4.
数日後。
約束の時間より少し早く店に着いたオーレリアは、窓際の席でフレディを待っていた。
「待たせてしまってごめん」
聞き慣れた声に顔を上げる。
フレディは申し訳なさそうに席に着いた。
「いいえ。今日は来てくださって安心しました」
「最近は約束を破ってしまうことが多かったからね」
そう言って苦笑する。
その表情を見ながら、オーレリアは静かに切り出した。
「今日は、そのことでお話があります」
「僕も少し話したいことがあったんだ」
「そうですか」
紅茶が運ばれてくるのを待ち、オーレリアは口を開く。
「数日前、セリア様からお手紙をいただきました」
その言葉に、フレディは少し驚いたように目を瞬かせた。
「セリアから?」
「はい」
オーレリアは頷く。
「手紙には、何度も『どうか気になさらず』と伝えていると書かれていました」
フレディは小さく笑った。
「うん、そうだよ。でもね……遠慮してるだけなんだ」
あまりにもあっさり認めたので、オーレリアは一瞬言葉を失う。
「否定はなさらないのですね」
「うん」
フレディは迷いなく頷いた。
「でも、セリアは優しいから」
「優しい……ですか?」
フレディは懐かしそうに笑う。
「病気の時って、一人でいると寂しいだろう?」
「……」
「僕も子どもの頃、熱を出した時は一人で寝ているのがすごく心細かったんだ。だけど遠慮して『一人で大丈夫』って言ってたんだ」
だから分かるんだ、と続ける。
「セリアは『気にしないで』と言うけど、本心じゃない」
「そうでしょうか」
「うん。遠慮しているだけだよ」
その口調には一切迷いがなかった。
オーレリアは静かに尋ねる。
「一度でも、セリア様のお気持ちを聞こうと思われたことはありますか?」
「もちろん聞いてるよ」
「それでは、もし帰ってほしいとおっしゃったら?」
「セリアはそんなことを言う子じゃないよ。……もし言ったとしても、それは僕に気を遣っているだけだ」
迷いのない返事だった。
オーレリアはゆっくり息を吐く。
「そうではない可能性は、お考えになったことはありませんか?」
「考えたことはないよ」
即答だった。
「だってセリアは優しい子だから」
同じ言葉を繰り返す。
まるで、それ以外の答えは存在しないと言うように。
オーレリアは胸の奥に小さな違和感を覚えた。
話が噛み合わない。
自分はセリアの気持ちを尋ねている。
けれどフレディは、自分の考えしか話していない。
「オーレリア、僕も君を不安にさせてるんじゃないかと心配していたんだけど……ああ、なるほど。君がそんなことを言う理由が分かったよ」
フレディは優しく笑った。
「嫉妬しなくて大丈夫だよ」
「……嫉妬?」
「婚約者なんだから、不安になる気持ちは分かる。でも、セリアは幼馴染なんだ」
「違います」
オーレリアは静かに首を横に振る。
「私がお聞きしたいのは、そのことでは——」
「心配しなくていい」
言葉を遮られる。
「君のことも大切に思っているから」
優しい声だった。
けれど、その優しさはどこか空回りしているように感じられた。
◇◇◇
屋敷に戻ると、侍女のエマが待っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「調べてくれたことを聞かせてちょうだい」
エマは一礼し、集めた話を順に報告する。
「療養院の看護師の方々は、フレディ様はとても優しい方だと口をそろえておりました。差し入れを持って来られたり、皆さんにも気さくに声を掛けてくださるそうです」
そこまでは、オーレリアの知るフレディだった。
「ですが、主治医の先生だけは違う見方をされていたそうです」
「違う?」
「療養院の関係者に聞いたのですが『面会時間が長く、セリア様のお体が心配だ』と話されていたそうです」
オーレリアは目を閉じる。
看護師と主治医。
同じ人物を見ているのに、受ける印象が違う。
そして今日のフレディとの会話。
「……やはり」
セリアの手紙は、嘘ではないのだろう。
「療養院に行った方がよさそうね」
「セリア様に、お会いになるのですか?」
「ええ、明日にでも。用意をお願いね」
自分の目で確かめたい。
手紙だけではない。
フレディの言葉だけでもない。
本当のセリア・ホワイトという人を。
そして、翌日。
王立魔法療養院に到着すると、案内された病室の前で足を止める。
オーレリアは小さく息を吸い、扉をノックした。




