3.
キャンベル公爵家の屋敷。
朝の柔らかな日差しが部屋に差し込み、窓の外では庭師が花壇の手入れをしていた。
オーレリアは窓辺に立ち、庭を眺める。
学園は先日から長期休暇に入った。
これまでは約束を断られても、学園に行けば顔を合わせることができた。
朝の挨拶だけで終わる日もあれば、昼休みに少し話せる日もあった。
それでも、フレディが元気そうに過ごしている姿を見られれば安心できた。
けれど、休暇中は、自分たちで約束をしなければ顔を合わせることもない。
その約束も、このところ何度も断られている。
「今年の休暇も……同じなのでしょうか」
小さく息をつく。
自然と二年前のことを思い出した。
◇◇◇
侯爵家から婚約の話が届いたのは十五歳の頃だった。
初めて会ったフレディ・バークは、穏やかな笑顔が印象的な少年だった。
使用人へも丁寧に礼を言い、困っている人がいれば迷わず手を差し伸べる。
誰にでも優しい人。
それがオーレリアの第一印象だった。
婚約が決まってからは、休日に一緒に町へ出かけたり、お茶を飲みながら学園の話をしたり、穏やかな時間を過ごしていた。
半年ほどたったある日。
『ごめん。セリアが体調を崩したんだ』
初めて約束がなくなった。
病気なのだから仕方がない。
そう思って笑顔で送り出した。
後日、改めて時間を作ってくれたフレディは何度も謝ってくれた。
だから気にしなかった。
しかし、それは一度では終わらなかった。
少しずつ約束が減っていく。
最初は待ち合わせ場所まで来て謝ってくれた。
そのうち手紙で断られるようになり、今では従者に伝言を持たせるだけになっていた。
気づけば、謝罪の言葉さえ短くなっていた。
◇◇◇
オーレリアは机の上の手紙を手に取った。
昨日届いた、セリア・ホワイトからの手紙。
もう一度ゆっくりと読み返す。
『私はフレディ様に何度も「どうかお気になさらず」とお伝えしております。ですが、私の言葉が足りないのか、聞き入れていただけません』
オーレリアの手が止まる。
「……何度も、お断りしていた?」
フレディからそんな話を聞いたことは一度もなかった。
『遠慮しているだけなんだ』
『一人では寂しいはずだから』
フレディはいつもそう言っていた。
だからオーレリアも、セリアも本当はフレディにそばにいてほしいのだと思っていた。
けれど、この手紙は違う。
さらに読み進める。
『このままではご迷惑をおかけし続けてしまうと思い、お手紙を書かせていただきました』
『この件は私にも責任がございます』
「責任……?」
思わず眉を寄せた。
「少なくとも、この方だけが責任を感じることではないでしょうに……」
会ったこともない少女が、自分を責めるような手紙を書いている。
そのことが胸に引っかかった。
もちろん、まだ手紙だけで全てを信じることはできない。
直接会ったこともない相手だ。
けれど、文面からは、自分を正当化しようという意図は感じられなかった。
それに、一つだけ確かなことがあった。
オーレリアは静かに手紙を畳む。
「セリア様という方のことを、何も知らない」
病気で療養院にいることも、どんな人柄なのかも、すべてフレディから聞いた話だけだった。
「エマ」
控えていた侍女が一礼する。
「はい、お嬢様」
「セリア・ホワイト様について調べてもらえますか」
「ホワイト家のご令嬢でございますね」
「ええ。療養院でどのように過ごされているのか、人柄など分かる範囲で構いません」
「かしこまりました」
侍女は静かに部屋を出ていく。
オーレリアはもう一度だけ手紙を見つめ、小さく息をついた。
「その前に……」
エマからの報告を待つ間にフレディの話も聞こう。
この手紙に書かれていることは本当なのか。
どうして約束を何度も破るようになったのか。
婚約者として、それを確かめる責任が自分にはある。
オーレリアは静かに立ち上がった。




