07.決着
「な、なんだお前はっ! どこから現れやがったぁあああ!」
パニックに陥ったダヌエルが半狂乱になりながら杖を振り回す。
「死ね死ね死ねぇええええええ!」
ダヌエルの杖の先から次々と炎や風の刃が乱射される。
ジークはハルバートを構えたまま一歩も動かなかった。
「——氷壁」
ジークが短く呟くと、彼の前方に分厚い氷の壁が瞬時に展開される。
ダヌエルの放った魔法はすべて、その絶対零度の壁にぶつかり、虚しく掻き消されていく。
「な、なんだよそれっ! 僕の魔法が……っ!」
「……終わりだ」
ジークが指を鳴らすと、ダヌエルの足元から急速に氷が這い上がり、瞬く間に彼の下半身を床に縫い付けた。
「ひぃっ!?」
身動きが取れなくなったダヌエルの首元に冷気を纏ったハルバートの刃がぴたりと添えられる。
「あ、あ、あああ……」
刃の冷たさにダヌエルは情けない声で震え出す。
「わ、わざとじゃないんだよぉおお……! あんな風に、モルファス村との取引を急に打ち切られたら、大損害を出してパパに殺されちゃうから、仕方なかったんだよー! こんな化け物みたいな奴が来たら勝てるわけがないじゃないかぁあああ!」
ダヌエルは鼻水を垂らしながら泣きじゃくった。
「……勘違いするな」
ジークは冷ややかな瞳で見下ろす。
「助けられたのは、お前の方だぞ?」
「……はへ?」
ダヌエルが間抜けな声を漏らす。
「もしあのまま、シャルロット嬢を攻撃していたら、お前は今頃、ちりあくたになっていたかもな……」
背後で、シャルロットが放っていた禍々しい紫黒の魔力を思い出し、ジークは内心でため息をつく。
(あのまま放っておいたら、この廃教会ごと消し飛んでいたんじゃないか……? まぁ、その魔力のおかげで場所がわかったというのもあるが……)
その言葉の意味を理解したのか、ダヌエルは顔面を蒼白にさせた。
「っっ……! なんでお前、セシリアに決闘で負けたくせにそんなに強いんだよー!」
「…………」
シャルロットはバツが悪そうに無言で俯く。
ダヌエルはシャルロットとジークを交互に見比べた後、安堵したように息を吐き出した。
「よ、よかったぁ……。危うく死ぬところだった……。ジーク殿、た、助けていただきありがとうございます……」
ダヌエルはジークに向かってぺこぺこと頭を下げる。
「助ける? 勘違いするな。シャルロット嬢の手をお前ごときに汚したくなかったからであって……俺がお前を処す」
「うわぁあああああ、そんなぁあああ! 希望持たせないでぇえええ!」
白目を剥き、ダヌエルはその場で泡を吹いて失神した。
「……なんてな」
ジークはハルバートを下ろし、小さく息を吐いた。
「流石に、証人もなく、俺が勝手に断罪するのは色々と厄介だ。正式な手順をもって国に処してもらう」
「あ、ありがとうございます……」
シャルロットは呆然とした様子でジークを見つめる。
「…………あっ、ただ、ラングルスター家は、ラドルッチ殿下の庇護がある可能性が……」
シャルロットが不安そうに告げる。
現王室の王子が後ろ盾になっているとなれば、もみ消される可能性は十分にあった。
「……それなら、恐らく心配はいりませんよ」
「……?」
ジークの言葉に、シャルロットは不思議そうに首を傾げた。
◇
そうして、気絶したダヌエルと騎士たちを縛り上げ、王国出張詰所に突き出し、王国の判断を仰ぐこととなった。
結論から言うと、自白したダヌエルは即日、打ち首となった。
王室の許可なく、他領の上位貴族に武装して夜襲をかけるという行為は、明確な反逆行為と見なされたためである。
最期の言葉は、
「そんなぁあああ! セシリアぁあ、なんとかしてよぉおおおお!」
だったらしい。
さらにラングルスター家は降格、領地の削減、莫大な賠償金の支払い等の厳罰を受けることになるのだが、それは少し後の話となる。
◇
帰路の馬車の中。
「しかし、なんでセシリア嬢の兄があんなしょうもない奴なんだ……。……あ、失礼……」
向かいの席に座るシャルロットに、ジークはつい愚痴をこぼしてしまった。
「セシリアさんのこと、ご存知なんですね?」
「……えぇ、まあ少し」
「……私は…………セシリアさんのこと、嫌いにはなれないんですよね」
シャルロットは窓の外の景色を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「嫌いになれない?」
「はい。彼女も……過去の失恋から立ち直ろうと必死でしたし……」
「…………」
(……過去の失恋?)
ジークにとってそれは少し意外だった。
(……第四王子とセシリア嬢とシャルロット嬢の間に、一体何があったのだろうか。……ていうか、セシリア嬢の過去の失恋って何のことだ……?)
ジークは一人、首を傾げる。と……、
「…………そろそろ言わないとですよね」
シャルロットがぼそりと呟く。




