06.ぼったくり逆切れすんな
「や、やれっ! そいつを捕らえろ!」
ダヌエルが裏返った声で叫ぶと、数人の騎士たちが一斉にシャルロットへと襲い掛かった。
「……」
シャルロットは表情を変えることなく、静かに一歩踏み出した。
騎士の一人が上段から剣を振り下ろす。
しかし、その刃がシャルロットに届くことはなかった。
「——風波」
シャルロットが軽く指先を振るう。
放たれたのは風の衝撃波。
それは禍々しい紫黒の魔力を帯びており、騎士の巨体を吹き飛ばした。
騎士は教会の石壁に叩きつけられ、白目を剥いて崩れ落ちる。
「なっ……!?」
残りの騎士たちは想定外の事態に怯むが、シャルロットは無言のまま淡々と魔法を放つ。
放たれる通常の魔法は、すべて闇のような紫黒の輝きを放っていた。
「な、なんなんだ、この異様な力は……!? ぐ、ぐわぁああああ!?」
訓練を積んだはずの騎士たちを次々と宙に舞い、為す術もなく地面に這いつくばらせていった。
数十秒後。
廃教会に立っているのは、シャルロットとダヌエルだけになっていた。
「な、なにがどうなってやがる……!?」
ダヌエルは腰を抜かし、無様な姿で後ずさる。
腕利きであるはずの騎士たちが貴族学園を卒業したばかりの娘に、あっという間に蹂躙されてしまったのだ。
シャルロットは確かに氷の令嬢などと呼ばれているとは知っていたが、それは態度や性格から来るものであって魔法において秀でているなどという情報は聞いたことがなかった。
ダヌエルは恐怖に顔を歪めながらも、何とか活路を見出そうと声を張り上げた。
「なんだ、その汚らしい魔力はよぉ!? お前、悪魔の子か……!?」
「……」
ダヌエルの言葉にシャルロットの表情は強張り、動きを止めた。
その様子を見て、ダヌエルは口角を歪める。
「だから、お前はラドルッチ殿下に捨てられたんだろうなぁ! あ、すまんな、お前を捨てて、ラドルッチ殿下が選んだのは、うちの妹のセシリアだったな。いやぁ、本当に申し訳ない」
「…………」
その言葉に、シャルロットの肩が微かに揺れた。
「そうだ! お前は誰からも必要とされていない! だからあんな辺境の貧乏伯爵に厄介払いされたんだよ! 氷の伯爵と氷の令嬢だっけか? はっ、お寒いカップルでお似合いじゃねえかよ!」
「…………っ」
シャルロットは反論することなく、静かに俯いた。
「んで、聞いた話によると、お前、セシリアとの決闘に負けたらしいなぁ……。僕はなぁ、小さい時はセシリアに魔法を教えていた。いわばセシリアの師匠。わかるよな? そんな僕がお前なんかに負けるわけねぇんだよぉおおお!」
ダヌエルは懐から短杖を取り出し、全魔力を込めて叫ぶ。
「くらいやがれぇえええっ! 爆炎球!」
ダヌエルの杖の先から炎の球がシャルロットに向かって放たれる。
シャルロットが顔を上げた時、炎はすでに目の前まで迫っていた。
だが、
「……え?」
すさまじい風鳴りの音が響き渡り、空間が大きく歪んだ。
「へ? なに? なにが起きた……?」
ダヌエルがすっとんきょうな声を上げた。
炎の球体はシャルロットに届く直前で、何かに弾かれたように霧散し、消滅した。
シャルロットはまだ何もしていなかったのに。
それは魔法が相殺されたわけではない。
ただ、物理的な風圧によって、掻き消されていた。
土埃が晴れた先に立っていたのは、身の丈ほどもある巨大なハルバートを片手で構えた黒髪の男が一人。
「ジ、ジーク様……?」
ジーク・エルファルトだった。
「……シャルロット嬢、……なぜお一人で?」
「……!」
シャルロットは出会ってから初めて、ジークが少し怒っているのを感じた。
「ご、ごめんなさい……」
「……話は後です。ひとまず…………俺から離れるな」
「……! は、はい……」
「っんでお前がここにいんだよ! シャルロットぉお! お前、分かってるだろうなぁ!?」
「……ダヌエル殿」
ジークの蒼い瞳がダヌエルを見据える。
「ひっ……」
「分かっていないのはあなたの方ですよ」




