3. ”観測者”としての報告_1-1
「いつもありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
ある日の午後、納品先の一つである冒険者ギルドでのいつもの挨拶を私は交わしていた。
冒険者ギルドには、依頼をする一般人や依頼をこなす冒険者と多くの人間が出入りする。受付嬢とされる女性職員が、依頼人・冒険者・そして私のような業者の対応をするのだ。冒険者達も依頼を達成した後とはつまるところ冒険を終えた後のため、ギルドに達成報告と一緒に手持ちが減った道具を欲しがる徒党も多い。故に、回復系のアイテムを何点か納品しているのだ。
「以前、職員向けに納品した紅茶はお口に合いましたか?よかったら、感想を聞きたいです」
「あぁ、あの茶葉!香りもよくて、女性職員に好評でしたよ!あと、味がさっぱりしているので、男性職員も興味津々でしたね」
「…よろしければ、また取り寄せましょうか?」
「はい、お願いしますね」
受付嬢が商品の納品書に受領印を押している間、私は彼女と何気ない会話をする。
商人も受付嬢も、他者とのコミュニケーションが物を言う職業だ。こういった何気ない会話で情報を得たりと、お互い思考を巡らせながら日々働いているという訳だ。
「ありがとうございました。また宜しくお願いしますね」
捺印をもらい、受付嬢のこの一言を皮切りに今日の|卸売業者(こちら)の業務が終了した。
受付に背を向け、多くの冒険者が行き交うギルドを後にしようとする。
…確かに、異種族の徒党が増えたかも
私は、ギルドの建物内にいる冒険者達を一瞥しながらそんな事をふと考える。
この世界・フェイドゥは“人類”という枠でいうと人間だけではない。尖った耳を持ち、長命で強い魔力を持つ耳長族。小柄だが力が強く器用な小人がいる。そして、その人類に対して町や村の外で活動が活発化している魔物の他に、人と同じような姿形をするが冷酷非情で人を食らう魔族も存在する。
「音魔法、私も勉強中よ!」
「独学は難しいが…最近は魔法学校でも必修として取り入れられたとか…」
とある冒険者達の会話が、私の耳元に入ってくる。
近年、この人間やエルフ。そしてドワーフといった“人間以外の種族が入り混じった徒党が増えているのには理由がある。
『旧い時代に作られた負の遺産“ムジカ・デラフィーネ”。これを破壊すべく、運命の女神・ウルヴェルドの加護を得た”異界からの来訪者“である人間の魔法使いが、同じ”異界からの来訪者“である人間・エルフ・ドワーフを引き連れて音楽の旅へ出た。道中で様々な困難が襲い掛かるが、最終的に”ムジカ・デラフィーネの破壊“に成功。それによって、世界を死に至らしめる究極魔法が悪しき者の手によって行使される脅威は去った』という、おとぎ話のようで実際に起きたという国からの公式発表に起因している。
きっとその“ムジカ・デラフィーネ”という楽譜を破壊した徒党ってのが、人間とエルフとドワーフで構成されていたから…っていうもっぱら憧れかしらね
私は、瞳を細めながら軽くため息をつく。
ん…?
すると突然、周囲から視線を感じた。
最も、冒険者ギルドに冒険者ではない自分がいるので好奇の目線はいつも一定数感じていたが、今回は少し違う視線を感じたのである。
…ひとまず、敵意や殺意を剝きだしている訳ではないので、放置しておくか…
そう思い気配感知を止めた私は、そのまま冒険者ギルドを後にする。
王国の王都は、王族が住む都市だけあって表通りの方は人の往来も激しくて賑やかだ。
冒険者や町の人々。物を売る市場の人間など、画期的で明るい雰囲気を毎日放つ。一方、ひとたび建物の裏側や大通りから外れた細い道を入っていくと、綺麗とはいえない風景が広がっている。
ポイ捨てされたままのゴミや、飼い主のいない野良犬や野良猫。そして、家を持たない浮浪者―――――所謂、都の暗部といったところか。
誰もいない…ね
私は、薄暗い建物の間と間にある細道のとある一画にたどり着くと、周囲に人影がないか確認をする。
「…ハ ミ エールション ア ゴル フン アーチェ ア ハ ミ アグ イァリィ ヴォン フール」
私が呪文を口ずさむと、すぐ側に光の塊が現れる。
それはこの世界に棲む精霊の一種で、私の詠唱で光の塊という人に視える姿で登場したのだ。同時に、建物の壁には私の背丈以上の長さがある縦の黒線が出現していた。
「…行くよ」
私は精霊に声をかけるように口ずさむと、その黒線に向かって手を伸ばす。
すると、その線は空間を割り、中に人間が入り込めるくらいの穴と化した。右脚から前に出し、私は穴と化した空間に足を踏み入れていく。
踏み入れた先は、まるでダンジョンでよくある洞窟の中みたいな風景をしていた。一緒に来てくれている精霊による光と精霊による先導がなければ、本当の漆黒の闇だろう。それだけこの空間は暗く、道を照らす灯りがないのだ。
私がいた世界では、この”裏道“の存在を知る人は多かったけど…。まぁ、この世界の民が知らないのも仕方ないよね…
私は、心の中で呟きながら薄暗い”裏道“を通り抜けていく。
体感時間としては5分ほど経ったのだろうか。“裏道”を抜けた先は、森の中だった。
振り返ると、私の通ってきた黒い穴は旧い大木の前に存在し、徐々に穴は閉じられていく。
「お疲れ様です、“2”」
「…お疲れ様です、“1”」
気が付くと、森の木々の側に一人の青年がいる。
その男性は、私に対して今の“アビ”ではない他の名前で呼んでいた。
「貴女の報告書、僕の方にも届いていたので確認しました。逆もどうですか?」
「あぁ、確認したよ。じゃあ、目的地までまだ距離あるだろうし…。歩きながら、報告書の補足事項をお互い報告しますかね」
“1”と名乗る青年から尋ねられ、私は正直に答えた。
そうして会話を一旦終えたのと同時に、私は右手の親指と人差し指をこすって鳴らし、遮音の結界を展開したのである。
彼・“1”は、私と同じ“観測者”という任についている。実のところ、私と彼はこのフェイドゥの人間ではないのだ。
私達の暮らすこの世界は、本来は一つの世界だったが、旧い時代の大戦争か何かを境にして2つの世界に分かれた。このフェイドゥはその内で”精霊魔法が発達していない世界“とされている。そうして、私と1の二人は、フェカドゥというもう一つの世界からこの世界に派遣され、”観測者“としてフェイドゥで暮らす人々の暮らしぶりを観測しているのだ。
「そっか…。国から発表のあった“あの者達”は、勇者一行と縁があったね」
「…えぇ。この日を境に、対象は病死しています」
私達二人は、遮音の結界を展開したまま森の中を話しながら進む。
お互いの手の中には、長方形の板のような物体が握られている。
私の中に眠る“異界からの来訪者”が地球で生きていた頃の記憶から言うと、“タブレット”という機械に最も近いだろう。私と1の産まれた世界フェカドゥは、精霊を視える人々が多く、フェイドゥとは逆に”精霊魔法を駆使して科学的発展を遂げた世界“と云える。
3や4って、未だに会った事ないなぁー…
私は、手や足や口先を動かしながら不意にそんな事を思う。
私達“観測者”の中で、この世界に派遣されている者は4人。数字を模した名前はお互いのコードネームであり、“アビ”という私のような本名も必ずある。派遣といっても生身で異世界の行き来は困難なため、特殊な機械や魔法を駆使して精神だけこの世界に飛ばしているといった具合だ。そのため、私達“観測者”は肉体の本来の持ち主から了承を得た上で、肉体に憑依して活動しているといった具合だ。
「…そして、僕が観測していた“対象”が死んだ事で、彼は元ある場所に戻りました。僕の管轄であるこのフアム大陸で、2に来てもらった理由はおおよそ察しているのでは?」
「うーん…。“裏道”を扱うのが一番上手いから?」
「残念。3割正解」
1からの問いかけに対し、私はわざとらしい返答を返す。
正直なところ察してはいるが、私は特段この青年と仲が良い訳ではないから、ちょっとおちょくるような回答をしてみたが、バッサリと躱されたのである。
「確かに、我々“観測者”の中で、移動時間を大幅に短縮できる“裏道”を精霊の誘導で正確に通れるのは貴女だけでしょう。ただし、一番の本命は…………」
淡々と話す1だったが、前へ進む脚を一旦止める。
それによって、今日来た“目的”になる物を私達は目にした。
彼が指さす先にあったのは、壁に穴があいてできたような洞窟だ。周囲には何者の侵入も許さないような結界が張られている。
その洞穴の奥には-------------ひとまず役目を終えて、次の“主”たる勇者を待つ聖剣が地面に突き刺さったまま存在するのであった。
いかがでしたか。
実のところ、アビがやっている卸売業者は表の仕事で、観測者という立場が裏の仕事みたいなかんじです。そして、ちゃっかりと他の世界が存在する事が判明しましたね。
アビの同僚に当たる3と4は今のところ登場するかは未定ですが、どこかで関われたらなとは思います。
ちなみに、コードネームの番号は産まれた順とかではないです。「欠番が出たら補充される」といった具合でしょうか。
前作とのかかわりは、やはり国から発表された文面に関する事です。詳しくは、前作のエピローグにも載っているかと思います。
さて、今回のタイトルは「1-1」と出ているので、まだ続きます。
アビ達が産まれた世界は、私達が生きている日本みたく文明の発達した世界かもしれません。
そして、本来は管轄ではない大陸(実は前作の舞台になった土地)に呼ばれてまでアビがやる必要があるのはどのようなことか?次回をお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします(__)




