08.珍客
「お帰りなさーい!!」
エルファルト領主館に到着するなり、フィナが玄関から飛び出してきた。
執務室に移動した後、ジークたちはこれまでの経緯を説明した。
ラングルスター子爵領の横暴な買取を打ち切ったこと。
ダヌエルが夜襲をかけてきたため返り討ちにし、王国に突き出したこと。
そして、西のモルファス村という適正価格で買い取ってくれる新たな販路を開拓したこと。
「な、なんだとぉおおおおお!? あの馬鹿息子、シャルロット様に何してくれてんの! 許すまじ!」
フィナはバンバンと机を叩いて激怒した後、
「でも、モルファス村との直取引! これはすごいよ! 魔石一つが金貨一枚! すごすんぎ! これでエルファルト領も潤っちゃうね!」
と、万歳をして飛び跳ねた。
その姿を見届ながら、ジークは内心、冷や汗をかいていた。
そして、重い口を開いた。
「……フィナ。実は、そうはいかなくてな……」
「え? なんですか?」
「…………魔獣の討伐依頼が潰えた」
「…………はい?」
フィナの動きがピタリと止まる。
「そ、それってつまり……」
「あぁ、俺の出稼ぎからの報奨金が、当面は入ってこないということだ」
「ええええええええええ!? 嘘でしょぉお!?」
フィナは頭を抱えて机に突っ伏した。
「お、お兄ちゃんの出稼ぎがないと、うちの領は年間で金貨一万枚規模の赤字が直撃するんですけどぉおおお! 領民が飢えちゃうよぉお!」
ジークが額を押さえて渋い顔をしていると、
「…………あれ? ちょっと待って」
机に突っ伏していたフィナが、ふと顔を上げた。
そして、手元の紙に猛スピードで何かの計算を書き連ねていく。
「えーと、うちの数万人の領民たちが、防衛がてら日常的に狩る魔獣の数。ちりつもで集まる魔石の数が、だいたい月に最低500個」
フィナの目が徐々に見開かれていく。
「それが……一つ金貨一枚で売れるってことは……月に金貨500枚。年間にすると……金貨六千枚か」
「「…………」」
ジークとシャルロットは瞬きをした。
「……お兄ちゃん」
「あ、あぁ……」
「……上振れ分も考えれば、お兄ちゃんが出稼ぎ行かない分もある程度、補填できるね……」
「……え?」
「シャルロット様が新しい販路を教えてくれたおかげで、領地のピンチが救われてたよぉおおお!」
フィナは歓喜の叫びを上げながら、シャルロットに思い切り抱きついた。
「ひゃうっ!? あ、え、えと……よ、よかったです……」
シャルロットは目を白黒させながらも嬉しそうに微笑む。
(…………凄いな。シャルロット嬢はうちの領にとって文字通り女神なのでは……?)
ジークは目の前でわちゃわちゃとしている二人を見て、安堵の息を吐いた。
これで領地の危機は去り、しばらくは穏やかな日々が送れるだろう。
そう思った、その時であった。
バタンッ!
執務室の扉が勢いよく開かれ、執事のノエルが血相を変えて駆け込んできた。
「ジ、ジーク様! たいへんです!」
「どうした、ノエル。執務の手伝いでもしてくれるのか?」
「違いますっ! 今、館の前に……王室の紋章を掲げた立派な馬車が到着しまして……!」
「……は?」
ジークが間抜けな声を漏らした直後、
「よぉ、俺だ」
ノエルの背後からひときわ快活な声が響き渡った。
何度も聞いたことのある声だ。
豪奢な衣装に身を包んだ男が満面の笑みで執務室に姿を現した。
(…………ん?)
ジークの動きが停止する。
というか、ジークだけでなく、フィナもシャルロットも停止する。
「おい、なんだ、その反応は? まさか俺の顔を忘れたのか? 俺だよ、俺」
それは王国の第一王子ルーファシスであった。




