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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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30/52

30.

 公爵家を出た後も、フレディは馬車の中で腕を組み、窓の外を眺めていた。


(おかしい)


 何度考えても納得できない。


(セリアが、あんなことを言うはずがない)


 『迷惑でした』

 その言葉が何度も頭の中で繰り返される。

 病気でつらい時も、寂しくないように何度も会いに行った。楽しい話をして、元気づけようともした。

 そんな自分を、迷惑だと思うはずがない。


(きっとオーレリアに何か言われたんだ)


 部屋に入った時には、オーレリアはセリアと二人で話をしていた。婚約者として嫉妬して、セリアに何か吹き込んだのだろう。


(そう考えれば全部つじつまが合う)


 フレディは少しだけ胸のつかえが取れた。


◇◇◇


 屋敷に戻ると、すぐに執務室に呼ばれた。

 部屋に入ると、父が厳しい表情で椅子に座っている。


「座りなさい」


 言われるまま向かいに腰を下ろす。

 しばらく沈黙が流れた後、父が静かに口を開いた。


「公爵家から婚約解消の申し入れがあった。以前から話は受けていたが、先ほど正式な書面が届いた」


 フレディは目を見開く。


「……正式に?」

「ああ」


 父は短く答えた。


「今日、オーレリア嬢にも言われただろう」

「ですが、おかしいじゃありませんか」


 思わず声を上げる。


「嫉妬くらいで婚約を解消するなんて、家同士の婚約ですよ?」

「……まだ、そんなことを言っているのか」


 父の声には、怒りよりも深い疲れが滲んでいた。


「以前にも話した。オーレリア嬢だけではない。セリア嬢も、医師も、ゼイン様も、お前を止めようとしていた」

「ですが、皆、誤解しているだけです。セリアは本当は——」

「もういい」


 父は静かに遮った。

 これ以上言葉を重ねても、届かない。

 そう悟ったような声だった。


「明日から領地に行け」

「……領地ですか?」

「そこで学んでこい」


 何を言われているのか分からなかった。


「何を学ぶんです?」


 父はフレディを真っすぐ見つめる。


「それも分からないから行かせるのだ」


 静かな声だった。

 だが、その一言は重かった。


「お前の従兄弟も来ている」

「従兄弟が?」

「ああ。領地経営を学ぶためにな」


 フレディより二つ年下の従兄弟だった。


「年下ですが……」

「年齢は関係ない」


 父はきっぱりと言う。


「見て、学べ」


 父は話は終わりだと示すように、フレディから視線を外した。


「今日はもう下がりなさい」


 フレディは納得できないまま部屋を後にした。

 扉が閉まると、執務室には父一人が残された。


 領地では、自分の一言や判断が多くの者の生活を左右する。人の言葉を聞けないままでは、いずれ取り返しのつかないことになる。


 父は一人、小さく目を閉じた。


「……今度こそ気づいてくれ」


 その呟きを受け止める者は、どこにもいなかった。


◇◇◇


 翌日。

 フレディは領地に向かう馬車に乗っていた。

 窓の外にはのどかな景色が広がっている。


(今は、みんな感情的になっているだけだ)


 しばらく時間を置けば、きっとセリアも本当の気持ちに気づく。

 王都に戻ったら、もう一度会いに行こう。

 今度はオーレリアのいないところで、二人だけで話せばいい。

 フレディはそう信じて疑わなかった。

 馬車は静かに王都を離れ、バーク侯爵領へと進んでいった。

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