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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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3/10

3.

 キャンベル公爵家の屋敷。

 朝の柔らかな日差しが部屋に差し込み、窓の外では庭師が花壇の手入れをしていた。

 オーレリアは窓辺に立ち、庭を眺める。


 学園は先日から長期休暇に入った。

 これまでは約束を断られても、学園に行けば顔を合わせることができた。

 朝の挨拶だけで終わる日もあれば、昼休みに少し話せる日もあった。

 それでも、フレディが元気そうに過ごしている姿を見られれば安心できた。

 けれど、休暇中は、自分たちで約束をしなければ顔を合わせることもない。

 その約束も、このところ何度も断られている。


「今年の休暇も……同じなのでしょうか」


 小さく息をつく。

 自然と二年前のことを思い出した。


◇◇◇


 侯爵家から婚約の話が届いたのは十五歳の頃だった。

 初めて会ったフレディ・バークは、穏やかな笑顔が印象的な少年だった。

 使用人へも丁寧に礼を言い、困っている人がいれば迷わず手を差し伸べる。

 誰にでも優しい人。

 それがオーレリアの第一印象だった。


 婚約が決まってからは、休日に一緒に町へ出かけたり、お茶を飲みながら学園の話をしたり、穏やかな時間を過ごしていた。


 半年ほどたったある日。

『ごめん。セリアが体調を崩したんだ』

 初めて約束がなくなった。

 病気なのだから仕方がない。

 そう思って笑顔で送り出した。

 後日、改めて時間を作ってくれたフレディは何度も謝ってくれた。

 だから気にしなかった。


 しかし、それは一度では終わらなかった。

 少しずつ約束が減っていく。

 最初は待ち合わせ場所まで来て謝ってくれた。

 そのうち手紙で断られるようになり、今では従者に伝言を持たせるだけになっていた。

 気づけば、謝罪の言葉さえ短くなっていた。


◇◇◇


 オーレリアは机の上の手紙を手に取った。

 昨日届いた、セリア・ホワイトからの手紙。

 もう一度ゆっくりと読み返す。


『私はフレディ様に何度も「どうかお気になさらず」とお伝えしております。ですが、私の言葉が足りないのか、聞き入れていただけません』


 オーレリアの手が止まる。


「……何度も、お断りしていた?」


 フレディからそんな話を聞いたことは一度もなかった。

『遠慮しているだけなんだ』

『一人では寂しいはずだから』

 フレディはいつもそう言っていた。


 だからオーレリアも、セリアも本当はフレディにそばにいてほしいのだと思っていた。

 けれど、この手紙は違う。

 さらに読み進める。


『このままではご迷惑をおかけし続けてしまうと思い、お手紙を書かせていただきました』

『この件は私にも責任がございます』


「責任……?」


 思わず眉を寄せた。


「少なくとも、この方だけが責任を感じることではないでしょうに……」


 会ったこともない少女が、自分を責めるような手紙を書いている。

 そのことが胸に引っかかった。

 もちろん、まだ手紙だけで全てを信じることはできない。

 直接会ったこともない相手だ。

 けれど、文面からは、自分を正当化しようという意図は感じられなかった。

 それに、一つだけ確かなことがあった。

 オーレリアは静かに手紙を畳む。


「セリア様という方のことを、何も知らない」


 病気で療養院にいることも、どんな人柄なのかも、すべてフレディから聞いた話だけだった。


「エマ」


 控えていた侍女が一礼する。


「はい、お嬢様」

「セリア・ホワイト様について調べてもらえますか」

「ホワイト家のご令嬢でございますね」

「ええ。療養院でどのように過ごされているのか、人柄など分かる範囲で構いません」

「かしこまりました」


 侍女は静かに部屋を出ていく。

 オーレリアはもう一度だけ手紙を見つめ、小さく息をついた。


「その前に……」


 エマからの報告を待つ間にフレディの話も聞こう。

 この手紙に書かれていることは本当なのか。

 どうして約束を何度も破るようになったのか。

 婚約者として、それを確かめる責任が自分にはある。

 オーレリアは静かに立ち上がった。

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