04.ぼったくり許すまじ
「……え、えーと……、失礼かもしれませんが……、二束三文にしかならないってどういうことでしょう?」
シャルロットは首を傾げると、村人の男が応える。
「どういうこと……と言われましても。いつも南側にある子爵領の商人が買い取りに来てくれるんですよ。そもそも魔石を落とす確率が魔獣10匹に1個くらいですが、村中のみんなで何百、何千匹匹と魔獣を倒していると、まぁ、小袋一つ分にはなりまして、それを売りますと、銀貨十枚程度にはなりますよ……。二束三文は少し大袈裟でしたかね」
「あいつら妙に頻繁に来るけどね、たまには金貨一枚くれるよー」
若い女の子がテンション高めに補足する。
「その時はちょっとしたパーティよなぁ……」
そんな会話を聞いていたシャルロットは目を見開いた。
「そ、そんなことが……」
「…………はい?」
「これはれっきとした魔石です。王都などでは、魔道具の動力を担う核として、たった一つで金貨が動くほどの稀少素材のはずですが……」
(ふぁ!?)
ジークの思考が停止した。
「……あの、シャルロット嬢。それは流石に……」
(冗談ですよね……?)
「本当です」
「「…………」」
ジークと村人たちは顔を見合わせた。
◇
「あいつらぁあああああっ! ぶっ飛ばすっ!」
エルファルトの領主館、執務室。
帳簿を確認したフィナの怒号が響き渡っていた。
「見事に買いたたかれてますよ! ジーク! ていうかこれ、南のラングルスター子爵領じゃないですか!」
(……ラングルスター子爵領)
ジークは額に手を当てる。
(……俺の元婚約者、セシリアの実家か……。かつ、シャルロット嬢から第四王子を奪った形の……。いや、その件は別にいいとしてだ……。だが、うちの領民たちが命がけで魔獣を倒し、やっとの思いで集めた貴重な品を、えぐい値段でむしり取っていたとなると話は別だ)
「……ジーク様、いかがなさいましょうか」
控えめに尋ねるシャルロット。
「……まずは交渉ですね。この不当な取引価格の見直しを求める。フィナ、馬車の手配を」
「合点承知の助! うまくいけばこれで我が領も潤うね! ジーク!」
「え? あ……、おう……」
(……フィナにはまだ討伐依頼が途絶えそうなことは伝えられていない……。この件でどれ程、その損失を補填できるかが鍵に……)
などとジークが考えていると、
「ジーク様、私もご一緒しても……?」
シャルロットが同行を希望してきた。
「え……? その……、大丈夫ですか?」
(セシリア嬢の故郷は、シャルロット嬢にとって気持ちのいい場所ではないはずだ……)
「……もちろんです。ジーク様のお役に立てるよう全力を尽くします」
「……わかりました」
そうしてシャルロットも同行することとなった。
◇
数日後。
ジークとシャルロットは、南に位置するラングルスター子爵領の屋敷、その応接室にいた。
「これはこれは辺境の氷の伯爵殿。領主殿自らいらっしゃるとはご苦労なことです」
応接室に現れたのは、子爵家の長男であるダヌエルだった。
ダヌエルはジークを一瞥した後、隣に座るシャルロットを見て、意味深な笑みを浮かべる。
「そして……ふふっ。あ、いや、失礼。あ、いや、何でもありませんよ」
「…………っ」
シャルロットの肩が揺れる。
彼女はぎゅっとドレスの裾を握りしめ、顔を伏せてしまった。
(……こいつ、妹を王子が選んだからか、露骨にシャルロット嬢を見下してやがる)
ジークは静かに怒りを覚えたが、表には出さない。
「……ダヌエル殿。本日は、我が領から卸している魔石の取引価格について伺いに参りました。これまでの価格は、相場から著しく乖離しているようですが」
ジークが淡々と切り出すと、ダヌエルは鼻で笑った。
「相場? なんのことやら。あんな石っころ、うちが特別に買い取ってやっているんですよ。高く売れるんですか? エルファルトのような未開の……あ、いや失礼……他に買い手がいるんでしょうか? 実は、偶然にも妹のセシリアが殿下に見初められましてねぇ。えぇ、どこかの誰かが放置して逃した妹のセシリアがですよ」
(……それについてはなんともコメントしがたい)
「それでですね、今や我が家は中央でも強い影響力を持っているんですよ。高く売れると言うのなら、よそで売ればいい。……もっとも、あなた方にそんな販路があれば……の話ですがね」
ダヌエルは足を組み、勝ち誇ったようにシャルロットを見る。
「全く、誰が入れ知恵したのやら……。あ、あなたでしたか? シャルロット嬢。……全く、王都での居場所を失ったご令嬢が、辺境の財政にも口出しですか?」
伏せられたシャルロットの顔が、さらに悲痛なものに歪む。
「あ、あれぇ……? 傷ついちゃいましたかね? ごめ……」
「黙れ」
「へ……?」
ダヌエルは変な声をあげるが、ジークは無視して静かに立ち上がった。
「……」
シャルロットとダヌエルが同時にジークを見る。
「ダヌエル殿。では、今後の取引は白紙ということで。……シャルロット嬢、参りましょう」
ジークはそれだけ言い捨てると、シャルロットの手を引き、さっさと応接室を出ていこうとする。
「な、おい……っ! 本気か!? 泣きついてきても知らないからな!」
背後からダヌエルの喚き声が聞こえたが、ジークは振り返ることなく屋敷を後にした。
◇
馬車に揺られながら、ジークは小さく息を吐いた。
「……シャルロット嬢、申し訳ありません。自分が感情的になり、交渉を打ち切ってしまいました」
「い、いえ……。私の方こそ、ジーク様に気を使わせてしまって……」
シャルロットはまだ少し沈んだ様子で首を振る。
「ですが、販路のあてがなくなってしまったのは事実です。このままでは……」
ジークが眉間を揉んでいると、シャルロットは顔を上げ、真剣な瞳で言った。
「えーと、そのことでしたら、新しい販路のあてがあります」
「え……?」
「ここから西にあるモルファスという小さな村があるのです。あそこは、ひっそりとですが、高品質の魔道具を製造しており、王都にも卸しているはずです」
「なんと……。私も一応、貴族学園を出ていますが、そのことは知りませんでした」
「あ、えーと……攻りゃ……じゃなくて! 以前、本で読みましたので」
(……本?)
こんな辺境の隣接地域の産業について書かれた本などあるのだろうか、とジークは疑問に思ったが、シャルロットが言うならと馬車の行き先を西へと変更させた。




