第127話 王都エクスターム
翌朝、いつもの通り、明け方に目が覚めた。明け方目を覚ますのがいつもの通り…。ワシはジジイにまっしぐらか?でも、寿命は延びているからな。歳とるのは遅くなるんじゃないか?考えもしなかったから、よくわからんが…。今度『お館様』に聞いてみるかな?
宿は少し高台にある。そのため、王都の広い範囲が見渡せた。タバコを吸いながら、何ともなしに見ていた。商人のキャラバンは既に王都の門に並んでいる。早く入って商売をしたいのか…。まだ門は閉ざされている。
門の中では食堂が準備をしているのだろうか、いく筋もの煙りがたなびいている。
門は関所としての役割もある。同じ国内で関所というのもおかしな話だが、王都が『要塞都市』であるという証だろう。
タバコの匂いか朝の冷え込みか、カレンも起きたようで、毛布に包まり、ベッドの上でゴソゴソと動いていた。表現は女の子にはアレだが、まるでミノムシ…。
「食堂行って、コーヒーもらってくるけど、一緒行くか?」
朝早いとはいえ、昨夜の血気盛んな坊やたちのこともあり、何があるかわからんから、部屋に1人でおきたくなかった。カレンも一緒に行くことに同意して、服を着た。
2人で階下の食堂に行くと、朝食の準備をしていた。既に落としていたコーヒーをポットに分けてもらい、マグを2つ借りてまた部屋に。2人でコーヒーを飲みながら、王都を眺めた。空はさっきより明るくなっている。ようやく門が開けられた。待っていた商隊が王都に入り始める。かなり規模の大きな商隊のようだ。
宿のある街から王都までの道のりは、およそ2km強ほど。歩いても1時間前後だろう。馬車があるので今更歩く気はないが…。門を優先的に抜ける手段、国王陛下からの『親書』もあるため、並ぶ必要もない。謁見そのものは面倒だが、事情が事情なため仕方あるまい。
顔を洗って改めて食堂へ。借りたマグと空のポットを返却して、テーブルに着いた。珍しくロアンとミーシャが先に来ていた。4人で王都に入ってからことを相談した。謁見はワシ1人だ。他の3人は観光だと。羨ましい…。元々、ロアンたちは、表向きは護衛的な立場で付いてきたしな、護衛として王宮に連れて行っても、別の部屋で待機だろうから、仕方がないか…。
「おそらくだけど、門で『親書』を見せれば、ワシはそのまま王宮行きだと思う。そこで一旦別行動になると思う。その前に、宿の確保を門番かワシを王宮に案内する衛兵に相談しよう。ワシが王宮から解放されれば合流できるから」
「それしかないだろうねぇ」
ミーシャのいうことに、カレンが同意してコクコク頷いている。
「ロアン、何かの時のために、とりあえずコレ渡しておくよ」
と金貨の入った皮袋を渡した。自分の分は多少取ってある。
「はぁ〜⁉︎ こんなに⁉︎ いつもこんなに持ち歩いてるんですか⁉︎ いったいいくら入ってんだ?」
「あって邪魔なものでもないだろう。3人で動く際に使っていい」
「あたしが預かる。無駄遣いしないから…。ロアンじゃ無駄遣いしそう…」
とロアンから皮袋を奪い、カレンが持つことになった…。ロアンは相手が誰であっても、どんなタイプの女性でも、『尻に敷かれるタイプ』と見た。ロアンは口惜しそうな顔をしたものの、そのままカレン預かりを受け入れた…。
◇◇◇◇◇
4人で食事と相談を終えて、荷物をまとめてチェックアウト。ワシの皮袋でカレンが支払った。馬車に行くと、既に御者もスタンバイしていた。乗り込むとすぐ、馬車は王都目指して動き出した。
門に向かって、列に並ばず馬車を進めさせた。すると、まるで荷物の通関手続きのような積荷の確認を待つ商人から
「オイ!あんたら、何先に行こうとしてるんだ‼︎ ちゃんと並べ!」
と文句が飛んだ。一度馬車を停めて、ワシが降りた。門番の衛兵が走って来て、
「こらこら、待て待て!お前の馬車が悪いだろ⁉︎ 後ろに下がって並べ!」
と言ってきた。すかさず黙って『親書』を出した。衛兵が勢いよくひったくるが、すぐさま膝を折った。コウカハ バツグンダ。
「ナイト殿とは存じ上げず、大変失礼いたしました!ご無礼、お許し下さい!馬車はこちらをお進み下さい!おい!道を開けろ!国王陛下謁見のため、ナイト殿がお通りになる!」
文句を言っていた商人は、蒼ざめ、泣きそうな顔で慌てて平伏した。別に苛めてるわけではないんだが…。側から見るとワシが苛めてるようにしか見えんだろうな…。ヒゲ面のチョイ悪のオッチャン…。好きでこの顔で生まれた訳じゃない。持って生まれたモノは仕方ないんだ!
その後、揉めることもなく門を通過。そこで、ワシは馬車から降りて、他の馬車に乗り換えるよう指示された。
「ナイトのマモル殿はこちらの馬車にお乗り換え下さい。我々が王宮にご案内いたします」
御者に、
「今までありがとう。代金の支払いはエクランドの騎士団からだろう?戻ったら受け取りに行ってくれ。帰りの道中、気を付けてな」
と声をかけた。御者は恐縮しながら頭を下げていた。多分、宿代含めて請求するんだろうな…。宿代はワシがやったのに…。まぁいいか。ワシは衛兵に向き直り、
「一つ頼みがある。今夜の宿を確保して欲しい。少なくともこちらの新婚2人の部屋と、彼女のを。ワシも王宮外に宿泊できるなら、彼女と一緒の部屋を取って頂きたい」
「2部屋、ご用意しましょう。この辺りの宿はみな、各部屋に風呂が付いていますし、大浴場も備えています。中央部の、宿がたくさんあるところまで、ご案内します」
新婚と言われて、ロアンとミーシャは、2人揃って真っ赤になっていた。カレンはワシに寄り添っている。
「王宮へは、マモル殿だけお連れするようにと仰せつかっております。お連れのお嬢さんには申し訳ありませんが、ここで一旦別行動になります」
言い含めてはいたものの、渋々、カレンが離れた。衛兵に先頭され、3人は王都の中央部に向かった。そのままワシは迎えの王都騎士団(王立か?)の馬車に乗り込み、王宮へと向かう。
◇◇◇◇◇
王宮では、エクランド公が当てがわれた自室で、1人、お茶を飲んでいた。
「マモル殿も、そろそろ来る頃でしようか?しかし、他国からの移民か、冒険者と思われた、得体の知れない人物が、ここまでのことを成して、成り上がるとは…。言い方が悪いですね。
まあ、この国に根付こうと考えてるようですから、この話しはまたとない機会でしようね、彼にとって…」
誰に話しかけるでもなく、独言て(ひとりごちて)いた。そこに、
「ナイト、マモル殿〜。御到着されました〜」
王宮の衛兵、近衛兵が高らかに宣言した。それを聞いたエクランド公が自室でゆっくりと立ち上がり、謁見の間に向かった。目の前で宣言されたワシは、恥ずかしいことこの上ない…。馬車から降りて、王宮のエントランスに立った。
転生して、こんなことになるとは、想像もしていなかった。マリアと一緒に鍛治屋として、たまにハンターとして仕事をし、小金を稼げればいいと思っていた。そんな中、嫁さんが4人となり、浮かれてウハウハしていた。そこに何故か王宮?爵位?領主?今までの生活では考えられないこと降って湧いた。『爵位?なにそれ美味しいの?』などと小バカにするつもりはないが、展開が早過ぎて、思考がついて行かず、頭ん中がまとまらない…。
近衛兵に案内されて、エントランスに入る。ホールが広過ぎて、通路がわからない…。いや、そのまま通路として、奥に続いているようだ。ただただ広い…。有り体に言えば、だだっ広い…。方向感覚を失いそうなくらい、とにかく広い…。
案内の近衛について行く。案内なしでは移動はできないな、ここは…。通路とは思えないところを何度か曲がったのち、大きな扉の前に着いた。案内の近衛から、扉の両脇の近衛に引き継がれ、2人が扉を押し込んだ。目の前の大きな扉がゆっくりと開いていった。




