1. アイテムの納品先
「こんにちはー!!」
「おぅ、嬢ちゃんいらっしゃい!」
ある日の昼下がり、私は道具屋の裏口から中に入れてもらい店主に挨拶をする。
何度も自分と顔を合わせている店主である中年男性は、私を招き入れてくれた若い男性店員に声をかける。
「おい!アイテムの陳列、お前が手伝え!」
「えぇ?おやっさんの仕事じゃないんすか??」
「まぁな。だが、新人は商品をちゃんと見て触って覚えた方が接客にもいいだろ」
「はぁ…」
店主に促された若い店員は、渋々承諾した。
そんなやり取りをしている間、私は裏口に置いていた荷車にある荷物の中からこの道具屋に納品する分の袋を両手いっぱいに運び入れていた。そうして建物内に持ち込んだアイテムを袋から出しながら、お店にある他の商品と一緒に並べていく。
どこの界隈でも、新人教育って大変そうだなぁー…
私は、若い男性店員と一緒にアイテムを陳列しながらそんな事を考える。
この世界フェイドゥにある国・クイヴァサの王都には、たくさんの人が住んでいる。冒険者の出入りも激しいため、彼らにとって必要な武器防具屋や道具屋もかなり多い。
一方で武器防具を造る職人や店番をする道具屋の店主は、どのように商品を仕入れているのか。武器や防具はその場に工房を有する場合が多いので、仕上がり後の販売はたやすい。しかし、傷や体力を回復させる回復薬や解毒薬。魔力を宿す装飾品等、“道具”に関しては自分で仕入れる者も少なくはないが、経営しているお店を何日も空ける訳にはいかない。道具屋は特に個人経営のお店がほとんどだから、人件費云々で人を増やせない道具屋も多いだろう。
そんな状況を鑑みて始めた私の仕事が、「アイテムの製作者から商品を受け取り、必要なお店や施設に納品する」という卸売業者のような仕事だ。
「あの…えっと…」
商品を陳列していると、若い男性店員が私に対して何かを訊こうと口をモゴモゴさせていた。
「あぁ。私は、アビ・タリング。時々アイテムを持って、ひょっこり現れる業者だよー。よろしくね♪」
「ど…ども……」
私は、若い店員に対していつも通りの営業スマイルで名を名乗った。
男性は、私から自己紹介を受けた事で軽く頬を赤らめていた。私は、そんな彼に気にすることなく今日納品分の陳列を終わらせようと、手を動かすのであった。
「親父さん!終わりましたよー!」
「おぉ、助かったよ」
「…ありがとうございました」
「いえいえ。…新人君、陳列の仕方覚えられそう?」
数分後、商品の陳列が終わった私達は店主に声をかける。
二人にお礼を言われた私は、若い男性店員を見上げながら問いかける。
「…商品って、ただ並べるだけじゃダメなんすか?」
「そうねー…。回復薬みたいな消耗品は需要高いから、見た目気にしないだろうけど…」
若い店員から逆に訊かれたため、私は陳列の終えた回復薬に視線を移す。
「“最近仕入れたばかりの珍しい物”とか”絶対に売りたい物“とかは、ただ置くだけではダメかな。道具に貼られた注意書きとか、製作者のロゴがある場所とか見やすいように考えて置くのが大事だよ」
「がははは!!お前、嬢ちゃんの話はかなりためになるからな!聞けることちゃんと聞いとけよー!!」
私達の話を聞いていた店主が、何故か自慢げに話していた。
「何故、店主が得意げなのよ」と内心で思ったが、口には出さなかったのである。
「ふーーー!!まずは、一件目終了!」
道具屋の店主らに挨拶して店を後にした私は、その場で両腕を上にあげて軽くストレッチをした。
しかし、今日の仕事はこれだけではない。手や全身で引っ張る荷車には、まだこれから納品するアイテムの入った袋や被せた布が複数ある。
日没までに終わるといいな…
私はそんな事を考えながら、荷車を引っ張るのを再開した。
王都は多くの人々が行き交い、普通の平民から冒険者。身なりの綺麗な貴族だって歩いている。最も、お貴族様の多くは馬車に乗って移動する人が多いから、大通り等では貴族を乗せた馬車が行きかうのは日常茶飯事だ。
普通の人は、冒険者になって徒党を組んで、お金稼いで…。魔物倒して依頼人から感謝されて…そんな生活に憧れたりするのかな?
私はすれ違う冒険者を目にすると、時折そんな事を思う。
自分も冒険者に多少なりとも興味があったが、自分には縁のない世界だろうとすぐに考える事を止めていた。
「いずれにせよ、私のような奴は冒険者になる訳にいかないしな」
私は、低い声でポツリと呟きながら次の納品先へと向かった。
「皆さん、お疲れ様です」
「あぁ、アビさん!」
次の納品先に向かうと、私に気が付いた兵士が穏やかな表情で近づいてきてくれた。
近くにいる数人の兵士も、私の顔を見た途端何だかほっこりしているような雰囲気になる。
道具の納品先は、何も道具屋だけではない。冒険者が依頼を受けて仕事するギルドといったある意味”公共施設“でも、利用者から回復薬を求められて販売する事例が多い。そのため、今回私が訪れたのは、王様が住む王城の一角にある兵舎だ。城の守護や訓練においても、やはりアイテムは必要になる。そして、王族の守護や諸々と忙しい兵士達は当然、自分達で商品を仕入れに出かける余裕はない。
「いつもお忙しいのに、道具運ぶの手伝って戴いてありがとうございます!」
「いえいえ。我々としても、アビさんが来てくれる事で兵士達は”癒し“が来てくれたと喜んでいるようなので大丈夫ですよ」
「…皆さんの励みになっているようなら、何よりです」
私もいくつか持ちつつも、後ろに二人。そして隣に一人の兵士が持参した道具を持ち運びながら廊下を進んでいく。
王城には当然多くの人が働いており、物資の運搬をする業者の出入りも激しい。当然、正門は王族や外部からの客人が使うため、私のような人間は城の搬入口から中へ通される。一応、セキュリティーの観点から身なりを検査されるが、何度かアイテムを納品して確かな信用を得ているため、身なり検査はだいぶ簡素で済ましてくれる。
「おー!!アビちゃんが、納品に来てくれたぜ!!」
「いやー!!やはり、この男ばっかりの兵舎に女の子来てくれると、華やぐわー!!」
「…俺、今度デート誘ってみようかなー」
私が他の兵士と一緒に兵舎へ到着すると、訓練をしていた他の兵士達がボソボソと呟く。
女性兵士の採用の話もちらほら出ているらしいが、やはり王国を支える兵士は未だ男性が多い。そんな男ばかりの環境は、さながら男子校のようだ。
「では、荷物の受け取り印をお願いします」
「はい、少しお待ちください」
数分後―――――納品する商品を全て運び終えた私は、最初に声をかけてくれた若い兵士に向かって今回納品されたアイテムの種類や数量を記載した紙を手渡す。するとその兵士は、すぐ後ろにいた部下にアイコンタクトをした後に印を取りに行く。
「…魔物は元々多いですが、最近は魔族の動きも活発していますか?」
「…えぇ。やはり“魔王復活”を受けて、魔族達の動きも活発になってきているんでしょうね。新種魔法の研究も進んでいるようですし…」
私が投げかけた問いに対し、神妙な面持ちで応える若い兵士。
この兵士は最初に出会った道具屋の新人よりも年齢は少しいっているが、落ち着きのある大人の男性みたいな雰囲気だ。私の仕事は、老若男女いろんな人間との交流が欠かせないため楽ではないが、やりがいを常日頃感じていた。
活発化する魔族…か…
私はその単語を耳にした事で、黙ったままその場で考え事をしていた。
「あぁ、すみません。ではこちらに捺印しますね」
少し深刻そうな表情をした私を見かねたのか、部下が用意した印を若い兵士は押してくれたのである。
「捺印、ありがとうございました。では、失礼します」
「お疲れ様でした。では、出入り口まで送りましょう」
捺印も終わった私は、他の兵士達に軽く会釈した後、最初に声をかけた兵士に連れられて兵舎をあとにする。
「なぁ。あの娘って、この王都以外でも配達や職人が作ったアイテムを預かったりとかしているんだろう?かなりの荷物になるだろうけど、どうやって運んでいるんだろうな?」
「街だと、あの華奢な身体で荷車引っ張っていたのを俺の母ちゃんが見かけたって!」
「でも、王都から外に出ると魔物や魔族も出没するから、あんな荷車じゃ恰好の的だよな…?」
「そこはまぁ…」
訓練をしていた兵士達がこぞって私の話をし、一人の兵士が私の後ろ姿を一瞥してから口を開く。
「詮索しないのが常日頃だ。俺の知り合いで王都の商人ギルドに加入している奴が言うには、“商人と製作者の間に立ってくれるあの娘は皆のもの。彼女の事は、余計な詮索はしない”というのがギルド内での暗黙の了解らしいぜ」
「へぇー…」
そういった不思議な事実を耳にした兵士の一人はその後、すぐに私の事を考えるのは止めて自分の仕事に戻り始める。
私はこの時、「誰かが私の事話しているのかな?」と思いつつも内容は聞き取れないため、特に一瞥することもなく兵舎を後にするのであった。
いかがでしたか。
まだ第1話なので、解らない事。疑問に思うところが多いかと思います。
無論、今後の展開で色々わかってくると思うので、今回はこんな所かな。
作品の構造上、今回みたいに個人名のつかない人は結構多いかも…ある程度主人公と関りが深い登場人物は、きちんと名前をつける予定です。
今回は「納品先」の話でしたが、次回は「仕入れ先」の話かな?
お楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします。




