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VTuber事務所《FMK》 ~宝くじで10億当たったからVTuber事務所作ったらやべえ奴らが集まってきた~  作者: へいん
Chapter 4 "The World is Not Enough"

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敗北の未来へ

 母から3年の期限を貰った瑠璃は、それからの数日を悶々としながら過ごしていた。



 結果を出せば万事解決。

 言うが易しとは正にこのこと。

 それが簡単に出来てりゃ悩んでない。


 色々と試行錯誤を重ねてみたが、直ぐに成果が出るようなこともなく、チャンネル登録者数の伸びも緩やか過ぎる登り坂。はっきり言って自分の中で天井が見えつつあった。


「瑠璃氏なら全然VTuberでやってけると思うんすけどね~」


 そうやって瑠璃が苦しんでいる時に、学校でいつものように絡んで来た鞍楽がそんなことを言ってきたのだ。

 話の流れはあまり覚えていないが、鞍楽がFMK2期生のオーディションを瑠璃に勧めてきて、それを瑠璃が突っぱねてという流れだったと瑠璃は記憶している。


「……そんなことない」


「いやいや、イケるっすよ。この鞍上鞍下鞍楽が保証するっす」


 鞍楽の言葉に思わず涙が出そうになった。

 頑張れと背中を押されている気がした。

 ありがとうとお礼を言って抱きしめたいくらいだった。


「アンタなんかに何が分かるの……」


 でも口から出たのは正反対の憎まれ口。

 なんで自分を評価してくれている相手に、こんな態度を取ってばかりなのか。そんな自分が許せなくて、思わず手元の惣菜パンを握り潰してしまう。


「どうせ私みたいのがVになった所で、大して人気も出ないで埋もれてくのが関の山なの」


 挙げ句の果てに自らを卑下する始末。

 母相手に才能を示してみせると啖呵を切った数日前の自分は一体どこに?

 時間差で母が正しいと認めてどうする。

 瑠璃はただただ情けない気持ちになって、悔しかった。


「うーん、でも人気になれなくても、楽しければそれで良くないっすか?」


「……私も最初はそれで良いと思ってた。でも、現実はそう甘くない。楽しいだけじゃ成り立たない」


「? そうなんすか?」


「そう、でしょ。とにかく結果が出せなければ、誰も認めてくれないんだから。リスナーも、親も」


 そうだ。

 とにかく認めさせなくてはならない。

 そのために、そのためには……。

 考えても答えは見つからなかった。


 そして苦悩する瑠璃を追い討つかのように、ヤツが動き出した。


 ■


「ちょっとママ!! どういうことなの!!?」


 荒れ狂った瑠璃が吠え猛りながら家に帰ってきたのは、それから数週間後のことだ。

 顔を真っ赤にして、瞳に涙さえ浮かべた瑠璃は、家の物を手当たり次第に投げて蹴飛ばして八つ当たりの限りを尽くしていた。

 その矛先は、他でもない母に向いている。


「瑠璃お嬢様、お帰りなさいませ」


「ママは!?」


「奥様は前回のご帰宅以降、こちらに姿を見せておりませんが」


「直ぐに呼んで! 電話でいいから!」


 メイドに怒鳴りつけて母に通話を繋げてもらう。

 親子で有りながらも、瑠璃は両親の直接の連絡先を知らない。故にこうしてワンクッション挟んでいるのだが、この僅かな時間さえ耐え難いほど瑠璃は荒れていた。


「お嬢様、どうぞ」


「貸して!」


 メイドからスマホを引ったくり、瑠璃は大きく息を吸ってスピーカーに怒鳴りつける。


「ママ!」


『なぁに、るーちゃん? るーちゃんの方から連絡してくるなんて珍しいじゃない。ははーん、さてはママに甘えたくなっちゃったのね?』


「違う!」


『……もう! おっきな声出さないで頂戴。お耳が痛くなっちゃうでしょ。それでなに? なにをそんなに怒ってるの?』


「ママが私に嫌がらせしてきたからでしょ!!」


『うん?』


 母はいかにも心当たりが無さそうな感じを装ってきた。それが瑠璃の怒りに油を注ぐ。


「とぼけないでよ!  人を雇ってFMKの配信を荒らしてるくせに!」


 ここ最近、明確に悪意を持った荒らしがFMKの配信で暴れ回っていた。

 なにより問題はその荒らし方だ。


「よりによってナキアンチとして配信のコメントを荒らさせるなんて……ママを信じた私が馬鹿だった! そんなにVtuberを辞めさせたいの!? だとしても、こんなやり方……許せない!」


 叫びながら瑠璃はポロポロと涙を流していた。

 母に裏切られたからではない。件の荒らしが原因で友達と喧嘩になってしまったからだ。

 友達の、幽名姫衣と。


 FMK初の案件配信。

 ドゥームズガールΘリィンカーネイションの案件配信にて起きた一連の騒動。ナキアンチの大暴れと、その後に起きたFMK1期生たちの喧嘩。


 今の瑠璃は、その喧嘩の場で感情のままに幽名に酷いことを言って、謝りもせずに不貞腐れて帰ってきた直後というわけである。


『ははぁん、そういうこと』 


 母の声音は悪びれない。

 どころか、たった今全てを察しましたと言わんばかりの白々しささえ含んでいる。


 瑠璃からすれば、ここ最近不自然に湧いてきたナキアンチの出所は両親だとしか思えなかった。

 つまりは、幽名に酷いことを言ってしまったそもそもの原因は母ということ。だからこその憤りだ。


「何が3年の期限……っ! おかしいと思った! 最初っから3年も待つつもりがなかったわけだ! こうやって嫌がらせして、予定より私が早く折れるよう仕向けるだなんて!」


『そんなに怒らなくてもいいじゃない。そもそもただ待ってるだけなんて、ママ一言でも言ったかしらぁ?』


「……っ! この……!!」


 ミシリっ、とスマホが軋みを上げる。

 人のスマホだがそんなことは今はどうでも良かった。


「じゃあやっぱりママが!」


『さぁて、どうだったかしら。るーちゃんがどうしてもママのせいにしたいのなら、そういうことでも構わないけど』


「構わないも何もママが差し向けたんでしょ!」


『ママのせいじゃなかったとしたら?』


「もしそうなら土下座でもなんでもして謝るけど」


『あんっ、違うわ違うの。そういうのは求めてないから。ママが言いたいのは、もしママが原因じゃなかったとしたら、アンチが増えたのは何が原因なのかなってこと』


「それは……」


 配信を荒らすナキアンチの存在が誰かの謀でなかったとしたら?

 答えは決まっている。


「ナキの……私のせい」


『そうよね? まず真っ先に疑うべきはそこなのに、自分のアンチが増えた原因を他に押し付けるのはママどうかなーって思うわけ」


 ファンが増えるもアンチが増えるも、全ては配信者本人の普段の言動素行と面白さにかかっている。

 母がアンチを雇ったのでないのなら、ただ単にナキのことを気に食わない人間が、唯一1期生で案件からはぶられたナキを見て、ここぞとばかりに荒らして暴れていただけということになる。

 それはなんというか、救いようのない話だ。


『勿論ママがそうしようと思えば、るーちゃんが今言ったみたいにアンチのエキストラを雇って暴れされるなんてことはいくらでも出来るわ。実際動機もあるっちゃあるわけだし? ね?』


「……」


『で、るーちゃんはそのもっともらしさに甘えて、流されて、最も直視するべき現実的問題から逃げ出しちゃったのよね』


 ネチネチと。

 瑠璃が突かれたくなかった点を母はネチっこく攻撃してくる。


「ママがやったんじゃないの?」


『やってませーん』


「じゃあ紛らわしいから思わせぶりな態度と言動取らないでよ!」


『るーちゃんが勝手にママのせいだと思って電話してきたんじゃないの。そうやってなんでもかんでもママたちのせいにするの、るーくんの影響なのかな?』


「日頃の行いでしょ。……じゃあ、あのアンチは本当に………………」


 アンチが母の嫌がらせじゃないのだとすれば、それはそれで瑠璃にとっては問題でしかない。

 ガチアンチ。しかも瑠璃の配信だけじゃなくて、FMKの他のライバーの配信まで荒らすような過激なヤツらが蔓延っているという現実。

 結果を求める瑠璃にとって、最悪の障害としか言いようがない。


『るーちゃん。もし心折れたなら早めに連絡頂戴ね』


「絶対に折れないし、絶対に辞めないから」


『そういう頑固で反抗的なところは本当にるーくんと一緒ね。どうして二人ともこんなに捻くれて育っちゃったのかしら』


「知らない。もう切るから、おやすみ」


 返事を待たずに通話を切り、スマホをメイドに返却する。


「もう疲れた……寝る」


 そしてそのまま部屋に直行してベッドにダイブした。

 幽名とどう仲直りしたものかと、それだけを考えながら。


 ■


 結局、すったもんだの末に幽名とはお互いに言いたいことを言い合った上で仲直り出来た。

 いや、仲直りというより関係の再構築に近いのだが、それはさておき。


「はぁ? トレちゃんとbdが休止? しかも蘭月さんとフランクリンも休職って……どういうことなの、おにい。私何も聞いてないんだけど」


 11月1日。

 騒がしいハロウィンから一夜明け、今月も一念発起の精神で結果を出すために頑張ろうと思っていた矢先。寝耳に水の報せを実の兄から聞かされて、瑠璃は盛大な顰めっ面を披露した。この時は自室で一人だったので、その顰めっ面を誰かに見られることはなかったが。


『あー……すまん、急だったからな。俺も今日の朝聞かされたんだよ。トレちゃんは家の都合で一旦国に帰らなくちゃいけなくなったらしくてな。bdの方はメンテとかアプデとか色々あるらしくてだな……』


 電話口の兄は疲労の滲む声でそう答えた。

 脊髄反射的に鋭利な言葉を吐きそうになった瑠璃が思わず言葉を飲み込む程度には、兄も動揺している様子が電話越しでも伝わってきた。


 しかし、ただでさえ数の少ないFMKライバーが二人も同時に休止。アンドこの忙しい時期にスタッフまで二抜け。

 Vtuber事務所としてあまりよろしくない状況なのは明らかだ。昨今のVtuber界隈は1人引退者が出ただけで大騒ぎだというのに。


「それ大丈夫なの? 復帰の目処とかは」


『いや……それもなんとも』


「なんとも?」


『もしかしたら長引くかもしれん』


「bdは分かんないけど、トレちゃんは里帰りしてるだけなんでしょ? ネットさえ繋がってれば別に日本に居なくたって活動出来ると思うんだけど」


『どうにもそれも難しいらしいんだよ。家庭の事情ってヤツでな』


「ゾルディック家か何かなの、トレちゃんの実家は」


 とはいえ家庭の事情と言われれば瑠璃もそれ以上は踏み込めない。踏み込まれたくない気持ちは誰よりもよく分かってるつもりだから。


 だがよりによって、こんな時期に居なくならなくてもと思わずにはいられない。

 今はFMKに大きくなってもらわなくては困るのだ。事務所そのものが成長すれば、それだけナキが注目を浴びるチャンスも増えるのだから。


 そこまで考えて、なんて自分本位な考えなのだろうと瑠璃は自分に嫌気が差した。


「蘭月さんは?」


『アイツは元々バイトみたいなもんだし、お前も知っての通り他にも色々やってるヤツだから』


「フランクリンは」


『国に帰った』


「はぁ……分かった。もうちょっと詳しい話聞きたいから、後で事務所に行く」


『あ、あー、今日はちょっと業者が入るから事務所には来ないでくれ』


「業者?」


『……事務所の窓ガラスが全部割れたから、それの修理とか。他にも色々あるから』


「は? 何があったの?」


『いや、ちょっとな』


「ちょっとってなに? おにい、なんか私に隠してない?」


『まあ、そのうち話すよ。今は忙しいからまた明日にでも』


「あ、ちょっと! ……切れた」


 ライバーとスタッフが合わせて4人もいなくなって、挙句事務所の窓ガラスが全破。どう考えても何かあったのは明らかだ。


「もしかして、お兄ちゃんが何かしてみんなを怒らせたんじゃ……それで蘭月さん辺りが大暴れして……みたいな?」


 尤もらしい推測を立ててはみたものの、推測は推測でしかない。


「来るなって言われたけど行くしかないよね」


 何があったのか事実確認をするため、瑠璃は出掛ける支度をしようとスマホを机の上に置き、


「――着信」


 置いたばかりのスマホが小刻みに震え出したので、直ぐに手に取り直した。


 知らない番号だった。

 普段の瑠璃なら知らない番号からの着信など無視しているのだが、この時ばかりは事情が違った。

 もしかしたら、いきなり休止休職することになった仲間の誰かが、瑠璃と話をしたくて電話してきたのかもしれない。知らない電話番号からなのは、なんらかの理由で自分のスマホが使えなかったから仕方なくとか。

 その可能性が脳裏を掠めてしまった以上、瑠璃が電話に出ないという選択肢はなくなってしまったワケで。


「はい、もしもし?」


 瑠璃は電話に出た。

 出てしまった。


『こんにちは〜』


 知らない声だった。

 いや、なんとなく聞き覚えがある声のような気がしたが、少なくともFMK関係者のものではない。それだけは確信を持って言えた。


「誰?」


『私を知らない?』


「は? 知らないし。悪戯なら切るけど」


『切っても良いけど後悔しない?』


「……」


 ウザい。

 率直な感想がそれだった。

 名乗りもしなければ、用件も言わない。意味不明な質問だけ。どう考えても悪戯電話だ。

 相手にするだけ時間の無駄。瑠璃はさっさと通話を切ろうとして、


『いなくなっちゃったね、大事なお仲間ちゃん』


「……っ!?」


 息を呑んだ。


 大事な仲間が、いなくなった。

 トレちゃんやbd、蘭月とフランクリンの離脱を報された瑠璃にとって、あまりにもタイムリーな言葉。


 通話を切ろうとしていた瑠璃の親指が、見えない力に押し戻されるかのように画面から離れていく。


「……なに、それ。なんの話?」


『うん? まだ聞かされてなかった? それともくだらない駆け引きのつもりかな? あぁ、もしくは私が適当なこと言って、たまたまそれが今のアナタの状況に当て嵌まっちゃっただけじゃないのか、それを危惧してるとか』


「……」


『勿論、私は今アナタの身の回りで起きてることを全部把握した上でお喋りしてるよ。ううん、それどころか一連の事件において私が最も多くの情報イニシアチブを握っていると言っても過言じゃないね。西表瑠璃ちゃん……それともこう呼んだ方が良いかな? 薙切ナキちゃん』


 コールドリーディングなんかじゃない。

 この正体不明の電話主は、完全に瑠璃のことを調べ上げた上で電話を掛けてきている。


「なんなのアンタ。ストーカー?」


『ストーカーだよ?』


「ストーカーが自分のことストーカーって言う?」


『あはっ、自称天然は天然じゃない理論だ。面白い面白い。ナキなんかより、素の瑠璃ちゃんの方がずっと面白いね。なんで猫なんか被ってるの?』


「うるさい」


『自分に都合が悪くなると、直ぐそうやって強い言葉を使うよね。だからこそのFMKなんだろうけど』


「はぁ? 意味分かんないんだけど」


『意味分かんない? ……あぁ、そう。やっぱりあの人の心を真に理解出来てるのは、私だけってことかぁ。あはっ、うふふふふ』


「なんなのアンタ……」


 言ってる意味は一部理解できないが、この短いやり取りの中で一つだけはっきりと分かったことがあった。


 この電話の主――声の感じからして恐らく多分女のはず――は『敵』だ。


「なんなの、何が目的なの」


『全部瑠璃ちゃんが悪いんだよ』


「何が?」


『だから全部』


 こんな会ったこともない女に恨まれるようなことをした覚えはない。

 当然、瑠璃には身に覚えのない話だ。


「逆恨みでしょ」


『いいや? ううん、違うよ。普通に真っ当に、正当な立場で恨んでる。恨んでる? というより呪ってるとでも言った方が正しいかな?』


「だからなんなの、だったらどうするの。くだらない恨み言を言いたいだけなら壁にでも向かって叫んでたら? 悪いけど私も暇じゃないから――」


『ほんと瑠璃ちゃんてばしぶといよね。あれだけ不特定多数の人間から傷付けられてるのに、全然堪えた気配を見せないんだから』


「……は?」


 また意味が分からないことを言っている。

 狂人の戯言だ。


 違う。

 今の発言は意味が通っている。

 瑠璃は遅れて気が付いた。


 自分は既によく分からない逆恨みの標的にされていたのだ。


「まさか」


 心当たりはあった。

 ここ最近、瑠璃はずっと意味不明な攻撃に曝され続けていた。

 無数のナキアンチによる、配信荒らしだ。


『そう、私が彼ら彼女らを唆して、ナキの配信を荒らさせていた』


「……っ!?」


 女は瑠璃の考えを正確に言い当てた上で、自らの犯行を認めた。

 その狙いが分からなくて、瑠璃は怒りよりも先に困惑することしか出来ない。というより、この状況では元からほとんど出来ることなどなかったのだが。


『そうやってれば瑠璃ちゃんも心折れて、FMKを辞めてくれると思ったんだけどね。想定外はそのしぶとさだよ。あれだけ配信を荒らされてるのに、配信中はほとんど……いや、一切態度に出さずに猫を被りきるんだもの。大したものだよ、全く。その一点に関してだけは素直に認めなくちゃだね。すごいすごい』


「この……!」


 加害者のクセにこちらの感情を逆撫でする物言いをされて、遅れて怒りが込み上げてきた。

 だが、前述した通りこの状況で出来ることは高が知れている。怒鳴り散らしたところで多少のストレス発散にしかならない。それは瑠璃も分かっていた。


『この? なに?』


「……」


 だから一旦怒りを飲み込んで黙っていることにした。

 得体の知れない敵だ。下手に刺激すれば状況がさらに悪化しかねない。

 黙るしかない。


『? 何にもないなら続けるけど、まあ実際大したものだよ。あんな感じで荒らされたら普通は反応しちゃうものだからね』


 黙ってまずは相手の話を聞く。

 考えを探る。少しでも情報を得る。

 それが一番の策だ。


『もっと長期間荒らし続けてれば流石に効くだろうとは思ったけど、荒らしも人間だからねぇ。彼ら彼女らのヘイトをナキに向け続けるのも限界があるし、何より面倒なんだよね』


 余程喋るのが好きなのだろう。

 瑠璃が黙っていても勝手にペラペラ喋ってくれる。それこそ本当に壁に向かっても喋り続けていられそうなくらい。

 というか喋り慣れている。慣れすぎている、一人でくだらないことを喋ることに。まるで配信者だ。


『だから臨機応変に作戦を切り替えることにしたの。本人を辞めさせられないなら、周りを先に辞めさせちゃおって』


「………………あ?」


『瑠璃ちゃんが悪いんだよ。早く瑠璃ちゃんがFMKを辞めていれば、こんなことにはならなかったのに』


「なに言ってんの」


『メリーアン・トレイン・ト・トレインとbdは、ひと足先にFMKから離脱してもらったって話? 言ってる意味分かる?』


「ふっっざけんな!!!」


 黙ってられるわけがない。


「私の大事な友達に! 仲間に! 家族に……! よくも……!」


『うるさ。電話越しに大声やめてよ』


「絶対に後悔させてやる!」


『へぇ、面白い。言っとくけど』


 瑠璃は女の言葉を最後まで聞かずに通話を切った。

 もう話すことなど何もないからだ。


「メイド! 誰でもいいから来て! 早く!」


 駄々っ子がそうするみたいに、床を何度も踏みつけ鳴らして怒鳴り散らす。すぐにメイドが瑠璃の自室に入ってきた。


「瑠璃様が私どもを呼び付けるとは珍しいですね。なんの騒ぎですか」


「今すぐママに繋いで! 電話!」


「……かしこまりました。しばらくお待ちを」


「直ぐ! 直ちに!」


 肩で息をするほど興奮しながら、瑠璃は今にもスマホを握りつぶさんとするほどの力を手に込める。


「ぶっ潰してやる……! どこの誰だか知らないけど、コイツはやっちゃいけないことをした……! ママに頼んで、社会的に生きていけなくしてやる!」


 果ては怒りに囚われて、普段なら絶対に頼らないような相手に頼り、仲間に顔向け出来なくなるような手段で敵を葬ろうとしていた。

 だけどこの時の瑠璃にそんなお行儀の良い思考など出来るはずがなかった。

 だってこの敵は、瑠璃が一番大切に思っているものを傷付けたのだから。


 しかし、その瑠璃の目論見が破綻したからこそのあの未来だ。

 結果は知っての通り、瑠璃は敵の排除に失敗する運命にある。

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