4 . ”観測者”としての報告_1-2
「あれが聖剣…」
私は、洞窟の奥に鎮座する一振りの剣を視界に捉えていた。
「貴女も精霊の端くれ。であれば、“あれ”に宿るモノが何かお分かりでしょう」
「成程ね。でも、今は“神”になった訳だし、こんな下賤な民の話を聞くとは思えないけど?」
淡々と話す1に対し、私は少し含みを込めた返しをする。
そんな私を見た彼は、一瞬だけ肩を浮かして口を開く。
「大丈夫でしょう。“彼”とて、“同胞”から問われれば応えてくれるはず。それに…」
「それに?」
「…“聖剣に宿る剣武神・グンニルより前任の勇者の情報を掴め”というのは国からの命令。そして、“貴女は上からの命令に逆らえない理由がある”のもご存知ですよね?」
「…っ…!!」
的を射ている1の台詞に対し、私は一瞬だけ眉間にしわを寄せた。
「……わかったわよ」
渋々と了承した私は、洞窟に張られている結界の目の前に立つ。
…剣武神・グンニルよ。我こそは、フェカドゥから参った無の精霊・タリング。かつて我と同じ精霊であった貴殿に、話を賜りに来た。この結界を、此度だけ解いてはくださらないか?
私は、心の中で語りかけながら微弱な魔力を結界に向けて注いでいた。
目の前に張られている結界はおそらく、許可された者以外が触れると弾かれる一般的な結界だろう。そのため、自分の魔力を伝えることで、己が敵でない事を相手にわかってもらう必要がある。
そして、隣で空気の精霊が現れて見守る中、私は相手の返答を待つ。それだけ、気を使わなくてはならない相手だからだ。
「………解けたか」
「…1は、そこで待っていて」
結界が解けた事を1は感じ取っていたが、私は「自分以外は入らないほうがいい」と彼を威嚇した。
1も当然、この後話を聞く相手がどれだけ重要な存在かよく理解しているため、私からの指示に黙って従ったのである。
洞窟の中に入って奥へ進んでいく私の瞳に、ひと振りの聖剣が映る。
『只人の身を窶しているが……驚いた。お主のような精霊が生まれていたとは…』
「改めまして、剣武神・グンニル。私は、無の精霊・タリング。…只人の世では“アビ”と名乗っております」
『うむ』
私の姿を見た事で、グンニルが口を開いた。
本来、聖剣に宿る剣武神・グンニルと言葉を交わせるのは、剣武神に選ばれた勇者のみ。ただし、現在はその勇者がいない状態のため、こうして私のような部外者でも会話が可能なのだ。
「しいては、グンニル。つい先日亡くなったという、前任の勇者の事をお聞かせ願いますか?」
『本来ならば、断固拒否なのだが…。お主のような精霊が、このフェイドゥに身を置いているということは……』
「…お察しの通りです」
グンニルには口がないのでどのような表情をしているかはわからないが、この時彼に口があったのならば、口をポカンとあけてその場で黙り込んでいただろう。
『致し方ない。我の主観ではあるが、前任の勇者・バッシュについて語ろう』
「ありがとうございます」
グンニルが了承してくれたことで、私は安堵して話を聞く体勢に入った。
グンニルがつい最近起きたように語る出来事は、1週間程前に不治の病で亡くなった前任の勇者・バッシュという名の青年の話だった。
如何にしてバッシュと出逢ったか。どういった徒党で旅をしていたのか。当時はまだ魔王が復活を遂げる前だったため、概要とはいえ貴重な話が多い。彼の話を聞く私の右手には、おむすびくらいのサイズがある魔晶石が握られていた。
観測者用の端末でも声の録音は可能だけど、やはりフェイドゥに身を置く剣武神相手だとこの録音機能がついた魔晶石の方が不審がられないよね…
私は、不意にそんな事を考えていた。
この世界・フェイドゥはフェカドゥ程文明が栄えていないが、魔晶石といった魔力を必要とするアイテム等はかなり良質の物質が多い。遠くに離れた人と会話をする。映像を記録し映し出すーーーーーそんな機能を、この魔晶石が担っている事が多い。今回私が持参した魔晶石も、グンニルの話を録音するための記録用だ。
『そうして、魔族の襲撃を受けていた運命の女神・ウルヴェルドの導きを得て使命を果たそうとする徒党に出逢ったのだ』
話のさ中、グンニルによる台詞を皮切りにバッシュ達に関りのある人物達の話に入る。
その内容は、少し前に国から発表があった”おとぎ話のような実際の話”に出てくる人物達の話だったのだ。1からの報告書を確認した際、「前任の勇者一行」がこの件の話に出てきた徒党と関りがあったのは把握していたため、特に驚きはしない。
因みに1は、今私もいるフアム大陸が管轄であり、”世界に影響を与えそうな人物”―――――今回でいう前任の勇者を担当していた。私は不特定多数の人間達を観測するが、彼のように国からの命令があれば特定の人物を観測する事もあり得るのだ。
フアム大陸と比べて音魔法の発展が遅れている私の管轄で、観測対象になる者なんて現れるのかな…?
そんな事を考えていると、グンニルよる話が終わりを迎えようとしていた。
「ありがとうございます、グンニル。最後に一つだけよろしいですか?」
『…申してみよ』
「はい」
剣武神からの許可を貰った私は、大きく深呼吸をしてから口を開く。
「貴殿が勇者バッシュと関わってきた中で、精霊魔法を知ろうとした者。研究していた者。行使しようとしていた魔法使いなんかはいませんでしたか?」
私は、少し低めの声と真剣な眼差しを向けながら問いかける。
この問いが、観測者にとっては最も重要な質問だった。
『…もし、“いた”と申したらどうなる…?』
「その者についてある程度伺い、上へ報告します。その後の判断は、わかりかねます」
『…難儀だな、お主らフェカドゥの観測者達は』
向こうからの質問に対して答えると、グンニルからため息交じりの声が響く。
『結論からいうと、“いなかった”だな。これにて、終いでいいか?』
「はい、貴重なお話を賜りありがとうございました」
グンニルからの返答を聞いた私は軽く安堵し、深々と相手にお辞儀をしてから魔晶石の録音操作を止めた。
「では、私はこれにて」
『…うむ。あぁ、そうだ』
私がこの場を去ろうとすると、グンニルは何か思い出したかのように言葉を紡ぐ。
『まだ育っている最中だが、近いうちに次世代の勇者が現れるかもしれん』
「わかりました、ありがとうございます」
グンニルが述べた思わぬ台詞に対して私は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにいつもの営業スマイルに戻って会釈をし、その場を後にしたのである。
「あー!!疲れたーーー!!」
「お疲れさまでした、2」
洞窟を離れ、元来た道を歩きながら私は軽く腕のストレッチをした。
隣には、端末を持つ1が歩いている。
「…じゃあ、今回魔晶石に録音した内容は後日、報告書にして端末から他の観測者達をCCに入れて送信するね」
「はい、宜しくお願いいたします」
「…では、また」
「また、機会がありましたら…」
それから数分程歩き、最初待ち合わせしていた旧い大木まで戻ってきた後、私は同僚との別れを告げる。
本来、同じ観測者同士の交流はほとんどなく、今回のように特定の仕事が入った時くらいしか顔を合わせる機会はない。そのため、私が行きと同じく呪文を詠唱し、“裏道”へ入り込んでいくまで特に話すまでもなく黙ったまま進んだ。
穴の中へ吸い込まれるように帰っていった私を見届けた1は、独り小声で呟く。
「“どんな属性にも成り得る”という意味を持つ無の精霊・タリングか…。僕達も似たような存在だが、彼女こそまさに“籠の中の鳥”そのものだな…」
彼の呟きを私が知るはずもなく、周囲に吹く風にその声はかき消されるのであった。
いかがでしたか。
今回は、ある意味人外との会話ってかんじでしたね。
まだまだ書けない事も多々ある第一章ですが、グンニルはおろらくアビの境遇を大体悟ったと思います。前作を知っている方はご存じかもですが、このグンニルはまさに前作に登場したキャラクターの一人。また、話に出てきた青年バッシュも同じくです。グンニルがアビに話した内容をがっつり書いてしまうと、説明だらけの文章になってしまい長くなるため、割愛させて頂きました。
この回まででわかった方もいるかもですが、今作の話番号やサブタイトルのつけ方はアビが「携帯端末に記録する」というのを想定したつけ方になってます。
なので、第一章を示すアルファベットも皆麻がつけたオリジナルの拡張子になります。
さて、次回から第2章となります!
相変わらず卸売業者としての仕事をこなしつつ、アビがかかわる対人関係を掘り下げたり、思いがけない事件に遭遇するなんてことも?
次回もお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします(__)




