をクレ言ってるネ』


 ああ……そういやあのオークス配信からもう1ヶ月も経つのか。

 色々とありすぎてまだ1ヶ月しか経っていないって感じもするけど。


「ギャンブルっつっても賭ける金を持ってないだろ、一鶴のやつは」


『ちょっとだけでいいから貸してよ! 絶対に返すから! ウルチャと広告収入が振り込まれたら返す! 絶対!』


『……って言っテルヨ』


 アイツ声でけーな。

 蘭月は一鶴を付きっきりで見張ってくれているらしく、しっかりと一緒に行動しているようだった。

 一鶴も勝手な行動を封じられて、俺に相談せざるを得なくなっているし、一鶴のマネージャーとしてこれ以上の適任者はいないだろう。


 で、金の話だ。

 ウルチャや広告収入などTubeの収益は、基本的に末締めで、翌月半ばくらいに振り込まれる。

 小槌のチャンネルが収益化したのは今月の中旬に入ったばかりの話なので、現金として形になるのはもう少し先になる。

 大体梅雨明けと同じくらいの時期かな。

 つまり今の一鶴はほとんど文無しであって、そして俺は金を貸さない。

 この世で最も信頼出来ない言葉が、一鶴の『絶対返す』だからだ。


「却下で」


『なんでよ! ケチ! 薄情者! タレントのやりたいことをやらせろ! 事務所のマージン高すぎ!』


『組織のニンゲンがボスにクチ応えはダメネ』


『ぎゃー! アイアンクロー!!』


 耳元で絶叫されて煩かったので通話を打ち切った。

 しかし、やりたいことをやらせろ、ね……。

 実に痛い所を突いてくるヤツだ。


 確かに、一鶴のポテンシャルを最大まで引き出せるのはギャンブル配信くらいなものだろう。

 それが本人のやりたいこととも合致しているし、自由にさせてやりたいのはこちらとしても山々なのだが……。

 なんとなくだが、本当にアイツの自由にさせてしまったら、まだ9億以上ある俺の資産が一瞬にして消し飛んでしまうような恐ろしい予感があるのだ。

 現実的に考えれば俺の金を一鶴がどうこう出来るはずもないのだが、それでもヤツならどうにかしてしまいそうな逆方向への信頼が積もりに積もってしまっている。


 そうでなくても一鶴は(表向きは)ナキに957万もの借金がある。

 まずはそこをクリア(返済)しないことにはギャンブルもクソもないだろう。


 というかデビュー1ヶ月記念て。

 一鶴のやつ、もしかしなくても1ヶ月刻みで記念配信して、リスナーからウルチャを募るつもりだな。

 記念日に煩い彼女かよ。

 しかも理由が最悪なヤツだ。


 まあ、それくらいは好きにさせてやってもいいけど。

 あまり締め付けすぎるのも、タレントと事務所の関係を拗れさせる原因になるだけだろうし。

 そう……先日またも契約解除者を出した、密林配信のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ