↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/52

43.

 治療の日を迎えたセリアは、魔塔を訪れていた。

 いつものように治療室に向かう足取りは軽い。

 それなのに、胸の奥はどこか落ち着かなかった。


(ゼイン様に、何をお話しすればいいのかな……)


 前回、自分は思ったことをそのまま口にした。

 後悔はしていない。

 けれど、ゼインはどんな気持ちで受け止めたのだろう。

 そんなことばかり考えてしまう。


「セリア様」


 聞き慣れた明るい声に顔を上げる。


「イクス様」


 イクスはいつもの笑顔で手を振った。


「今日は僕も立ち会います。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 挨拶を交わしながら、イクスは部屋の奥に視線を向ける。

 そこには、治療の準備をしているゼインの姿があった。

 イクスはゼインに視線を向けた後、セリアと見比べるように目を細めた。


「……何かありました?」

「いえ、何でもありません」


 イクスは治療室に流れる微妙な空気を感じ取り、小さく苦笑した。

 その時、ゼインが振り返る。


「来たか」

「はい」


 短いやり取りだけで、会話は途切れてしまった。

 セリアもゼインも、何を話せばいいのか分からない。

 静かな空気が部屋を包む。


「では、始める」


 治療は驚くほど順調に進んだ。

 処置を終え、魔力回路の状態を確認したゼインは小さく頷いた。


「詰まりは、ほとんどなくなっている」


 セリアは思わず身を乗り出す。


「本当ですか?」

「ああ」


 ゼインは穏やかに答える。


「この調子なら、次が最後になる」

「本当に……!」


 セリアの顔いっぱいに笑顔が広がる。


「ありがとうございます」


 その嬉しそうな表情を見て、ゼインの口元もわずかに緩んだ。


「良かったですね、セリア様!」


 イクスが嬉しそうに手を叩く。


「この後一緒に紅茶でも飲みましょう。あと一回なんですから。今日はお祝いってことで!」


 その言葉に、セリアも笑顔で頷いた。

 三人は執務室に移動する。

 紅茶が運ばれると、治療室にあった緊張も少しずつ解けていった。


「そういえば」


 イクスがカップを置きながら尋ねる。


「治ったら、何かやりたいことはあるんですか?」


 セリアは少し照れたように笑った。


「実は……魔術を勉強したいと思っているんです」


 イクスは目を丸くした。


「おお、それはいいですね」

「私もいつか誰かの力になれるようになりたくて」


 そう話すセリアを見て、ゼインは静かに耳を傾けていた。

 イクスはそんな二人の様子を眺めていた。

 二人の視線が自然に合ったのを見届けると、安心したように小さく笑う。


「そうだ」


 イクスは立ち上がった。


「少し確認することがあるので、席を外しますね。お二人はそのまま紅茶をどうぞ」


 そう言って部屋を出ていく。

 静かになった執務室には、セリアとゼインだけが残された。


◇◇◇


 湯気の立つ紅茶を前に、二人はしばらく言葉を交わさない。

 穏やかな時間だった。

 けれど、どこか少しだけ落ち着かない。

 セリアは意を決して口を開く。


「あの、この前は——」

「魔術を習いたいと言ったな」


 二人の言葉が重なった。


「あ……はい」


 ゼインは静かに問いかける。


「本格的に学ぶのは初めてか」

「はい」


 セリアは頷いた。


「本を読むのは好きなんですけど、魔術をきちんと勉強したことはありません」

「そうか」


 短い返事だったが、その声はどこか柔らかい。

 セリアはふと思い出す。


「そういえば、前にイクス様に図書室を案内してもらいました。初心者向けの本もあると」

「ああ。初歩的なものから専門書まで揃っている」


 セリアは目を輝かせた。


「一度、見てみたいです。読むだけでも勉強になりそうです」


 ゼインは少し考えるように視線を落とす。

 手帳を取り出すと、静かに予定を確認した。


「……三日後なら時間がある」

「え?」


 思わず聞き返す。

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 それから意味が分かると、セリアの表情がぱっと明るくなる。


「案内する」

「本当ですか?」

「ああ」

「ありがとうございます!」


 嬉しそうに笑うセリアを見て、ゼインもわずかに口元を緩めた。

 穏やかな時間はあっという間に過ぎていく。

 やがて帰る時間になり、セリアは立ち上がった。


「今日はありがとうございました」


 小さく頭を下げ、部屋を出ようとする。


「セリア」


 名前を呼ばれ、振り返った。

 ゼインは少しだけ言葉を探すように間を置く。


「……この前は、ありがとう」


 その一言に、セリアは少し驚いたように目を見開いた。

 けれど、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「いえ、私は思ったことを、そのままお伝えしただけです」


 そう答えると、ゼインも静かに頷く。

 セリアはもう一度頭を下げ、執務室を後にした。

 閉まった扉を見つめながら、ゼインは小さく息をつく。

 胸の奥に残っていた重さが、少しだけ和らいだ気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。