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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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5/12

5.

 コンコン。

 病室の扉が静かに叩かれた。


「どうぞ」


 セリアが返事をすると、ゆっくりと扉が開く。


「失礼します」


 姿を現した人物を見た瞬間、セリアは目を丸くした。


「オーレリア様……?」


 まさか本人が来るとは思ってもいなかった。

 思わず慌てて体を起こそうとすると、オーレリアがそっと手を上げる。


「そのままで構いません」


 穏やかな声だった。


「突然お伺いして申し訳ありません。もし体調が優れないようでしたら、今日は失礼いたします」


 その言葉に、セリアは思わず首を横に振る。


「いえ、大丈夫です。来てくださって嬉しいです」

「本当によろしいのですか?」

「はい」


 オーレリアは安心したように微笑み、ベッドの横の椅子に腰を下ろした。


(綺麗な方……)


 近くで見るオーレリアは、噂以上に美しかった。

 整った顔立ちに長い銀色の髪。

 学園では『冷たい公爵令嬢』と呼ばれていると聞いたことがある。

 けれど、実際はまるで違った。

 部屋に入ってから、自分の体調を気遣ってくれている。


(優しい方なんだろう)


 そんなことを考えながら、セリアは小さく頭を下げた。


「お手紙を読んでくださって、ありがとうございました」

「こちらこそ、お返事もせずに伺ってしまってごめんなさい」


 オーレリアもわずかに頭を下げた。


「それと……フレディ様がご迷惑をおかけしているようですね。お詫び申し上げます」

「そんな……!」


 今度はセリアが慌てた。


「謝るのは私です。私のせいでお二人にご迷惑を……」

「いいえ」


 オーレリアは首を横に振る。


「婚約者のことなのに、気付くのが遅くなりました」


 二人は顔を見合わせる。

 しばらく沈黙が続いたあと、セリアが小さく笑った。


「悪いのは……」

「「フレディ様ですね」」


 二人の声が重なる。

 一瞬驚き、それから二人とも思わず笑ってしまう。


「やっぱり、お話ししても通じませんでしたか?」


 セリアがおそるおそる尋ねる。

 オーレリアは苦笑した。


「ええ」

「私、『気にしないで』って何度も言っているんです」

「そのことも伺いました」

「でも、『遠慮しなくていい』って言われてしまって……」

「私は『嫉妬しなくていい』と言われました」

「えっ?」


 セリアは思わず吹き出した。


「全然違うお話なのに……」

「ええ。何度説明しても、同じことを繰り返されてしまって」

「私もです」


 二人はまた顔を見合わせる。

 話が通じない。

 その一言だけで、お互い苦労していることが分かった。


「今度から、フレディ様が見舞いにこられた時は、私に連絡していただけませんか?」

「分かりました」


 セリアは苦笑した。

 オーレリアは改めてセリアを見つめた。


(この方は……)

 

 自分を正当化する人なのかもしれないと思っていた。

 婚約者を利用している人かもしれない、と疑ったこともあった。

 けれど、目の前にいる彼女は違う。

 人に迷惑をかけることを何より気にする、優しい人だった。


「コホッ……」


 小さな咳が聞こえ、オーレリアは我に返る。


「申し訳ありません」


 セリアは口元を押さえながら笑う。

 少し息が苦しそうだった。


「少し話しすぎました」


 その言葉を聞いたオーレリアは、静かに立ち上がった。


「今日はこれで失礼します」

「えっ……」


 思わず声が漏れる。


「もう……お帰りになるんですか?」


 どこか寂しそうな表情を見て、オーレリアはふっと表情を和らげた。


「……また来てもよろしいですか?」


 セリアの顔がぱっと明るくなる。


「もちろんです!」


 勢いよく返事をしたあと、少し照れくさそうに笑った。


「実は……友達と呼べる人がいないんです」


 病気で学園に通えなかった。

 同年代の友人を作る機会もなかった。

 だから、今日こうして誰かと話せたことが、とても嬉しかった。

 オーレリアも小さく笑う。


「それは私も同じです」

「え?」

「学園では話す方はおりますが、『友達』と呼べる方はいません」


 セリアは少し驚き、それから嬉しそうに笑った。


「じゃあ……」

「ええ」


 オーレリアは優しく頷く。


「よろしければ、またお話ししませんか」

「はい。楽しみにしています」


 病室を出ようとしたオーレリアは、ふと思い出したように振り返った。


「そうだわ。次は何かお持ちします」

「そんな、お気遣いなく」


 セリアは慌てて首を横に振る。


「でも、せっかく仲良くなれたのですもの。何か喜んでいただけるものを持ってきたいのです」


 少し照れくさそうに笑うオーレリアを見て、セリアも頬を緩めた。


「ありがとうございます」


 少しだけ考え、それから申し訳なさそうに口を開く。


「あの……一つだけいいですか?」

「もちろんです」

「実は、アーモンドは食べられないんです。アレルギーがあって……」

「アレルギー?」

「はい、少しでも食べると体調を崩してしまうんです。それ以外でしたら何でも嬉しいです」


 オーレリアは真剣な表情で頷く。


「分かりました。しっかり覚えておきます」

「ありがとうございます」


 二人は笑い合う。

 ほんの少し前までは、お互いのことをほとんど知らなかった。

 それなのに今は、次に会う約束をしている。


「それでは、また」

「はい。またお会いしましょう」


 病室を出る直前、オーレリアはもう一度だけ振り返った。

 部屋に入った時には申し訳なさそうだったセリアは、今は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 その笑顔を見て、オーレリアも自然と微笑んだ。


(来てよかった)


 そんな温かな気持ちを胸に、オーレリアは静かに病室を後にした。

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