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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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31/52

31.

 セリアは処置室で五回目の治療を受けていた。


「終わりだ」


 ゼインが静かに告げる。


「ありがとうございます」


 セリアはゆっくりと体を起こした。

 以前なら、そのままベッドに横になり、しばらく動くこともできなかった。

 けれど今は違う。

 少し疲れはあるものの、自分の足で立ち上がることができる。

 その様子を見て、ゼインも小さく頷いた。


「順調だな」


 そこに主治医が入ってきた。


「セリアさん、少しお話がありますので、会議室までお越しください。お母様にも来ていただいています」

「分かりました」


 主治医に案内され、セリアはゼインとともに会議室へ向かった。そこでは母がすでに待っていた。


◇◇◇


 椅子に座ると、机の上に図が広げられる。

 ゼインは魔力回路を示した図を指差した。


「ここが、一番流れの悪かった場所だ」


 以前はほとんど魔力が流れていなかった部分。

 だが今は、他の回路とほとんど変わらないほど改善していた。


「かなり良くなっている」


 セリアは思わず図を見つめた。


「残っているのは細かな詰まりだけだ。大きな治療は、あと数回で終われるだろう」


 その言葉に、セリアは目を見開いた。


「本当ですか……?」

「ああ」


 短い返事だったが、自信に満ちていた。

 主治医も笑顔で頷く。


「先日の外泊後も体調に大きな変化はありませんでした。今の状態なら、ご自宅から通院していただいて問題ないでしょう。入院生活は終了にしましょう」

「えっ……」


 思わず母と顔を見合わせる。


「退院……ですか?」

「はい」


 主治医は穏やかに微笑んだ。


「今後は通院に切り替えます」


 母の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「本当に……ありがとうございます」


 ゼインは静かに続ける。


「今後の魔力治療は、できれば魔塔で行いたい」

「魔塔で、ですか?」

「俺が療養院を往復する時間を仕事に回せる。もちろん、無理にとは言わない」


 セリアはすぐに頷いた。


「ぜひお願いします」

「では来週からは魔塔に来てくれ」


 ゼインも小さく頷き返す。

 主治医が話を引き継ぐ。


「退院後も、こちらで定期的に経過を確認します。何か少しでも体調に変化があれば、すぐに来院してください」

「はい」


 セリアは元気よく答えた。


「最初の健診は十日後を予定しています。その時の状態を見て、その後の通院間隔を決めていきましょう」

「分かりました」


 母も安心したように息をついた。


「本当に良かったわね、セリア」

「はい、お母様」


 二人は顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。


◇◇◇


 退院の準備があるため、母は一足先に屋敷に戻ることになった。


「明日迎えに来るわね」

「はい」


 母を見送った後、セリアは一人で療養院の中庭に向かった。

 色とりどりの花が風に揺れ、小鳥のさえずりが聞こえてくる。この景色も何度見ただろう。

 入院したばかりの頃は、ここまで来るだけで息が切れ、花を見る余裕さえなかった。

 今はゆっくり歩きながら、風に揺れる一輪一輪を眺めることができる。


「本当に元気になったんだなぁ……」


 自然と笑みがこぼれた。


 病室に戻ると、静かな部屋を見渡した。

 窓際の椅子。

 何冊もの本。

 長い時間を過ごしたベッド。


「この部屋で過ごすのも、今日が最後なんですね」


 苦しくて眠れない夜もあった。

 けれど、この部屋でオーレリアと出会い、ゼインの治療を受けることもできた。

 少しだけ寂しい気持ちになった。

 けれど、それ以上に嬉しかった。

 この部屋を出られる日を、ずっと夢見ていたのだから。


◇◇◇


 翌朝。

 荷物をまとめ、病室を出た。

 廊下に出ると、看護師たちが笑顔で待っていた。


「セリア様、ご退院おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「少し寂しくなりますね」


 一人の看護師がそう言うと、隣の看護師も頷いた。


「でも、お元気になられて本当に良かったです。どうか、今度は我慢せず、少しでもつらい時はおっしゃってくださいね」

「はい。今度はちゃんとお話しします」


 セリアは一人ひとりの顔を見ながら頭を下げる。


「皆さんには、本当にお世話になりました」


 主治医も穏やかな笑みを浮かべる。


「セリアさん、次は十日後の検診でお待ちしています」

「はい」


 玄関の先には、迎えに来た母が待っていた。


「ありがとうございました」


 セリアはもう一度だけ療養院を振り返ると、今度は前を向いて歩き出した。

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