6 . 常々と新規
「よう、嬢ちゃん!景気はどうだい?」
「こんにちは!はい、いいかんじですよ」
ある日の昼下がり―――――商人ギルド内の大広間みたいな場所にて、私は見知った面々に挨拶をする。
私も所属する王都の商人ギルドでは、定期的に各お店の代表らが集まって会合を開いている。そこでは、日々の業務報告やら情報交換等様々な話が為されている。
「うちの店の客、横取りするんじゃねぇぞ」
「あぁ?うちは固定客捕まえてるから、そんな事しねぇぞ」
一方で商人同士の牽制的な出来事も、この会合の場では日常茶飯事だ。
「アビちゃん、よかったらうちの店の看板娘にならないかい?君みたいな可愛い娘が店番してくれたら、客がもっと来てくれそうだよ!」
「結構です。他の人にも常々言ってますが、私はあくまで“卸売”のみで、一般人への接客はしません」
「…そうですよ。アビさんの立ち位置は、この商人ギルドの要です。個人の都合で専属にする事は禁止されています」
「クルーアさん!」
時折、ギルドの決まりを理解していない商人から専属のお誘いがあったりするが、私はバッサリと断っている。
時折ある出来事とはいえ結構ストレスになっていた私の後ろには、王城から派遣されている文官であるクルーア・アジさんが立っていた。
「では、全員揃ったと思うので本日の会合を始めます」
クルーアさんが一言告げると、他の商人達も適当な雑談を止めて席についていた。
この男性、目つき悪い上に声がかなり通るから皆ビックリしやすいんだろうなぁー…。とはいえ、ああやって助け船を出してくれる辺り、優しい人…だよね
私は、ギルドに属する商人達の視線を浴びながら話を始める男性を見ながら考え事をしていた。
クルーア主導の元で会合は無事に進み、小一時間程の集まりはあっという間に終わりを告げる。
「…アビさん」
「はい!」
会合を終えて解散後、私はクルーアに声をかけられる。
同時に、1枚の紙が手渡される。
「これはー……了解しました」
「お手数おかけします。集合は冒険者ギルドになるので、宜しくお願いしますね」
彼から手渡された紙に目を通した私は、何のためにこちらへ声かけてくれたのかをすぐに察した。
「…クルーアさん、この後はお城に戻られますか?」
「はい、仕事は相変わらず山積みなので」
「あらら…。良ければ、私の家でお茶一杯くらい馳走しようかと思いましたけど…」
「お気遣い戴きありがとうございます。仮に時間の余裕があったとしても、独り暮らしの女性のお宅にお邪魔するのはちょっと…」
「?」
「…また機会があったら、ご一緒できるといいですね」
私からのお誘いを断ったクルーアは、ため息交じりで少しきまずそうな表情をしていた。
…私の家、この商人ギルドの裏すぐだから近いんだけどねぇー…
そんな事を考えながら、私は紙に書かれた内容を改めて確認していた。
「帰る前に……アビさん」
「なんですか?」
「一昨日の夜、貴女と……いえ、何もないです」
「…どうかされました?」
クルーアは何かを言いかけたようだが、途中で口をつぐむ。
彼はその場で一瞬考え込むが、その先を口にすることはなかった。
一昨日の夜……あぁ、目撃されてたのかもね
クルーアやギルドの面々と別れた後、私は自宅の方へ歩き出す。
歩くといっても、私の家は商人ギルドがある建物のすぐ裏に位置する2階建ての建物なので、すぐに到着できる。
店を持つギルドの商人達は、基本的に自分の家を持つ。ただし身寄りのない私のような人間や時折来るギルド関係の客人が一時的な滞在や宿泊場所とするため、ギルド所有の家みたいな建物が存在するのだ。2階建ての建物には複数の部屋が存在し、台所や風呂場は共有の設備を使う。“異界からの来訪者”の記憶にある“地球”でいうところの“シェアハウス”に近い状態だ。
また、多くの商人が自分の家を持っている事に加えて短期間の滞在でしか他の部屋は使われないので、基本的にこの施設に住み込んでいるのは私独りともいえる。
「…まぁ、見られても別に問題ないけどね」
クルーアが言っていた一昨日の夜とは、シャラクと夕飯を食べた夜だった。
酒場の帰りに、シャラクが歩きながら私の肩を抱いてきた事があった瞬間、離れた場所から視線を感じた気はしていた。
あの時感じた気配は冒険者っぽい雰囲気だったから、クルーアさんではないはず…
独りになった事であれこれ考えた私だったが、翌日の仕事が朝早くなる事はわかっていたので、ひとまずこの一件について考える事を諦めたのである。
「はじめまして、アビ・タリングです」
「リーダーのナハトイル・クリーエです。よろしくね、アビさん」
翌朝―――――私は、待ち合わせ場所の冒険者ギルドにて、とある冒険者の徒党と初顔合わせをする。
「俺の名前長いから、愛称の“ナハト”でいいよ」
「了解です」
いつもの営業スマイルを披露しながら、私は徒党の面々を見渡す。
私に挨拶をしてくれたナハトは、金髪碧眼で腰に一振りの両手剣を持っている、ごく一般的な剣士だ。他の3人は、人間2人に一人はおそらく耳長族だろう。剣士・槍使い・魔法使い・僧侶という、割と王道な面子の徒党のようだ。
「では皆さん、お気をつけて」
ギルドの受付嬢から簡単な説明を受けた後、私はその冒険者達と共にギルドを出発した。
昨日クルーアさんから受け取った紙の内容が、今日これから行く仕事の概要だったのである。内容としては、「国から依頼を受けた冒険者から見つけた財宝の一部を受け取り、道具屋に流通させてほしい」という依頼だ。
「何だか、護衛してもらうようなかんじですみません…」
「大丈夫です!俺ら冒険者は、商人や要人の護衛も結構ギルド経由で経験してますからね!」
私は、移動用に王城から借り受けた馬車に乗って、目的地へ移動する。
本当は、護衛なんて必要ないけど…。うん、精霊魔法を知られる訳にはいかないので、仕方のない事ではあるんだよね…
私は、不意にため息が零れそうになる。
私の“得意先”の中で、特に“仕入れ先”は変わった人が多い。今回、ナハトの徒党を護衛につけてもらった理由は、今回の目的地は魔物が出現するであろうダンジョン付近だからだ。私がこれから会いに行く“仕入れ先”は冒険者でもあり、秘宝探求者でもある双子の冒険者だ。
王城の人間がその二人にどんな財宝を捜し出すよう命令したのか詳細は知らされていないが、おそらくは“依頼内容に該当しない道具が見つかった場合は、道具屋に流通させたい”というのが王城側の考えだろう。
「今回、合流する人物名が“トガ・ラッハとトゴ・ラッハ(共に17)”……双子?」
「ですね。私もまだ、一度しかお会いしたことないんですよ。詳しい事は顧客情報なのでお教えできないですが、道具屋に流通できるレベルのアイテムも結構見つけてくれるから優秀ですよ。…夢中になると、周りが見えなくなるという欠点はありますが」
初めて会う人物らの事をナハトから尋ねられ、私は企業機密な内容は避けつつもこれから合流予定の“仕入れ先”に関する概要を説明する。
一方、一目見た時に結構第一印象が強烈だったので、私は話しながら遠い目をしていた。
『…ナハト…』
「…っ…!!?」
すると突然、私の脳裏にか細い声が響く。
突然の思いがけない出来事に対し、私は目を見開いて驚いた。
「アビさん…どうかしましたか…??」
私が目を見開いて黙り込んでいるのを見かねたナハトが、恐る恐る私に声をかける。
ナハトには、聴こえていない声…。これって…!?
心臓の鼓動が早まる中、私は自分にしか聴こえない声が何かを一瞬考える。
…いや、今は…
「今は目の前でこれから起きる出来事に集中しよう」と思い立った私は、声について考えるのを止めた。
それによって、早くなっていた心臓の鼓動が少しずつ落ち着いていく。
ナハトや彼の仲間達が見守る中、私達一行を乗せた馬車は目的地へ向かって少しずつ進んでいくのであった。
いかがでしたか。
今回執筆してて思ったのは、アビって天性の人たらし!?ってなかんじがしました。
仕事柄色々な人と巡り合うのですが、何だか周りに人が集まりやすい…!?
そして、元は精霊なので恋愛関連はかなり疎いみたいっすね(笑)
今回初登場のクルーアは某少年漫画。次回登場予定のトガとトゴは某特撮番組に出てくる双子がモデルっすね。
さて、次回はその双子との邂逅がメインになるかな?
また、がっつり登場したのが初なナハトはアビと何か関係ある…?
まだまだ序盤で解らない事だらけですが、今後色々判明予定。
次回もお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します(__)




