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VTuber事務所《FMK》 ~宝くじで10億当たったからVTuber事務所作ったらやべえ奴らが集まってきた~  作者: へいん
Chapter 4 "The World is Not Enough"

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諦めろと母は言った。

 軽い気持ちだった。

 というのは、なんの言い訳にもならない短慮の表れだ。


 瑠璃には夢があって、その夢を最短最速で叶えるための手段を目の前にぶら下げられて、思わず飛び付かずには居られなかった。

 思えばそれが間違いの始まりだったのだろう。


 夢は叶った。

 友達も出来た。

 兄と一緒に居る時間が増えた。

 全てが良い方向に回ってる。そう錯覚するには十分過ぎるくらい毎日が楽しかった。


 この幸せは絶対に手放したくない。

 二度とあるかも分からないチャンスを棒に振るわけにはいかない。

 だから何があろうとも絶対にFMKを離れるつもりなんてなかった。


 ■


「るーちゃん。進路はもう決まったのかしら?」


 瑠璃の誕生日から数日経った頃の話だ。

 久しぶりに帰ってきた母が自分の将来の話を切り出してきた時、瑠璃は心底警戒した。

 場合によっては潰されると思ったからだ。自分の夢が……ではなく、FMKという居場所そのものが。


「決まっ……てる、けど」


「ふぅん、そうなの? 決まってるんだ? あ、ちなみにだけど、パパはるーちゃんを留学させたがってるわよ」


「……」


「ついでに言っておくと、るーちゃんが最近コソコソとやってる、配信ごっこもパパは止めさせたがってるわ」


「…………やっぱバレてたんだ」


「るーくんのことも含めて筒抜けよね。パパは物凄い怒ってたわ。ママの言ってる意味、分かるわよね。るーちゃん賢いもの」


 母と父にFMKのことが知られていた。

 それが何を意味するのか分からない瑠璃ではない。


 後にして思えば、両親がFMKを本気で潰す気であれば、こんな警告じみた真似をしないでさっさと潰していたはず。この時の瑠璃は知る由もないが、ビリオンズ・プロジェクトを探るために両親はFMKに手出し出来ない状況だったのだ。だから潰すのではなく、FMKを人質に脅しをかけてきたのだろう。


「私がママたちの言いなりになってれば、お兄ちゃんたちには手を出さない?」


「やーん、それじゃあママがるーちゃんを脅してるみたいじゃない。ママとパパは、ただ純粋に親として子の幸せを願っているだけなの。分かる?」


「ママとパパの思い描く未来の中に、私の幸せはない。どこにも」


「そう? じゃあ、るーちゃんは薙切ナキとしてなら幸せになれると思ってるんだ? ふーん」


「何が言いたいの」


 何が言いたいかは分かっていたが、聞き返さずにはいられなかった。

 そして母は言った。薙切ナキという存在の致命的な欠点を。


「だってさ、るーちゃん。才能ないじゃない」


「――っ!」


 何を分かったようなことを。

 そう言い返してやりたかった。

 でも言葉が出てこなかった。

 それは少なからず瑠璃にもその自覚があったからかもしれない。

 自身に配信者としての才能が欠けていることを。


「るーちゃんの同期の子たち。あの子らは凄いわね。個々の経歴もさることながら、それぞれが一種のスター性のようなものを持ち合わせている。人を惹き付ける魅力ってやつかしら。あの鈍なるーくんでさえ、彼女たちのポテンシャルに気付かざるを得なかった」


 それに引き替え、と母は続ける。


「るーちゃんはてんでダメ。あの3人と比べたら可哀想なくらい才能がない。あんまり言いたくないけれど、るーちゃんがあの3人と同期で居られるのって、コネ採用のお陰だよね? 違う?」


「ち、ちが」


「違わない違わない。まともにオーディション受けてたら、絶対に落ちてるもの。それは、るーちゃんが一番良く分かってるものね? だから、るーくんにお願いして無理やり事務所に入れてもらったんでしょ? 本当に自信があったら、正々堂々オーディションを受けてVTuberになればいいだけだもの。るーちゃんの性格なら勝算があったら絶対にそうしてた。でもそうしなかったのは、自分に才能がないことを自覚してたから」


 だから、


「これが最初で最後のチャンスかもと思って、お兄ちゃんに泣きついた。そうなのよね?」


 その通り過ぎて一切の反論が出てこない。

 俯いて唇を噛む瑠璃に、母が無慈悲な追撃をしてくる。


「数字って残酷なまでに正直よね。チャンネル登録者数も薙切ナキは現状一番下。他のお友達のおこぼれで数字を底上げしてもらってるのが現実。なんて不憫なるーちゃんなのかしら。頑張れば頑張るほど、お友達との圧倒的な実力差が浮き彫りになってきちゃう」


 ねえ、るーちゃん。と母が問う。


「このままだと、るーちゃんは本当に不幸になるわよ? そりゃあ、るーくんがトップに立ってる限りはるーちゃんが契約解除されることはないと思うわ。でもね、時が経てば経つほど惨めになってくるわよ。お情けで生かされてる自分の現状に、ね?」


 あの兄は決して瑠璃を見限ったりはしない。

 どれだけVTuberとして才能がなかろうと。

 どれだけ薙切ナキが事務所のお荷物になっていようとも。

 その過保護なまでのシスコンっぷりが、どれだけ瑠璃を傷付けることになったとしても。絶対に見捨てはしないだろう。そんな未来が果たして本当に幸せなのか?


「ママはね、るーちゃんがそんな風に苦しむのは見たくないの。だからね? 聞き分けの無いことは言わずに、素直に従順にママとパパに従っててくれればいいの。そうすれば幸せになれるんだから。誰もが羨むくらいの華やかな人生を送れるのよ? そこになんの不満があるって言うのかしら?」


 諦めろと母は言った。

 身の丈にあった幸せを享受せよと娘を諭してくる。


 分かる。

 母はとてつもなく正しいことを言っている。

 親として、子供に最適な道を示してくれようとしている。


 だけど瑠璃は、まだ折れなかった。

 この時は、まだ。


「じゃあ、私が才能を示したらママは納得してくれる?」


「うん?」


「VTuberとして、ちゃんとした結果を出したら、一緒にパパを説得してくれる?」


「えー……なるほど、そう来たかって感じね」


 母は有名なブロンズ像みたいなポーズで少しだけ考える振りをしてから、怪しさ満点、胡散臭さMAXの笑顔で頷いてみせた。


「良いわよ。それじゃあ3年以内に結果を出しなさい」


「3年!?」


「あら、足りないの? でも才能があるなら3年もあれば余裕でしょう?」


「いや、足りないっていうか……」


 むしろそんなに待ってくれるのか。という感じだった。

 しかし余計なことを言うと藪蛇になりかねないので、瑠璃はそれ以上はそこについて触れなかった。


「無駄だと思うけど精々頑張りなさい。期限までは手出ししないって約束してあげるから。パパのこともママが止めておいてあげる。他に要望はある?」


「……ない」


「じゃあ他に言う事は?」


「……ありがと、ママ」


 瑠璃のお礼に、母はまた怪しげに笑うだけだった。


 そうして3年もの期限を得た瑠璃は、成果を挙げようと必死になっていく。

 両親という脅威から勝利を得るために。


 だがしかし、この時既に真の脅威は瑠璃のすぐ背後まで迫ってきていたのだ。

 或いはもっと前から、虎視眈々と。

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