第131話 ただいま…
馬車がハンターギルドの前に停まった。馬車から降りてギルドの事務所に入っていく。中では依頼書を見るハンターや冒険者でごった返していた。その混雑を捌いていた人物がワシに気付き、
「マモルさん⁉︎ 違った、エクランド公!いつお戻りになったんですか⁉︎」
アランだった。傍にはティナもいて、一緒に混雑を捌いていた。
「何でこんなに混んでるんだ?ワシのことは、今まで通りに『マモル』でいいよ…。なんかこそばゆい…。今さっき着いてな。領主館に一度入ってから、騎士団の詰所に寄って、それからここに来たんだ…。あ、ティナちゃん、悪い、コーヒーもらえる?まぁ、着任の挨拶だな。この後は、商工ギルドに寄って、やっと自宅に帰る」
「混雑の原因はわかりません。いろいろお忙しい…。お互い様ですが…。しかし、ビックリですよね、今回の件は」
「青天の霹靂とでもいうか、寝耳に水のようなもんだからな。指名されたワシ自身がビックリしてるよ」
コーヒーを受け取りながら答えた。上の階からドタバタ音がして、ヒースが降りてきた。
「マモル!いや、エクランド公か!よく来た!いや〜、おめでとう、というべきなのか?とにかく領主になるとは驚いたよ!」
相変わらずだな、コイツは。しみじみ、同行させなくてよかったと思う。道中、うるさかったろうな…。
「オレの部屋で話そう!」
「いや、そう長居はできないんでな。ここでいい。というか、ここでハンターと冒険者諸君にも挨拶しておこう」
飲んでいたコーヒーのマグを、依頼の受付台に置いて、
「ハンターと冒険者諸君、ワシが新たにエクランド領主となったマモルだ。初めて顔を見る面々もいるようだが、先ほど、エイサム遠征から王宮への報告を経て、エクランド領に戻ったところだ。
ハンター、冒険者諸君には、これから世話になると思う。よろしく頼む。
因みに、元ハンターだ。エイサム遠征時、ワシはAクラスのハンターだった。今後関わることもあると思う。ハンターとして、かどうかはわからんがね。まあその時はよろしくな」
地響きのような返事があり、事務所の建屋が揺れた。
チャッキーの姿もあった。コーダの様子を聞いたら、まだ本調子ではないものの、だいぶ回復したようだった。常にワシから引継いだ短刀を身に付けているらしい。チャッキーから見ても、『大事なオモチャを持ち歩く子ども』みたいに見えるそうだ。
受付台に置いたコーヒーを飲み干して、
「さて、お次は商工ギルドだ。とその前に、アラン、一服付き合ってくれ。ティナちゃん、ご馳走さま。ごめん、旦那さん少し借りるな?」
ティナの照れた笑顔に見送られて、アランと2人で外に出て、タバコに火を付けた。
「ワシが留守の間、何か変わった事はなかったか?」
「特にないですかねぇ…。マモルさん、いやエクランド公がご不在だったのは、7日前後でしょ?ないですね。逆に何かことが起きてばかりじゃ、ヤバいでしょ!」
「あ、いや、そうじゃなくてな…。お前さんとティナちゃんの『変化の有無』のことなんだが…?」
アランが一気に耳まで赤くなった。ワシらのエイサム遠征の直後から、一緒に住んでいるらしい。ティナのご両親にも認めてもらったとのことで、幸せそうだ。
「よかったな。ホッとしたよ。遠征中も気になっててな」
いつの間にか、2人で歩いて商工ギルドの前に来ていた。
「じゃ、また後日顔出すよ。ヒースにも伝えて」
と言って、ワシは商工ギルドに入った。ここはさほど混雑していない。ギルマス始め、スタッフに声をかけていった。すると受付の女性スタッフが、
「あの〜、領主様になられた方にお伝えしていいのか迷ったんですが…」
と言いながら出してきたのは、依頼書の束だった。中を確認すると、依頼内容のほとんどが、
『ハンター・マモルの弓』
であった。その数30件以上…。ワシ1人ではできないな…。さて、どうすべ…?
「そんなこと、領主様が気にされることではないです。こんなもの、お見せしなくていいから!」
「いや、一旦預かるよ。ワシが、というかワシだけで作るのは難しいけど、検討する余地はありそうだ」
「え?そうですか…?」
訝しげなギルマス…。
それはそうと、量産できれば…、などと以前から考えていた。まぁ量産とまではいかなくても、ある程度の部品を用意して、組み立て式にすれば…。などと、漠然と考えていた。決してタイミングがいいとは言えないが…。
依頼書の束を受付嬢から受け取り、商工ギルドを後にした。馬車に戻って、最後の行き先、
「マリアの家』
に向かった。
◇◇◇◇◇
7日振りの我が家?いや、我が家じゃないか、ワシは居候だ…。それにしても、そこそこの日数、家を空けたな〜…。敷居が高いわけじゃないけど、なんか入り辛い…。
「ただいま…」
「おかえり…。真っ直ぐ帰って来ないで、どこで油売ってたのよ!」
と言いながら、マリアが抱きついてきた。涙ぐんでいる。両脇ではルナとタマモが…。3人を抱きかかえて、
「すまん、長いこと留守にして…。寂しい思いをさせたね」
ホッとしたのか、ワシ自身こう言うのが精一杯だった。ルナが涙を拭いながら、
「マモル、おかえりなさい。今コーヒー、淹れるね」
とキッチンに向かった。タマモは、
「おかえりなさい。ルナを手伝ってくるね」
とワシの顔を見てから一言告げてルナの方へ…。ワシはそのままそっとマリアを抱きしめ、キスをした…。今夜はここで過ごそう。久方ぶりの家族の団らんを堪能しよう。
◇◇◇◇◇
マリアたちが夕飯の支度をすると言うので、少し早いがマルタを迎えに店に行くことにした。
タバコを咥えながら、エランの町に向かう、というか戻る…。帰ってきたばかりなのに…。咥えタバコなんて前世なら、しかめっ面で睨まれる行為だな…。
町に着くと、バタバタと走る騎士団の姿があちこちにある。何かあったのか?と疑問に思っていたら、ロアンがワシを見つけて声をかけてきた。
「お疲れ様です、エクランド公。不届き者の冒険者がいましてね。私たちが遠征中に狼藉を働いたらしいです。そのためのパトロールですよ」
「なぁ、『マモル』でいいって…。捕まってないのか?」
「みんなの手前、そうもいかないですよ。いや、既に見つけた者は全員捕まっています。留置されていますよ。ハンターギルドの尽力があったと報告を受けています」
「そうか、捕まっているなら安心だな。まだアホがいるのかも知れんが…。まぁ、何にせよ警備は怠らず、頼むな」
「はい!必要に応じて、ハンターギルドの助力も仰ぎたいと思っています。あと、領主館から連絡があり、ミーシャたちは町の宿に泊まりたいと…。領主館では落ち着かないようです」
「ギルドの件は、それで構わんだろう。ヒースとアランに話しを通しておいてくれ。ミーシャとカレンは領主館でなく町の宿がいいか…。なら宿を手配して、迎えに行ってくれ。で、ヒマなようなら、騎士団の応援に入ってもらえば?」
「諸々承知しました!拘束中の連中、どうしましょうか?」
「もう少し留置しておいてくれ。近いうちに見に行ってから判断する。まぁ、状況によっては、ハンター・冒険者の場合は、資格、クラスの剥奪、領地追放だろうな」
しかし、まだバカ・アホがいたか…。バカなヤツらの行動で、冒険者ギルドが消滅したのに…。バカに付けるクスリはないとは、よく言ったもんだな。シュミットさんも大変だったろうと思ってしまう。ウチの嫁さんたちにも気を付けるように言わないといかんな。
マルタの店に着くと、入口に2人の女性騎士が警護していた。これなら安全か…。いや、騎士の方が危険か…。マルタの攻撃魔法はなかなかの威力だからな…。
店に入ると、マルタがヒマを持て余してるようだ…。
「ただいま。外の警護のおかげで閑古鳥か?」
「!」
まだ来ないとでも思っていたか…?かなり驚いていた。
「いつ着いたの?何も聞いてない…」
「昼過ぎに着いてな。騎士団詰所と領主館、ギルドに寄ってから、そのままウチ帰ってさ。マルタ以外は随分長いこと会ってなかったから…」
そう言いながら、軽くキスして抱きしめた。
「そうね。喜んだでしょ?あの子たち」
「喜ばれたというか、マリアには思いっきり泣かれた…」
と頭を掻いた。
「留守中、店は大丈夫だったか?また不届き者が、ってロアンが言ってたけど…」
「ウチは被害はゼロ。表も裏もドアにキズもなしよ」
そう聞いてホッとした。しかし、冒険者は何を考えてるんだ?思考力のない、バカが多いのか?今度ヒースに聞いてみよう。まぁ、冒険者だけではないようだが…。
そんなことを考えたが、ふと頭を過るものがあった…。
(『魔族』に操られている…?まさかとは思うが…)
ホントにこんなことになっていたら、エイサムの二の舞いになりかねん!空振りでもいい。念のため、確認だけでもしておこう!
「帰り支度しといて!ちょっとロアンと話しをしてくる!」
と、ワシは店から飛び出した。頭を過ったことで、総毛立つ感覚に襲われた…。




