第129話 引継ぎ
「これからする話は、内容を吟味され、扱いが確定するまでの間、他言無用に願います」
と前置きしてから切り出した。
「エイサムの騎士団長に、『魔族』が憑依した可能性が高いです。可能性として挙げられる点は、次のようなことがあります」
急に性格が、高圧的・攻撃的に変わったこと、酔って暴れただけの者を、問答無用で切り殺したこと、騎士団の女性団員を犯して殺害して可能性が高いことに加えて、最終的に姿・形が『魔族』のそれに変貌したため、ワシが動きを止めて、エイサムの副長がトドメを刺したことを伝えた。
「エイサムの前領主の殺害にも、加担した可能性があります。実行犯の女と一緒にいたところを目撃したという情報も多数あり、その前後に憑依、もしくは入れ替わられたと思われます」
「む〜ん、由々しき問題だな…。騎士団長ともなれば、その家族はもとより、一族郎党の身辺調査はしているはず。問題を起こせば、一族に類が及ぶことも考えられる。そこはどうなっておる?」
「現時点では『エイサムの騎士団預かり』として、先程の報告通りの話しか家族にはしていません」
「そうか、その判断は妥当だな。証言等々、時系列にまとめてくれんか?各証言については裏が取れているとありがたい」
「私と、王都に同行した者たちとまとめます。しばらくお時間を下さい。明日にはお渡しできるように準備します」
「そうか。助かる。明日、どうやって受け取るかの…。どこか宿を手配したか?そこに私が取りに行こう」
「宿は、王都に到着してすぐ、衛兵に依頼しました。そのため、現時点ては宿屋の名前は聞いておりません。どこかで落ち合う方がよろしいかと…」
「そうだなぁ、そうしようかのぅ。近衛に宿を確認させ、落ち合う場所を連絡させることとしよう」
段取りを決めて、明日以降、王宮内で扱いについて再検討することとなった。家族や一族郎党についてはそのままにしても、『魔族』についてはこのままという訳にはいかない。その対応をして協議するという。特に言われていないものの、説明のためにワシも同席、なんだろうなぁ…。
そろそろ解放されるものと思っていたが、まだ話があるという。それは、
『ガイナム卿の若き日の思い出話』
だった…。
「私がまだ若かった頃は、国軍、今の王宮騎士団じゃな。これを率いて辺境の地に、魔物討伐に行ったもんじゃ。当時は…」
エイサム公がしかめっ面しながら、
(長くなりそうだ)
とジェスチャーで伝えてきた…。どうすりゃいいのお〜?
(いや、そこは止めて下さいよ〜)
コチラも同じようにジェスチャーで返した。あっさりと首を横に振った…。コイツ、諦めやがった…。
長々と爺様の昔話を聞かされ…、もとい、ガイナム卿のご活躍されたお話を拝聴し、ようやく解放となった。と思いきや、
「メシにしよう。王宮内に食堂がある。そこに行こう」
と連れられることに…。さっき軽食摘みましたよ。ほとんど拉致監禁と変わらないですが…。泣けてきた…。多分、食堂でまた聞かされるよ、これは…。と、諦めかけた時にエイサム公が、
「領地引継ぎの話しをしたいので、私の控え室に行かせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
ナイスタイミング!これで一時的にでも解放される!ガイナム卿が同席すると言わない限りは…。
「おぉ、その話しも必要じゃの。引継ぎでヌケモレがあると、後が大変になるからの。キチンと話した方がいい。わかった。貴殿らでじっくり話すがいいだろう」
と言って、ガイナム卿は1人去って行った。ホッとしながらエイサム公の控え室へ向かった。
ガイナム卿か…。悪い人ではないんだろうが、年寄りのせいか、話がリピートされ、長い…。困ったもんだ…。あまり大きな方ではないが、若かりし日の面影は残っている。体格。ガタイがいい。筋肉そのものは若干落ちているものの、未だガチムチ、上半身は『逆三角形』だ。多分、いや絶対に怒らせたら拙い方かと…。
「エクランド公、いや、マモル殿。ようやくゆっくり話ができそうですね。引継ぎと言っても、大したことはないかと思います。税のこととか、領地内の『要注意人物』とかくらいですかね」
ん?シレッと、危険なことを仄かした気がするが…?この人も油断できないんだよな…。
「税に関しては、重要かと思いますが…?また、『要注意人物』とは、誰のことでしょうか?」
「『要注意人物』とは、旧冒険者ギルドの上層部の面々です。ヒースやアランといったハンターギルドの上層部を疎ましく思っているでしょうね。まぁ、一番実力と統率力を持つ、ギルドマスターだったシュミットは『仕方ない』と受け入れていますが…」
あの元ギルマス、シュミットというのか…。
「それは仕方ないことでは?今まで旧冒険者ギルドは、ルールなどを整備せずに、野放しにしていたところがありますからね。身から出た錆、自分たちで撒いた種かと…」
「そうなんですが、一部の冒険者にはそのような意識はないでしょう。だからこそ危険な面もある」
「何かことを起こした場合は、騎士団に拘束させましょう。騎士団はそのままの人員、組織ではよろしいですか?」
「いや、その件ですが、アレックスには、私の直属として、近衛になってもらおうかと考えていますが、アレックスは必要ですか?」
「アレックスがエクランド騎士団を抜けるのであれば、後任はロアンをと考えています。エイサム領については、各部族の首長たちから、あちらの副長を昇格させたい旨、要望書が出ていたかと…」
「それでいいと思います。アレックスは、私の弟のような存在ですので…」
「離したくない、そういうことですね?」
「そうですね」
「わかりました。アレックスについては、エイサム公の近衛として活躍してもらいましょう。ロアンを護衛として連れて来ています。後ほど合流したら、伝えます」
「ヒースを連れて来たのかと思ってました」
「アイツは…。いや、オッサンが2人いても、愚痴やら何やら、身のない話しばかりになりますからね。ロアンに来てもらいました。彼の考えも聞きたかったし、今後のことも話しをしておきたかったのでね」
「王宮出て、街に行きましょうか?私もロアンに会いたいですからね」
税についても話しをして、どこからどれだけ徴収するか、一覧のリストがあるという。また徴収額の早見表もあり、執事に託してあるから帰ったら確認しろとのことだった。
ガイナム卿に失礼する旨の伝言を近衛に託して、2人で王宮を出て街に向かった。
さすがに王都である。街は活気に溢れている。大通りにはところ狭しと露店が並び、まるで普段から祭りの縁日のようだ。市場は市場で別にあり、そこも繁盛しているらしい。露店の数と人の多さに圧倒される。
宿の情報は、王宮に案内してくれた衛兵経由で近衛に届いていた。その宿を目指してエイサム公と2人、歩いていた。衛兵がついてくると言っていたが、エイサム公がこれを断り、2人で散歩がてら、となった。
「マモル殿に言っておくことがあります。おそらく貴殿は私のことを『用意周到』や『抜け目のないヤツ』、『用心しなければならない相手』といった印象を持っているのでは?」
見抜かれてる…。顔に出さないようにしてたがな…。
「種明かしをしますね。私は領内外に『草の者』を放っています。それらからの情報を基に検討・判断などをしている。そのため、様々な情報が集まるため、人の行動・言動を把握することができるんです」
なるほど、合点がいった。領地内外に『草』とは…。ワシには無理だな…。なんたって新参者で余所者ときてる。ワシが頼るのは、自分の周りの人脈を通じた情報だな。これらは『生』の情報で先入観もないため、変なフィルターやバイアスがかからない。ただ、時に噂とかもあるため、受け取り側での取捨選択が必要だが…。
しゃべりながら歩いていたら、いつの間にか宿に着いていた。主人に連れのことを確認したところ、食堂にいるという。一応チェックインをして、食堂に行ってみると、主人の言った通り、ロアンたちがコーヒーを飲んでいた。ロアンがエイサム公に気付き、
「お館様!いらしてたんですね!」
とエイサム公の手を握った。
「ロアン、違いますよ?君の、今後のお館様は、エクランド公マモル殿ですよ?」
「そうでした、エイサム公。失礼いたしました。エクランド公にも、失礼いたしました」
「いや、ワシのことはいい。エイサム公、私は荷物を部屋に入れてきますので、少し席を外します」
カレンを伴って部屋に向かった。エイサム公が訝しげに見ていたが、ロアンにも特に何も言わなかったようだ。
部屋に入ってすぐに、カレンを抱きしめ、キスをした。だが、エイサム公を待たせるわけにも行かないため、そのまますぐ部屋から出た。




