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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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33/52

33.

 六回目の治療の日。

 母と侍女に付き添われ、セリアは魔塔の前に立っていた。

 二人には、治療が終わるまで一階の待合室で待ってもらうことになっている。


「これが……魔塔」


 思わず見上げる。

 青空に届きそうなほど高くそびえる白い塔。

 壁面には魔法陣を模した美しい装飾が施され、陽の光を受けて淡く輝いていた。


「すごい……」


 魔術師たちの憧れであり、王国最高の魔術師が集う場所。

 その建物が今、目の前にあった。


「セリア様!」


 聞き慣れた明るい声が響く。

 振り向くと、入口でイクスが手を振っていた。


「イクス様」

「お待ちしていました」


 いつもの人懐っこい笑顔を浮かべながら近づいてくる。


「ようこそ、魔塔へ」

「今日はよろしくお願いします」


 セリアが頭を下げると、イクスもにこりと笑った。


「こちらこそ。まずは中をご案内しますね」


 重厚な扉をくぐると、ひんやりとした空気が頬をなでた。

 広々としたロビーには多くの魔術師たちが行き交っている。ローブ姿の者もいれば、資料を抱えて足早に歩く者もいる。


「皆さん、お忙しそうですね」

「研究中だったり、依頼を受けていたりしますからね」


 イクスは歩きながら説明を続ける。


「一階から三階までは、受付で手続きをすれば見学できます」

「そうなんですか?」

「ええ。魔術に興味がある方なら見学できますよ」


 廊下には魔道具がいくつも展示されていた。

 小さな人形が机の上を歩き、積まれた紙を一枚ずつ運んでいる。


「可愛い……」


 セリアは足を止め、一つひとつ興味深そうに眺めた。


「これも魔法で動いているんですか?」

「そうですよ」


 イクスは笑いながら頷く。


「展示品なので触れませんけどね」

「見ているだけでも楽しいです」


 そんなセリアを見て、イクスも嬉しそうに微笑んだ。


◇◇◇


 魔力で動く昇降台に乗り、三階に向かった。

 大きな扉の向こうには図書室が広がっていた。


「わあ……」


 天井まで届くほど高い本棚が何列も並び、ぎっしりと本が収められている。


「すごいですね……」

「魔塔自慢の図書室です」


 イクスは少し誇らしげだった。


「ただ、普通の本はあまり多くありません」

「そうなんですか?」

「ほとんどが魔術書や研究資料ですね」


 セリアは本棚を眺めた。

 難しそうな題名ばかりだった。

 それでも目は輝いていた。


「読んでみたいです」

「え?」

「難しくて全部は分からないと思いますけど……」

 セリアは少し照れながら笑う。


「魔術のこと、もっと知りたいですから」


 イクスは思わず笑ってしまう。


「セリア様らしいですね」

「ふふ」

「こちらに置かれている本なら、自由に読んでいただけますよ。初心者向けの本もあります」

「本当ですか?」

「もちろんです」


 その言葉だけで、また魔塔に来る楽しみが一つ増えた。


◇◇◇


 さらに上へ向かう昇降台の前で、イクスが足を止めた。


「ここから先は関係者だけが入れる区域です」


 扉の横には小さな魔法陣が描かれている。


「入館証を使います」


 イクスが自分のプレートをかざすと、魔法陣が淡く光った。カチリ、と静かな音がして扉が開いた。


「セリア様もどうぞ」


 少し緊張しながら、セリアは首から下げた入館証を取り出した。

 魔法陣に近づける。淡い光が広がり、再び鍵の外れる音が響いた。


「開きました……! 私の入館証でも、ここから先に入れるんですね」

「入館証には、治療日だけ通れるよう登録されています」

「そうなんですね。いつでも入れるのかと思ってしまいました」


 セリアが少し恥ずかしそうに笑うと、イクスも笑った。


◇◇◇


 昇降台で最上階まで上がり、治療室に向かって廊下を歩いていると、大きな窓が見えてきた。


「わあ……!」


 窓の向こうには王都の街並みが一望できた。

 遠くまで続く街並み。

 城壁。

 人々が行き交う通り。

 すべてが小さく見える。


「こんなに高いんですね……」

「魔塔は王都で一番高い建物ですから」


 セリアはしばらく景色に見入っていた。


「きれい……」

「夕日もすごくきれいなんですよ」


 イクスが窓の外を見ながら言う。


「空が真っ赤に染まって、この街全体が夕日に包まれるんです」

「見てみたいです」


 自然と笑みがこぼれた。


「もう少し遅い時間までいられる日には、見られるかもしれませんね。——そろそろ時間ですね」


 イクスに案内され、二人は治療室に向かった。

 扉を開けると、室内には治療用のベッドや魔法陣が整えられている。

 ほどなくして、ゼインが部屋に入ってきた。


「来たか」

「ゼイン様」


 セリアは嬉しそうに頭を下げた。


「案内は終わったか」

「はい。とても楽しかったです」


 その言葉に、ゼインは小さく頷いた。


「そうか」


 短い一言だったが、その声音はどこか柔らかかった。


「では、始める」


 治療が終わったら、あの紅茶を渡そう。

 そう考えながら、セリアは治療用のベッドに腰を下ろした。

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