↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/52

34.

 六回目の治療を終えると、ゼインはセリアの状態を確かめ、静かに頷いた。


「順調だな。魔力の流れもかなり良くなっている。滞留もほとんどなくなった」


 治療を終えたばかりだというのに、体の重さはほとんど感じなかった。


「この調子なら予定通りだ」

「はい……!」


 セリアの表情がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます、ゼイン様」

「礼を言うのはまだ早い」


 そう言いながらも、以前よりもわずかに表情が和らいでいた。


◇◇◇


 セリアがお礼を渡したいと申し出ると、三人はゼインの執務室へ移動した。

 セリアは抱えていた包みを両手で差し出す。


「あの……これを」

「?」

「ゼイン様にお渡ししたくて……」


 ゼインは包みを見つめる。


「気にする必要はない」


 やはりそう言われた。

 セリアが少し困ったように笑うと、隣のイクスも肩をすくめる。


「ほらね、やっぱり」


 二人は思わず顔を見合わせ、くすっと笑った。

 ゼインは意味が分からないというように、わずかに眉を寄せた。


「……何だ」

「いえ」


 セリアは笑顔で首を振った。


「受け取ってもらえるだけで嬉しいです」


 少しだけ間を置いて、ゼインは包みを受け取る。

 中には紅茶の缶と、小さな焼き菓子が入っていた。

 その様子を見たイクスが満足そうに頷いた。


「じゃあ、せっかくですし早速いただいてもいいですか」

「もちろんです」


 イクスは包みを受け取ると、紅茶を淹れるため部屋を出ていった。

 静かになった部屋で、セリアは興味深そうに室内を見回した。本棚にはぎっしりと本が並び、大きな机の上には書類が整然と積まれている。


「ゼイン様は、いつもここでお仕事をされているんですね」

「ああ」

「こんなに高い場所へ来たのは初めてです。魔塔って、勇者物語にもよく出てくるんです」


 嬉しそうに笑う。


「だから来られて、とても嬉しかったです」


 そして少しだけ首を傾げる。


「こうして見ると……」


 ゼインを見つめた。


「魔王様が魔塔に住んでいるみたいですね」


 ゼインは小さく息をつく。


「魔王じゃない」

「ふふっ」


 そのやり取りに、部屋の空気が少し和らぐ。

 ちょうどその時、イクスが紅茶と焼き菓子を運んできた。


「お待たせしました」


 部屋いっぱいに茶葉の優しい香りが広がる。

 イクスは早速焼き菓子を一つ手に取り、嬉しそうに頬張った。

 ゼインはカップを手に取り、一口飲んだ。

 セリアは落ち着かない気持ちで、その様子を見守った。


「……美味い」


 その一言を聞いた瞬間、セリアはほっと胸をなで下ろした。


(よかった)


 気に入ってもらえた。

 それだけで十分嬉しかった。


 帰る時間になると、イクスが立ち上がった。


「では、下までお送りします」


 ゼインは席を立たないまま二人を見た。


「また来週だ」

「はい。また来週お願いします」


 セリアは嬉しそうに頭を下げた。


◇◇◇


 部屋を出ると、最上階の大きな窓の前で、セリアはもう一度足を止めた。


「やっぱりきれいですね……」


 夕暮れにはまだ少し早い。

 それでも王都を見渡せる景色は十分に美しかった。

 その時、廊下の向こうから資料を抱えた二人の研究者が歩いてきた。

 二人は話しながらセリアたちの後ろを通っていく。


「この研究報告、今日初めてゼイン様へ直接お持ちするんですけど……やっぱり緊張します」


 若い研究者が資料を抱え直しながら言った。

 隣の年配の研究者が苦笑した。


「最初はみんなそうだ」

「昔はもっと近寄りがたい方だったと聞きました」

「あの方は変わっていないさ。変わったのは、我々の方だ」


 二人はそのまま歩いて行き、やがて廊下の奥へ姿を消した。

 セリアは思わずイクスを見上げる。


「今のお話って……」


 イクスは一瞬だけ視線を伏せた。

 すぐには答えず、少し考えるように間を置く。


「……詳しいことは、僕の口からは言えません」


 それ以上は何も言わない。

 どこか話題を変えるように、穏やかに促した。


「さあ、行きましょう」

「……はい」


 セリアは頷き、イクスとともに歩き出した。

 けれど、先ほど聞いた言葉が頭から離れない。


(ゼイン様は、昔どんなふうに過ごしていたんだろう)


 セリアは一度だけ、ゼインの執務室の扉を振り返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。